早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十年六月 第十九巻六号 近詠 『甲信の山、越路の海』 

2021-09-19 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年六月 第十九巻六号 近詠『甲信の山、越路の海』

  甲信の山、越路の海

  長野
みすずかる信濃の國の花夜明け

  艸々居
花に来て炬燵に膝を入るゝかな

春炬燵窓の山々信濃来し

  まず二階より見る(一句)
山雲の花とわかたず善光寺

春蘭の花や塀すそ風こまか

  采鳥病むを見舞ふ
快くなれと思ふこゝろに庭の花

  善光寺
ひとむれの人花に佇ち善光寺

花の下たゞ一雨のみずたまり

御堂出て花散る肩ぞ善光寺

  屋代
草いまだ地に若ければ旅の足

  栗佐
椋鳥歟木の芽梢の朝群れて

畑打ちの仰いで晴るゝ一重山

ゆかり来て苗代の水も昔かな

  この地に四百年前我祖住めり
ここの土ここの草春匂ふかな

  松代 車中
見凝らすや川中島に立つ雲雀

水春を八幡原の草かすみ

  飯山 この地もまた祖先の故地なり
ふるさとを歩むおもひに春深し

飯山や春蘭置いて軒ふかし

一窓や花にまだある雪圍ひ

千曲川城址は花に埋もれて

ゆく春や咲ける櫻のかげを地に

行春の星の強さや杜のうへ

  岡谷千鳥園
花けふぞ湖の曇りをうしろして

湖や春ふかふかとつばくらめ 

湖かすみ富士の見えなば面り

一舟や諏訪湖は浪に花吹雪

園丁の落花掃きゆく湖の水

曇る日の暮れずも花の岬哉

  下諏訪
温泉にゆくはまがりまがつて廊下春

  下諏訪神社
御柱春雨にぬれ聳えけり

春雨の降る湖のうへ名残り哉

  甲州日野春
日野春や古きゆかりを春の雨

子供等になじまれて佇つ旅の春

  甲府 一泊
町ありくだけがたのしく春の宵

富士あまり近き驚き春の暁け

町の上の富士を仰いで旅獨り

  甲府城
芳草や城址登って道通ず

  長坂上條
鶯の中潜り入る木立かな

  龍岸寺 (この寺我氏祖の開基を発見)
蝶白しはるばると来し墓の前

  篠ノ井  若泉居
春の月あるかも忘れ窓語り

去ると立つ我の春陰惜しき哉

  長野駅 艸々君と別る
行く春の眞夜の寒さに旅ごろも

もの飲みて驛に別れの春ぞ沁む

  北陸へ 車中
柏原や一茶のところ朧寒む

越後路の山の夜見るも夏近し

ぐっすりと寝しかな春暁日本海

ゆく春の海沿ふ汽車に顔洗ふ

春嵐の濤を覗くや親不知

春曇りながらに越の海怒る

  魚津
この海や海市たゝずも静か波

立山の東仰げば春日闌く

汽車の窓海はなれきて颶 

  富山
街のさま汽車に望めば花ちれり

  高岡邉
春の川を渡る音して我汽車は

倶利伽藍を過ぎ来て知りし蝶の春

能州の皆が岬や春の波

  羽昨邉
花満開寒さ霧が叩けり

耕人の背を打つ霞春なりき

  和倉温泉
能登島や霞のあとの薄霞

辛き温泉を舐めても見たり徂く春ぞ

海風の荒しと佇てば松みどり

信濃より春風邪持参海の波

温泉の宿に黒磨りて居るひとり哉

  津幡よりバスにて金澤へ
街道や季春吹く風河北潟より

鳥雲や北からはいる金澤市

  金澤
   藤棚町
春ふかし方角を聞く■の闇

頬にふるゝ闇とおもひぬ残る春

このわたり家裏したしや遅椿

残春の雲おのづから夕して

夕風は石ころ屋根の蝶々かな

  湯桶温泉
静かさは崖の椿のたゞれかな

皐月山一窪焚けるけむりして

五月なる木の中遠き鳥の聲

若葉疎に一朶の雲もなかりけり

湯に浮かす旅のからだに春日かな

湯心地に旅はねむたさ水の音

粥餅坂
春の泥粥餅坂と聞くからに

  夕水楼宅(三句)
