早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十四年十一月 第二十八巻五号 近詠 俳句

2022-03-04 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十四年十一月 第二十八巻五号 近詠 俳句

    近詠
出來秋や山から水のひとすじす

蟲時雨雲金色が天を掻く

木の實敷きて山は月日をこのまゝに

夕ぐれや一葉二葉す桐その他

柿實るを見ては故郷がほしきかな

朝寒のでんでんむしを掃きためし 

ダリヤより菊にうつりつ朝ごゝろ

桟庭に野菊咲きたれ船の擦る 

毎日の出水や樽に紫花咲く

ながき夜の部屋ぬち凡そ句材穀

水抱いて秋の林の細木かな

野のいろの牧場ばかりうごめける

鶺鴒の筏にげては厨の屋根

堤下このみ歩りくにいなご老ゆ

この山の雪も踏みけり吾亦紅

露秋や猫はけだもの野をとべり

秋光やこの窓鳥の外不知

空襲警報白夜都人に冷まじく

冬近き閑かさ菊に紅葉して

  新涼
新涼の風見ゆるなり窓の先き

新涼や水の早きに木の葉あり

新涼の雲とめそびて船のうへ

  茄子の花
こゝろまだ野の埃りに茄子の花

茄子の花凡そ露の疎なりけり

茄子の花しつかり肥に咲にけり

墓所ゆけば花さく茄子に人住める
 
  住吉秋宵
大濤の胸來るひびき星月夜

星月夜一木の肌さくらにて

渓向ひの机の上に柘榴ある

   早春社十月本句會
竹の春降つて朝日のうるみかな

朝月夜旅をかさねて家路なる
  
   一王山十善寺吟行
みち草の莖のくれない山気かな

とんぼうの露をはなれず草の秋

さはやかに川よりも軒の走り水

草の實の澁さを吐けばこだまして

薄紅葉汗いまのほど快く

秋の風楓ふかきに見ゆるかな

山内や雀に晴れて秋ふかし

鐘楼を咫尺に秋の二階かな

秋日南藪うごきなくゆれにけり

人の來ては無駄撞く鐘の秋の山

竹の春雲かげる時ゆれにけり