宋斤の俳句「早春」昭和十一年四月 第二十一巻四号 近詠 俳句
近詠
鳥交む雨に梢のぬぐはれて
調ふる春や田の水風の照る
武者繪を見て
義家はよき大将よ花霞
春愁の心をわれとさいなまん
風車賣りが宮磴のほりゆく
ときいろの乙女椿や夢つゝむ
猪は鼻を泪に涅槃像
太陽の舞ふてよろこぶ彼岸哉
春分や百合根に萌えて臺所
春月や甍いねたる湊山
蛤の閉ぢたる中のたつき哉
旅びとの朝のこゝろに芽の柳
我庵桟庭
桟庭へ降りる梯子の春日よき
うらゝかに桟の砂ざらざらと
つまみ雛ふたつ摘んでふたつ置く
ハンマ打ち打ちつ春水趨る波
宵浅く燈の笑ふ下さくら餅
風すこし寒し接木の藁に吹く
頂上の土が冷めたい春の山
春の夜の甘美に濁り水溜り
春晝や一騎の騎兵町を往く
竹を伐る
鳥の音の遠くて去らず竹を伐る
竹伐るや露打つ斧の谺して
夜業
夜業終へてみなもんぺいの立ちにけり
少女の夜業はなれて縫ひにけり
夜業して同じふるさと持ちにけり
早春社二月例會
こぼれ梅老のむしろを庭に敷く
こぼれ梅飛鳥のとある堂の縁
こぼれ梅野の日を足にながめけり
残寒やお庭の草履かたく穿く
残寒や人に見られて雛を割く
早春社三月句會 草の芽
草の芽やうちもあかるく塗箪笥
草の芽に旅を跼みて港見る
草の芽の照りくもりして浪の音
濱市のひるの乾きも春のみち
春のみち寒む寒む御陵尊けれ
春みち邊高きところに池の波
三月朔宵會
みちのべの池寒き波春の泥
きざはしの石の齒かけて春の泥
近詠
鳥交む雨に梢のぬぐはれて
調ふる春や田の水風の照る
武者繪を見て
義家はよき大将よ花霞
春愁の心をわれとさいなまん
風車賣りが宮磴のほりゆく
ときいろの乙女椿や夢つゝむ
猪は鼻を泪に涅槃像
太陽の舞ふてよろこぶ彼岸哉
春分や百合根に萌えて臺所
春月や甍いねたる湊山
蛤の閉ぢたる中のたつき哉
旅びとの朝のこゝろに芽の柳
我庵桟庭
桟庭へ降りる梯子の春日よき
うらゝかに桟の砂ざらざらと
つまみ雛ふたつ摘んでふたつ置く
ハンマ打ち打ちつ春水趨る波
宵浅く燈の笑ふ下さくら餅
風すこし寒し接木の藁に吹く
頂上の土が冷めたい春の山
春の夜の甘美に濁り水溜り
春晝や一騎の騎兵町を往く
竹を伐る
鳥の音の遠くて去らず竹を伐る
竹伐るや露打つ斧の谺して
夜業
夜業終へてみなもんぺいの立ちにけり
少女の夜業はなれて縫ひにけり
夜業して同じふるさと持ちにけり
早春社二月例會
こぼれ梅老のむしろを庭に敷く
こぼれ梅飛鳥のとある堂の縁
こぼれ梅野の日を足にながめけり
残寒やお庭の草履かたく穿く
残寒や人に見られて雛を割く
早春社三月句會 草の芽
草の芽やうちもあかるく塗箪笥
草の芽に旅を跼みて港見る
草の芽の照りくもりして浪の音
濱市のひるの乾きも春のみち
春のみち寒む寒む御陵尊けれ
春みち邊高きところに池の波
三月朔宵會
みちのべの池寒き波春の泥
きざはしの石の齒かけて春の泥