更けて戻ってまた句座となる春の宵

卓上や不順の寒さ金魚玉

朝となり夜となり旅に残る春

句會へのみち犀川の春の宵

  兼六公園
まいまいや金城靈澤の外ながれ

若楓琴柱燈籠水に脚

蜂泳ぐ空の明るさ菊ざくら

夏匂ふ蓬莱島の白き花

兼六の第一宏大新樹かな

渡らずも龜の甲橋に花菖蒲

翠瀧霞ヶ池もすでに夏

大空へ朝日櫻の名に咲きて

  金澤市見物
丘餘春むかしに尾山城下哉

町中の二川が挟む城餘春

  瀬 越
  竹の浦
明易く机に起きてしまひけり
 
あかときや白雲夏と竹の浦

短夜や水棹を聞いて障子ぬち


明くるより竹ゆく蝶や竹の浦

朝鳥立ち夏の空を高きかな

夏来る水のおもての朝くらみ

かへり見るうしろ明るし今年竹

耕人に言葉かけたく夏爽か

水馬二つは三つはさゞれ波

村ところところ葉櫻なづむ風

橋高くあぐる普請を行々子

掌に實梅のうれし冷かに

ものみなが夏のはじめの蝶々かな

夏汀ひとり佇ちふたり佇ちにけり

雁山へゆく邉みどりし一やしろ

行々子夕はしずかに宵となる

立夏の夜遠くは初雷仰ぎけり

夏蛙聞いての夜の物語り

若竹はたゞすこやかに月の下

若楓水見て雨を識りにけり

雨もまた竹の浦とぶ夏乙鳥

水の邉や雨明るさの幟竿

よし切りや餘春の雨の降りつのる

砂丘の松の間さらに菫かな

  瀬越鎮守白山神社
こゝに来て砂ひやゝかや餘花落花

  野々口立甫『此浦の花も若葉に月かしら』の句碑あり
若葉来て古人立甫の句碑の前

  西行法師歌塚
塚の空松籟に散る雲淡し

  竹の浦延命地蔵
青嵐に背をまかせて地蔵堂

  雁山郷邸
五月鯉故郷の空にあげてけり

夏の夜の畳に一葉若楓

蒲筵遠忌修して朝に踏む

薫風や村一宗が御初夜来る

山代温泉 田中屋一泊
夕そむる温泉に著きて若緑

温泉の街の消防屯所夏の宵

温泉山町のこゝら燈の果て夏寒し

温泉宿してあろじ晝を描く端居哉

  竹枝君と
暁の温泉に朗ら語りて衣を著けず

  山中温泉
   吉野屋
この旅の温泉に幾度ぞ竹床机

温泉の欄に河鹿を聞いて月日なし

夏浅し蟋蟀橋のおぼしまに

泉なるうぐひを活けて茶屋のかど

   蓮如上人遺跡
餘花の下老媼が鳴らす堂の鍵

大蕗の照る日に茂り山の水

   山中はこの日復興祭にて賑はし
狂ひ獅子の脚が五人も夏日陰
 
   那谷寺
春蝉の遠くて那谷の楓みち

岩屋佛拝み出れば若葉寒

   片山津温泉
夏めくや柴山潟の岸の波

麥に穂に見えて潟吹く風のいろ

潟の空それと白山夏匂ふ

囀りに潟の涼しや片山津

  篠原
   無藤實盛首洗ひ池
篠原や穂麥が中の石一の松

   實盛塚
松林の中展けたり夏の蝶

初夏晴れて實盛塚と榾積むと 

一堂のありしが廢れ松の花

  吉崎
吉崎へ道一筋や夏乙鳥
   
御忌すみし吉崎遠見若葉かな

朝夕に吉崎の杜夏がすみ

燈るは吉崎わたり蛙闇

 塩屋浦
大濤の打つは夏なれ舷に  

茂る間に日本海の見ゆる哉
 
鯛網のこゝより出づる餘春哉

初夏なれやチョンボリ山の松高く

  藍屋の俵温泉
舟遊の梯子あがって温泉哉

  辨天岩洞窟
魚涼し仰げば洞の岩燕

青嵐や箱眼鏡に覗く海の底

  鹿島
緑陰や加賀の鹿島に斧入らず

夏夕鹿島へ帰る烏ども

むかしより鹿島はまろし青嵐

  大聖寺町
   全昌寺町
著莪の花月日は石にそだちけり

若竹の朝のさやかに詣でけり

裏山やひとつあがりし初夏の雲

燒けあとに一木の柳葉なりけり

  金津
ひと宮の華表片根の躑躅哉

  三國
夏川に添ふよと見れば海の町

  東尋坊
五月晴れ沖飛ぶ姿鵜なりけり

青風は厳の目割れのすみれ草

沖一里雄島の茂り風に濡る

  海女を見る
落松葉踏み来て海女が衣を脱ぐ

海女が群れ涼しく岩に波に佇つ

