早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

本宋斤句集  秋 8

2018-09-29 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集





定本宋斤句集  秋 8

北摂六瀬
      白日のしほからとんぼ透く羽
      蜻蛉に冬が来るなる山雨かな
      壁を塗る見ておもしろし蝗飛ぶ
      草露に易く獲らへし蝗かな
      はたはたの交める飛びし露朝日
蟲     蟲今宵もやひ筏の草茂り
      痛み居れば暁けをひた待ち蟲を聴く
      棧庭や今宵鳴きそむ蟲に倚る
      蟲寒し絶えずも鳴くにまた彼方

   左門殿江頭わたり
      釣りひとりうづくまり居り蟲の果て
      壁のうちたへず藁打ち蟲さむし
      さむくなる秋のたしかさ蟲の声
邯鄲    邯鄲を鳴かせて書架の抜き窪に
      かんたんを買ひてせめての奢りかな
 
朝 鈴   朝鈴に朝の掃き拭きまづ済みし
ちゝろ蟲  病苦句にいふや卑怯やちゝろ鳴く
      むし時雨往くほど道に昔あり
残る蟲   残る蟲地に委す燈あるからに
桐一葉   大地いま朝日みなぎり一葉あり

定本宋斤句集  秋 7

2018-09-26 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集






定本宋斤句集  秋 7

新薬師寺行
鹿      雲さむし奈良にて鹿を見ぬところ
秋の猫    草深く走り戻り來秋の猫
鳥渡る    桑の風ひとつら鳥の渡り來し
     木津川しもの渡舟場にて
       渡し場に夕たのしめば渡り鳥
     伏見稲荷神社
       参道の知らず空なる渡り鳥
       地車の岸和田の空鳥渡る
頬 白    茶どころに一閑庭や頬白啼く       
鵙      高鵙のおのが谺へ飛びしかな
雁      雁の夜なりすがる座敷杖
穴 惑    穴まどひ零餘子こぼしてのぼりゆく
秋 蛙    秋蛙土のいろして山に跳ぶ
みのむし   みの蟲のあまたに秋のうらゝ哉
       みのむしを夕暮れびとのゆびさしぬ
秋の蝶    秋の蝶峽たかたかと雲をゆく
蟷 螂    憎くざまの蟷螂飛べば青かりき
       かまきりは小智に傾ぐ顔もちて
     糺の森
つくぼうし  檜垣茶屋柱に啼きてつくぼうし
蜻 蛉    蜻蛉の入日にさはり來リけり
       とんぼうの深寝やかさと翅伏せて

定本宋斤句集  秋 6

2018-09-10 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集



定本宋斤句集  秋 6

砧      砧盤蟲のあがりてひげ長し
秋 扇    嘘いふてばかりにあふぐ秋扇
秋の燈    秋の燈の海にならべる家のかず
芦刈る    刈り入って舟尻のこす芦の中
鹿火屋    鹿火屋の戸押せば開くなれ山の音
       止々呂美の鹿火屋をしのぶ霧今宵
鹿 垣    鹿垣をまたぎ出て道亀岡へ
鹿 笛    ふところに鹿笛ありて野の寒し
焼 畠    焼畠を霧のぬらせば伏す煙
橡 餅    橡餅や霧につゝまれほろ苦し
祭り     みちみちの田舎も祭り尾花坂
       野をはさみ祭提燈小更けゝり
       盛りあげて鯖鮓秋まつり
秋彼岸    親の日が彼岸の入りや庭の秋
魂 祭    佛檀を隠居あづけに魂祭り
地蔵盆    住む町や展けのこされ地蔵盆
子規忌    子規忌來併修百六十句友嗚呼
一遍忌    一遍忌頃元弘の兵庫の津 
鬼貫忌    草の香は伊丹のはずれ鬼貫忌
道行忌    俳諧の時衆誰々遊行忌

定本宋斤句集  秋 5

2018-09-06 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集




定本宋斤句集  秋 5

秋の川    我が二階しづかと云はれ秋の川
      桟 庭
秋の水    秋の水膝で押しゆく板のうへ
       秋の水に金魚二つが戀をする
       
秋袷     川霧の朝より著たり秋袷
秋の燈    ほそみちの秋の燈の窓擦りゆけり
       病み居れば友にも甘え秋投下
鳩峰居
投下可親   燈下親し瓶の小魚の名を知らず
盆      ひとのように盆ゆく田舎ほしきかな
盆踊り    葛の葉はところの名にて盆おどり
花 火    旅ひとり欄にある花火かな
添 水    麓空雲のこづみも添水打つ
稲 舟    稲舟や娘も乗って夕日さし
秋 耕    秋耕や晴れて塩谷の遠き屋根
菊人形    あさましく動く手のあり菊人形
       菊人形顔かはいそう何処を視る
海贏うち   ふところに勝留め海贏と柿とかな
登 高    ふところにさし入る朝日登高す
夜 業    病んでゐてなによきものか夜業の燈
夜 学    星座仰いでしばらく遊ぶ夜学哉
砧      湖ひろく今宵の砧きこゑけり



定本宋斤句集  秋 4

2018-09-05 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


定本宋斤句集  秋 4

秋の聲    秋の聲舟はものいふ燈の合圖    
月      鐘楼は柿の中なり月彼方
     山崎宗鏡出生の地 江州志邦を訪ふ  
       夕月や支那さゝ波の古みなと
       良夜なる鷽の寝すがた籠に見る
居待月    月居待ち中座し歸る萩の闇
十六夜    十六夜の茶の花垣のしろさ哉
後の月    欄干へ舟つげて來ぬ後の月
天の川    旅といふほどにも來ねど天の川
       ひしひしと世がひゞくなり天の川
       病むもまたよかりし日あり天の川
流星     流星をたがひに知りて黙し居る
秋の雨    川欄を客のよろこぶ秋の雨
       秋雨のながめ筏にいさかへり
秋の山    案内の子に捨てられて秋の山
野の色    野の色に燈のひとつなく
花野     わが心放ちやりいる花野かな
秋の海    秋の海の雲に照りけり峠平
      東京より
       燈いるころ高輪にみる秋の海
      淡路由良
       由良の門に初来て秋の海のいろ
秋の波    秋の波の一歩にひかへ佇ちにけり