宋斤の俳句「早春」昭和十八年一 月 第三十五巻一号 近詠 俳句
近影
濤千里さへぎるはなし大初日
一年は捷ちて過ぎたり初仕事
初東安易を蹴つて拜しけり
八日御こと恐れ多くも読み初め
南冥を想ふ初日の軍艦旗
朞年また百年勝たむ卯杖かな
大濤の彼方勝国初御空
初日野に面かゞやかし若もの等
掌に盛りて壟土くろくろ年あらた
農村新年一舟ありて寒蘆凪ぐ
野を歩るき正月すると友の去る
落葉しめりを正月ごゝろ登りみち
極月に入つて小春の鳶鷗
河岸に住めばことに霜夜の船軋り
友の死を聞く再ならず凍夜の燈
寒林の底冬眠の焉とある
原稿紙字桁のうへを年走る
根深汁うごけぬ病ひにじり出て
菊に沁み南天に照り風の花
枯るゝもの枯れて平らか洽き日
お伊勢さまへ代参たゝせ師走風
初富士
初富士に雲あつまって鎭むなる |
初富士のもと人のゆく芒山 |
初富士やをちこちとして朝煙 |
黄落す家鴨の水のひと溜まり |
秋ざまは門前の梭欄葉けいとう |
縁に立ち山に程ある秋ぐもり |
栗を藷を盆につぎつぎ湯気のもの |
菊に來る音は外畑を耕せる |
北河内四條畷界隈
黄落とす鴨の水のひと溜まり
秋ざまは門前の梭欄葉けいとう
縁に立ち山に程ある秋ぐもり
栗を藷を盆につぎつぎ湯気のもの
菊に來る音は外畑を耕せる
橋
鮎の水鐡橋架り人家なし
渡らずも龜の甲橋に花菖蒲
丹の橋や紅葉の底に人渡る
笹島が橋下にさやぎ甘酒屋
浴衣着てもたゝる片てすり
錢龜を賣つて薄暮の橋たもと
橋欄や左右の帆柱冬の夜
障子洗へばこれを受取る橋の欄
蓮池の隅の板橋家路なる
蓮池の隅の板橋家路なる