皐月波海女こもごもと足を空

五月波ひくをつけ入る海女が肌

南風を海女がぬれ陸り來る

海女が肌青葉若葉に蹲り

  芦原温泉
往來して湯女が日傘も風情哉

温泉の匂ひ夏はしずかに肌は來る

   東尋坊にて再開の雁山夫妻一行と別れて二句の旅も帰路に向ふ

こゝかしこして春餘るなき帰心かな



宋斤の俳句「早春」昭和十年三月 第十九巻三号 近詠 俳句

2021-09-09 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年三月 第十九巻三号 近詠 俳句

  近詠
春風の雲のそらこそ光りけり

夜霞や町筋遠く神拝む

道ゆけば小山も超すや春の宵

壺にさし咲くはも彼岸ざくらかな

はこべらの花雨みづに浮きにけり

桃つぼみ渡月の中に抱へけり

みな啼いて梢に出たり春の鳥

畑境芹をつたふて家路かな

初蝶に逢ふてたのしもひとりゆく

朝の日の框に梅を貰ひある

早春の夜をしろくする空の雲

春寒くチロリの酒の匂ひなり

雛店に働く人に春日影

墓の井を椿がくれに汲める哉

浅さ浅さとしてや春の夜水のいろ

川の欄三とせを馴れて春夜半

何も食べずに河鹿が鳴くや春日南

からたちはなほ春浅し濠の波

鶺鴒の春知って飛ぶや水のうへ

知らぬ間の雨に土ぬれ春の晝

春の野に夜は人の住む障子哉

春の雲まことにひとつ浮きにけり

星鰈軒に吊られて春のもの

水煙草この頃吸わず春陰す

  天王寺正善院初庚申に参る
春泥を寒く詣でぬ初庚申

  不言不聞不見の三猿をおくは庚申堂の例なり
三猿に初庚申の悟り顔

   庚申に詣でて北面して蒟蒻を食ふは禁厭なり、境内蒟蒻店に殊に女子の百二百北向にむらがりて食べるの風習奇観なり
風花や庚申こんにやく人の渦

いみじさの庚申蒟蒻北斗星

庚申こんにやく串を落とすも春の闇

北向きこんにやく皆食って去るショール哉

庚申こんにやく肩笑ひ合ふ女の子

   また庚申昆布、北向昆布とて賣る出店境内に軒を並ぶ、購ひ歸りて六十に切り六十日間ニノ庚申まで日々食へば悪事災難を除くと
夜ろこんぶ火桶まどひの爪割きに

ふところに一巻帰る庚申昆布

   庚申昆布はその夜誰れ彼れに頒ち與へて福ありと即ち夜こんぶをよろこぶに通わせての故なり
夜ろこんぶ火桶まどひの爪割きに

ふところに一巻歸る庚申昆布



    冬来る
冬来る水の面のさりげなく

冬来る燈のまさしくも山寺哉

魚の中生きたる蝦や冬来る

    早春社二月本句會
温泉のみちや有るに馴れ行く芹の水

芹つむや山を此方へひな曇り

芹つんで冬の残れる田の面哉

水車春の道邉の暮れながら

春のみち寺門に入って鳩すゞめ

野は闇の春の小みちの一筋に

  早春社初例會
初筏汀の雪を突いて出づ

初筏國名川名と降りゆく

朝霧を木の葉浴びたり初筏

女等のさまざま焙る焚火かな

焚火より小手をかざして故山かな

  早春社無月例會
古艸にちつて厨のうろこ哉

燈籠の油も舐むや雪の鳥  

  早春社洲本鐘紡例會
すはや火事鋤鍬とつて霜を飛ぶ

  早春社わだつみ例會
極月の樹間のともし潜り入る

極月の水の昏さを覗きけり















  

宋斤の俳句「早春」昭和十年二月 第十九巻二号 近詠 俳句

2021-09-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年二月 第十九巻二号 近詠 俳句

  近詠
  大和室生寺にて (三句)
澄む冬を室生八峰雲不断

冬麗ら籾塔たつる掌
   注 籾塔は一寸七分の木彫古塔 往昔五穀成就祈願のため一棟に籾一粒を納めて相当数作られたと伝えられるが現存数は十幾等とか
千年の古材かるしや冬霞

