早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十一年四月 第二十一巻四号 近詠 俳句

2021-10-26 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十一年四月 第二十一巻四号 近詠 俳句

   近詠
鳥交む雨に梢のぬぐはれて

調ふる春や田の水風の照る

   武者繪を見て
義家はよき大将よ花霞

春愁の心をわれとさいなまん

風車賣りが宮磴のほりゆく

ときいろの乙女椿や夢つゝむ

猪は鼻を泪に涅槃像

太陽の舞ふてよろこぶ彼岸哉

春分や百合根に萌えて臺所

春月や甍いねたる湊山

蛤の閉ぢたる中のたつき哉

旅びとの朝のこゝろに芽の柳

我庵桟庭
桟庭へ降りる梯子の春日よき

うらゝかに桟の砂ざらざらと

つまみ雛ふたつ摘んでふたつ置く

ハンマ打ち打ちつ春水趨る波

宵浅く燈の笑ふ下さくら餅

風すこし寒し接木の藁に吹く

頂上の土が冷めたい春の山

春の夜の甘美に濁り水溜り

春晝や一騎の騎兵町を往く

   竹を伐る
鳥の音の遠くて去らず竹を伐る

竹伐るや露打つ斧の谺して

   夜業
夜業終へてみなもんぺいの立ちにけり

少女の夜業はなれて縫ひにけり

夜業して同じふるさと持ちにけり

   早春社二月例會
こぼれ梅老のむしろを庭に敷く

こぼれ梅飛鳥のとある堂の縁

こぼれ梅野の日を足にながめけり

残寒やお庭の草履かたく穿く

残寒や人に見られて雛を割く

   早春社三月句會 草の芽
草の芽やうちもあかるく塗箪笥

草の芽に旅を跼みて港見る

草の芽の照りくもりして浪の音

濱市のひるの乾きも春のみち

春のみち寒む寒む御陵尊けれ

春みち邊高きところに池の波

   三月朔宵會
みちのべの池寒き波春の泥

きざはしの石の齒かけて春の泥




  

宋斤の俳句「早春」昭和十一年三月 第二十一巻三号 近詠 俳句

2021-10-26 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十一年三月 第二十一巻三号 近詠 俳句

      近詠
朝踏みて早春の野をまつ直ぐに

春雪をにぎりかためて卵ほど

梅の空の雲へゆくなりものけむり

落椿盛られたる手を子のうれし

春水をたゝいて沈む小魚あり

夕暮れの凧下さるゝ空せまし

くぬぎ野の初蝶に眼を疑はず

囀りの雀ばかりや邑寒むく

城址やこゝに風呂地の菫咲く

春の徑の失せたり墻を越し易し

翌日の試驗星のふかさを仰ぎ彳つ

とかくして地震をさまりぬ芽の柳

下萌を踏むにいままた餘震あり

春の霜厚し舳に舸子の蹴る

底をゆく芥も生きて水温む

雪いつか春雨となり人の肩

蕗の臺土ねむる間を出たりけり

鮎の子の寸餘が口を結びたる

沍返りければ著ぶくれ安う居る

  浅春五題
  春めく
春めくや男の眼にも帶のころ

春めくや橋を渡れば水のいろ

  薄氷
彷へるあはきものなる薄氷

境内のしづかさを浮く薄氷

 草を焼く
巡錫の草焼を見て發たれけり

草焼きに時明かりして暮れ近く

 春落葉
こまやかに下駄につくなる春落葉

春落葉働く蟲の見えにけり

 田楽
田楽や野に來て心梅にあり

  早春社二月本句會
春枯れのそよぐとばかり雪ちれり

春枯れの露の甍の天龍寺

水鳥のうごきなければ水もまた

水鳥のあられのあとに増えにけり

春枯れて山からたてに朝の雲

  早春社無月一月例會
山輿や氷柱一本杖につく

  早春社欸乃一月例會
葉牡丹は春永の日に焦げ來り

宋斤の俳句「早春」昭和十一年二月 第二十一巻二号 近詠 俳句

2021-10-25 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十一年二月 第二十一巻二号 近詠 俳句

  近詠
日脚やゝ伸びたり旅を思ふのみ

一帆にひたと凍雲逮びけり

宿墨に水を足しては寒二句

隙間風頬をもてゆきてあたりけり

牧場や欄の根侵す寒の水

大寒の月西となり藪がしら

蓮骨に涸れのひと橋辨才天

寒凪の水の闇こそ蕩ぐかな

笹鳴や日南の沈む枯れの中

寒燈の窗々兵舎宵のほど

風花やなほ朝顔の枯れの葛

凍江や旦の鳥舞ふて往く

野施行の遅れ挑燈消えにけり

冬眠や鉢をまはすに河鹿の眼

寒雁のまぎれて雲のあきらかに

  雁山君令妹逝く
通夜更けぬ北國びとの雪語る

御佛の國にも降るや雪散華

  正月
正月の伊勢路に得たる古鈴哉

正月やひと日泊れば二日經つ

  早春社一月本句會
初渡舟入江の凪をすべり出づ  

初雲のそよぐとばかり上がりけり

行く年を野の一平に枯れ果てゝ

から風の吹いて青しや竹筏  

  闇汁會
闇汁へ遅參を入るゝ一包

  早春社六月十月例會
臼の音障子貼る手に來りけり



宋斤の俳句「早春」昭和十一年一月 第二十一巻一号 十周年記念刊 近詠 俳句

2021-10-22 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十一年一月 第二十一巻一号 十周年記念刊 近詠 俳句



