早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十八年一 月 第三十五巻一号 近詠 俳句

2023-09-25 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年一 月 第三十五巻一号 近詠 俳句

    近影

濤千里さへぎるはなし大初日

一年は捷ちて過ぎたり初仕事

初東安易を蹴つて拜しけり

八日御こと恐れ多くも読み初め

南冥を想ふ初日の軍艦旗

朞年また百年勝たむ卯杖かな

大濤の彼方勝国初御空

初日野に面かゞやかし若もの等

掌に盛りて壟土くろくろ年あらた

農村新年一舟ありて寒蘆凪ぐ

野を歩るき正月すると友の去る

落葉しめりを正月ごゝろ登りみち

極月に入つて小春の鳶鷗

河岸に住めばことに霜夜の船軋り

友の死を聞く再ならず凍夜の燈

寒林の底冬眠の焉とある

原稿紙字桁のうへを年走る

根深汁うごけぬ病ひにじり出て

菊に沁み南天に照り風の花

枯るゝもの枯れて平らか洽き日

お伊勢さまへ代参たゝせ師走風

   初富士
初富士に雲あつまって鎭むなる

初富士のもと人のゆく芒山

初富士やをちこちとして朝煙

黄落す家鴨の水のひと溜まり

秋ざまは門前の梭欄葉けいとう

縁に立ち山に程ある秋ぐもり

栗を藷を盆につぎつぎ湯気のもの

菊に來る音は外畑を耕せる

  北河内四條畷界隈
黄落とす鴨の水のひと溜まり

秋ざまは門前の梭欄葉けいとう

縁に立ち山に程ある秋ぐもり

栗を藷を盆につぎつぎ湯気のもの

菊に來る音は外畑を耕せる

  橋
鮎の水鐡橋架り人家なし

渡らずも龜の甲橋に花菖蒲

丹の橋や紅葉の底に人渡る

笹島が橋下にさやぎ甘酒屋

浴衣着てもたゝる片てすり

錢龜を賣つて薄暮の橋たもと

橋欄や左右の帆柱冬の夜

障子洗へばこれを受取る橋の欄

蓮池の隅の板橋家路なる

蓮池の隅の板橋家路なる












宋斤の俳句「早春」昭和十七年十二 月 第三十四巻六号 近詠 俳句

2023-09-25 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年十二 月 第三十四巻六号 近詠 俳句

  近詠
  十二月八日を迎ふ士気日本
初霜のひとつ落葉に濃かりけり

倖せを落穂ひとひつ申しけり

村の子のこゝろ苅田に親しめる

冬に入る鶏頭かげること多し   

冬ぬくゝ南天漂と疎なりけり


冬の燈はみなが寝てより頬にぬくし

稚き葉は白縁うたん枇杷の花

鷹の舞ふ蒼空雲のきれてゆく

筏解いてその一本に冬の人

街路樹の木の葉を拂ひ飯櫃畚賣れる

あやまちし墨のひろごり冴ゆる夜ぞ

冬籠り川に鷗のいまだ來ず

(脚痛)あるときは湯葉も憎しまゝならぬ

足袋を履く微塵つゞくりあたゝかし
暖擄の前に二三轉して忙し去る

短日の工場渡船銅鑼を打つ

石崖の日にかげ去りし鶲かな

石佛冬野の何處へ運ばるゝ

松凍てゝわだつうみ神白夜なる

冬日いでゝ川波遡るこまやかに

水鳥にかくれてやりぬ治水の碑

蓮の骨晴れて人馬の道高し

残月の茶室寫して硃砂根染む

山茶花の日透くはなびら散り易く

落葉坂下りためらへば登り來る



    新樹
朝はなれゆくにやみつゝ新樹雨

無帽見る鎌倉山は新樹なり

新樹一木ながうして橋のなし


    紅葉
紅葉山暾わたり露の梢にも

茶店焚く煙のかげが紅葉樹下

橋のうへ一木ひろごる紅葉かな