水飛んで雌を越しけり鴛鴦の雄

大阪やまだ雪降らず生駒山

今朝の山近か近かと足袋の干ししづく

三歳るすの子のスキー靴穿いて見る

毛絲編み椿の日南まのあたり

鳰けふは居らずに眞ツ日南

山彦に招かれつゝも枯れをゆく

町の空朝のきれいな寒雀

寒肥や風水害の鉢木なる

  祝入榮子(眞銅ふじを君の祝送旗に書く)
軍国の春や股肱と召されつる

學生や東風に帽子の黒びかり

凍解の宿や赤繪の油壺

里霽れて梅に雷鳴りにけり
 
  淡路みくま山
城の冬松かさ人形賣りにけり

霜晴れの島の淡路に春近く

   海員帽自畫賛(淡洲丸船中同機関長に輿ふ)
これを冠つて凪も嵐も春をゆく

   壽盃吟抄
元朝の日天厳と極まりぬ

元朝や杉匂ふ中風匂ふ

歳旦や草ひろひろと樹たかたか

元旦や満珠干珠の島も玉

大初日いくさか濤をはなれけり

丹頂の雪ふるひたつ淑気哉

初鶴の嘴をそろへて東さす

丹頂やさ霧のひまを池にたつ

初風の伊勢路さき来つ天の春

初風の吹き入るからに穂長かな

初手水松の小中にかかりけり

炭籠の輪かざりをして雪の中

年の禮申し橘黄なるかな

初日南句案の膝をくみにけり

初かど出竹杖一竿つきなれを

初山に鳥居も小松まじり哉

筆立に筆をさがしつ去年今年

初日波かゞやくところ千鳥哉

初晴の雲の一點匂ひけり

船も島も港一灣初國旗

山頂や松に一戸の初國旗

たちかへる春を門前柳かな

初東風の葎枯れ中通ひけり

梅見れば山見れば初かすみ哉

枯草に春やあけたるやすらけく

年明けて落葉のうへの日南哉

うらゝかの堤景色を禮者哉

雪旦ふみてぞ出づる恵方かな

初伊勢の方に大日のあがりけり

初詣で伊勢へ旅路のみちの神

あら玉の東風にしらじら汀波

凧の子に旅たち添ひて居たりけり

梅のぞき水仙またぎ鶴太夫

若菜野のはるかにありぬ所不二

ふくさ藁に梅のこぼれを拾ひけり

永陽や石楠に花の芽ごしらへ

初山の焚火にばかり居たりけり

山はじめ花と枯れゐる檪かな

初日南来てしばらくす神の前

初春や蓬生ふるにたゝづみて

かど松を左右に入るや旅籠寺

正月や里のやしろに鈴をふる

正月や炭火にあつき掌

正月のまど の明るさ濤の音

正月の子供あふれて里もみち

野の風に正月の顔たてゝゆく

枯れ山のふかく正月ぬくき哉

みち往くに正月ぬくし噴井水

海村の夜は正月のくらさ哉

正月の山に吹きゆく小鳥笛

正月や山の埃を縁に踏む

正月の人集めけり城のうへ

正月の燈を木間より見上げけり

正月や山門入って甃

朝波にたちて正月ごころ哉

端居して正月ほがら霜の花

野木の空仰いでひとりお正月

正月やひと日泊れば二日經つ

日の坂を正月びとののぼりゆく

   夜寒
雑念を欄に立ち夜寒かな

宿の女に山をしへられ雲夜寒

ふところの句帳ぬいたる夜寒哉

  早春社初本句會
日あまねし鳳巾澄む下の鳰

山かつらいつとや晴れて凧の空

ひと日出て旅のこゝろにいかのぼり

  春袋  社にて初詣人にこれを授くるところあり
めでたさの黄をたゝみけり春袋

春袋紐の色若く長かりし

   闇汁會 師走の早春社年中行事 十六日 六橋観
闇汁の闇慣れてきて見ゆるもの

闇汁の二た釜も底すりにけり

   早春社無月例會
雪に照る山脈々と初湯まど

丹頂の凍てを動かす歩み哉




  

宋斤の俳句「早春」昭和十年一月 第十九巻一号 近詠 俳句

2021-09-03 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
「早春」昭和十年一月 第十九巻一号 近詠 俳句