  開歳吟詠
天つ神國つ社と初かすみ

海や雲遠う遠うに初東

しらしらと海くる雲が今年かな

東拜す一億人の大初日

あくる夜ぞ世ぞおほむかし元始祭

御鈴の儀いまも夢聴く元始祭

元始祭衿々たるに眞砂明く

初明り六方巌と定りぬ

たから船雲はろか海遠きより

日のものにあらぬはなけれ掃き始め

ひづひづと今朝の雪ふる臼飾り

たかたかと初雪來つる窗のうへ

大和ぬくしふところにある延壽箸

葉牡丹を三つ寄せ植えて白の大

骨そめ都霞や萬歳扇

   秋の魚
秋の魚霧の水面を沈みけり

柿うつる水にて秋の魚あそぶ

ひとつゞつ數讀めてゐる秋の魚

   乙亥納會
指の傷は印を彫りたり年用意

年木積む馬には赤きかざり哉

霜の苫の船から船をありく人

霜匂ふ屋根は崖より片流れ

   早春社霜月例會
冬日南硯の海のきらゝ哉

てぐさりのなだれ残りに冬日南

山水の障子にひゞき鷹のはれ

朝雲の閃々として鷹迅し

  ゴム薬品創立俳句會

一日の雲をうつして刈田水

大阪の冬定つて神農祭  



武庫早春支社創會
山の女や紅葉の中にまろき顔

時雨來て藪ひとゝころ風見ゆる    

  早春社洲本十月例會
菱の實のぬれいつまでも框かな





宋斤の俳句「早春」昭和十年十二月 第二十巻六号 近詠 俳句

2021-10-20 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年十二月 第二十巻六号 近詠 俳句

   近詠 
  三尾行

  桂
桂川芒老たる日の午かな

桂ゆく焚火ゆかしの山麓 

竹青く暦は冬を句餘せり

  嵐山
渡月橋をたゞ素通りに冬日南

  一茶亭にて
鶲らし障子のそとの南天に

卓上の肱冷やゝかに残菊と

陶床のあるを観てゐる芝枯に

鶺鴒の飛べばまた續ぐ水の閑

落葉焚くけむり跨ぎて嵐山

  太秦
太秦や櫻もみぢが休め畑

  高雄
石磴に降り惜しみ見る紅葉かな

しみしみと冬日あたれる紅葉かな



且つ散つて参差浮くなる紅葉かな



丹の橋や紅葉の底に人渡る



谷に降りてひろさを歩りく紅葉中



山紅葉散るをかむりて登るかな

紅葉

山笛鳴らし賣るは姦しい



初冬の丹の高尾寺紅葉いま



鐘文に山聲萬歳紅葉照る

  

和気清麻呂の墓

をくつきや紅葉登つて竹の冷



秋のこる筧の漏れに口漱ぎ



  山上の一亭にて

外竈けむらする冬浅き哉



山の女のたつつけの膝の毛糸哉



谷霧に紅葉注ぎてたひらかに



  槙尾

紅葉山鳥飛んで空蒼きかな



紅葉川中游こゝに曲がりけり



  栂尾

渓わたる紅葉秀の中寺の屋根



さへさへと三尾凪ぎたる山のいろ



  渓間を二粁・清瀧へ下る

紅葉山夕ぐれ低くなりにけり



渓みちの著莪に日南を戀ひにけり



血を飛んで地にまた降りぬ冬の鳥



蔦枯れて出水のあとを巌に見る



水仙歟らず生えたる矗々と



短日の見渡す崍か襟合す



山中の夕日一棚柿を賣る



  清滝

黄落を踏みゆくほどに冬らしも



苔を冠て藁家々々が冬そむる



清瀧や日の短かさの宿障子



紅葉散るや茶店に賣れる硯石



掌に撫して硯の齢冬日なる



宿の女の犬とたはむれ冬紅葉



仰ぎつゝ愛宕は亥子祭とぞ



京の田を暮れて歩りくや冬姿


   瀧
五本杉いづれ揃ふて爆を透く

爆風に空を空さすとんぼ哉

   神の旅
雲の中はしる白雲神の旅

拍手のうしろに谺神の留守

   小春
櫓の音を見て聞きすます小春哉

   冬の土
冬の土笛を落として汚れなく

   冬の蟲
住吉の燈籠の根の冬の蟲

冬の蟲水邊 となれば高き哉

   紅葉散る
浪音を風が奪へば散る紅葉

   早春社十一月本句會
萬年青の實日南あそんで知りにけり

月明やいまだ色なきおもとの實

林泉やこゝに小庭の萬年青の實

   丸紅俳句會
蝉時雨後架の窓に谷ふかし

川汲んで打つや夾竹桃の下

打水に洗足うれいしや女の子

庭ふかく水打つてゐる光かな

   紅吟會
遥かにも花火上つて舊山河

旅の夜は花火上るへ歩き行く

朝市の西瓜の端を跨ぎけり

晝寝する顔へ西瓜の來りけり

   阪急・草の實句會合同俳句會
二三戸の軒にながれて秋の水

蛇穴に入る露草の露の底

   保坂楓葉君追悼句會
露かなし逝きしといふが甘ケすぎ

鶏頭の露をしどゞにたくましく

鶏頭や莖も染みたち露紅