   近詠
  歳旦頌
大胆や幹坤凍てゝ鶴一歩

元日の池邊に見る鶴正し

初日の出ひたしづもりに湖の水

照る水は歳明けたりぬ鳰

門さきの年となりたる柳かな

初空のすなはちあまつ日の光り

山の木の今朝はかはらず初風す

丹頂や嘴のよごれも㬢

恵方ゆく途の渡舟に晴たのし

初詣で樹の中肩に降る葉かな

向原や凧の下なる聲きこゆ

初雀舳にあるく二つかな

水澄みて深し初凪船の腹

御降りや家居めぐってこまやかに

初富士を仰ぐあぎとや松籟す

福壽草をさなさみちて咲けるかも

羽子の音の朗らか山は朝はろか

崕の霧しらみして井華水

射初めす人山茶花の散るに出づ

正月や白文鳥のこの朝な

柚子の玉初春夜は月明かり

春永の居るなる我と桔槹

箸紙や友の来る名を誰れ彼れと

蓬莱とならべて芭蕉座像かな

初綱や妻も子も曳く潮の花


井華水梅山花のかたはらに

  早春社友「いかにも正月らしいと思ふ俳句」照會から
思ひなく火桶に居たり三ヶ日

初日いま洽く山も海も哉

大君の地に花咲きて福壽草

正月の霞しとうて野に出づる

元朝や天のいろどり地のしらべ

明けてくる元旦濱のまさごかな

   尾花
とぼそより野のしろき見る尾花かな

ふかく来て尾花にあるは獵家かな

ところなれば川さかな焼く尾花かな

   秋風
秋の風湖に面し朝を行く

馬の蝿飛んでは遠し秋の風

秋風や山の上なる村の端

  栗
栗山やこゝに社の南透く

栗計る音やからりと峽の晴れ

大栗のこの實れる山を訪ねけり

  雪しまき
雪しまき竹にみどりを見する哉

  冬櫻
燈をあけて散るはなかりし冬櫻

  ふいご祭
野を前に一軒ふいご祭り哉

  早春社十二月本句會
涸れ涸れて横井戸風を吹きにけり

水涸れの兎の糞を掃きにけり

温泉ながれも沁み失せて涸磧かな

野は霞乙子朔日東山 

  早春社十一月例會
落葉掃いて神留守顔の仕丁哉

ふかふかと竹の小春が神の留守

梟の晝を見付けて神の留守

  早春社洲本
水鳥に語りてぞ行く傘の内

水鳥の一點はれし入江哉

庭宮に鈴をならすも冬ごもり



   早春社無月例會
厳神の留守なる木の葉ちりしきて

   早春社浪速例會
かど砧打ちかけありて月下哉

あち打てばこちは小刻む砧かな

   早春社日刊工業例會
行く秋の庭募るゝまで小鳥哉

行く秋を塔の手摺りにながめけり

   奉燈俳句會 金沢
穴のよな一間ありけり夜學寺

夜學みち往ける刈田となりけり

菊の中一鉢ばらのこぼれたる

  神戸又神俳句會
住みそめて立つ背戸口の野菊哉











宋斤の俳句「早春」昭和九年十二月 第十八巻六号 近詠 俳句

2021-09-01 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年十二月 第十八巻六号 近詠 俳句

   近詠
古甌にけふのおもひや冬立つ日

麓川町のかゝりの小春かな

笹鳴や墨の巾なるほそ硯

松楓初冬の荘の門邊して

棧庭や冬の匂ひが潮のほか

泉湧く波のこまかやか冬の凪

冬の菊を活けて乳をやる子の母の

冬の蝿眼をあたゝむる湯気に来し

學校になつて城址の八つ手花

冬の夜や潮ひき時を船下る  

鳥府も机邉の一ツ句屑拾つ

冬の川まつくらがりに筏かな

牧場の娘はらから野は霜に

駅一つ茶店も一軒冬ざれて

冬の海にちらばる島が夕日かな

冬日南瓦礫を踏んで入る戸かな

門といへどもすたれたり冬の蝶

泊舟の焚く火に明けて冬の星

埋み火にしてなほ立ちあえぬ机哉

靴下を満洲へ編む日向かな

錢蹴って拾ふてさりし冬の街

往き帰りに逢ふ公園の冬の人

炭舟の砂舟の冬ぐもり哉

家はざまが日南伸しぬ石蕗の花

   某朝のこと鶺鴒我家の障子ぬちにあり (15句)
鶺鴒をひと夜泊めたる障子かな

   我欄下道頓堀といえど盛場を去って筏の川港なり
鶺鴒が鳴いてむかしの梅津川

鶺鴒の座敷空とび冬日晴れ

家のうちを鶺鴒たゞに白く飛ぶ

鶺鴒はその尾を打つに書棚かな

考ふる顔に鶺鴒糞落す

鶺鴒のおびえてゐるがしなやかに

鶺鴒に乙女ごゝろを見たりけり

窮鳥を眼に弄び火桶かな

鶺鴒逃げよ障子開けやる川日南

鶺鴒よたのしむ我に遁げよ居よ

鶺鴒のいま飛ぶ欄に尾を打って

鶺鴒のつんつん飛んで町しゞま

鶺鴒に徒然麻の久しかり

   草の香
草の香に沈みて家のともりけり

   花野
毎日の雲の夕ぐれ花野かな

行李飯花野の石に拂ひけり

   地蟲鳴く
すさまじき芭蕉の林地蟲なく

押賣の去なぬかど口地虫鳴く

地むしなくや大寒むかろと筵やる

   宋斤先生歓迎俳句會 淡路洲本公会堂 十月二十五日
紅葉来て夕べ潜るに瀦

いちまいの眞紅きさめるもみぢ哉

秋の聲一壺の水にうつるもの

   浜濱より秋月居まで
舟ついて舊知にまみゆ秋日はれ

濱砂の歩に吹き立つや秋の風

潮騒を踏まじと踏みぬ秋の濱

久に来し此の島なれや秋とこそ

旅なれや魚臭なつかし秋深み

家間ひのとあるをぬけぬ秋日影

此のあたり會遊の道や柿も賣る

町いつと山の登りや草紅葉

訪ふて先づは二階に秋の海

秋の海遠ち方島のまぎれけり

石蕗咲いて庭は山なる日南哉

茸生へて庭なれはなり石蕗の花

この窓も又山かげや秋深し

ひとゝころ高水落ちて秋の庭

山庭の噴水秋と上りけり

句など晝など書いてふりむく秋の山

島に居ることを忘れて秋の蝶

船心地今にしあるや秋館

秋の山照りくもりして潮もかな

    口連吟
よべ逢ふてまた朝菊に語る哉

句にあけて今日は拾ひし秋日和

秋の朝山に雲湧く東か

秋はれを槇は常芽に光けり

松無惨の颱風いまに秋の晴れ

山鴉とんぼうもまた秋のはれ

雲秋の山上なにゝ住ひける

この棟の雀を聞いて秋に居る

朝を来る雀に秋の晴れたかし

いにしへをながれて秋の物部川

ゆきたしと見て秋はれの山上寺

   三熊山吟行 
    三熊山を越えて天主閣に展望し、海邉の四州園まで 
   四州園口吟
秋山に入る道べなり石蕗の花

山道や秋行遅速おのづから

残る蟲岩割り櫻と教へられ

露の秋拾ふ芝ヱの木の葉錢

秋の山此の所より城址なり

つま先に木の實はぬれてゐたりけり

天守閣に登らずあれど秋の晴

冷かに日天月天井戸の水

山中に一水湛へさす紅葉行

蟷螂の老いたる掌に山路ゆく

蟷螂の枯れたる色も土の秋

山上に語り笑ふて雲は秋

木の實拾ふて疊の上に友待てり

木の實ふむ音に秋興そゝる哉

先生の碑と汝が彳つ露の秋

山歸來足にかゝるも秋なれや

山歸來露の乾きに蟲喰める

柴の女がゆきずり見する菌哉

秋の花みな菊をして露しとゞ

   埠頭より天女丸より
秋の海浪あれけれど去りおしみ

   早春社十一月本句會
明治節町野の空と歩きけり

明治天皇とはに在すや菊の空

  早春社十月例會
逃げ水の草原しむが秋のかど

寺町やこゝに石屋の秋のかど

かど秋や夕はきたる塔のかげ

  初歩俳句會
湖透いて舟往く見ゆる紅葉かな

霧なほもぬらす朝日の紅葉かな

  早春社日刊工業新聞例會
朝寒の木の實机上にひろひ來し

朝寒や石の上なる栗の桝

コスモスに沈みてなしや山の霧

  故田中瓦生追悼句會 伊丹 墨染寺
  追悼
朝にたつ野分のあとの泉哉

  兼題蓮
蓮池は遠き光に秋ざれぬ