宋斤の俳句「早春」昭和十一年七月 第二十二巻一号 近詠 俳句
近詠
厳しさを仰ぎなつかし東郷忌
若竹の夕墓冷のる蛾なりけり
道頓忌道頓堀の河しもに
夏の神武士ある中の道頓忌
雲涼しく四阿にある一書かな
河内路の樟若葉なり菊水忌
馬市や尺蠖垂れて雨はれて
心太御堂の砂にこぼしけり
晝顔の丘がくれなる温泉宿かな
壁土におびただしさの松落葉
かたばみのやくざが咲いて鉢の露
日ざかりをしきりと炭を倉に積む
風鈴のならす目高の浮きめぐる
門内や菖蒲葺きゐる女の手
あかつきを放歌しきたるボートあり
蝙蝠のもどる川空明けてきつ
鶯の尾の抜けしも揃ひ梅雨降らず
早乙女のあした早くにならび来ぬ
虹たつといひすてゝ苫を人の入る
藁塚
藁塚に来てもたれ居ぬ角兵衛獅子
藁塚の並ぶすき間の障子かな
藁塚の外にもぬくし崩れ藁
苣
苣畑細みづながら雲うつす
伊勢参
朝鴉空ゆく神路伊勢詣り
伊勢参り泊まりて海のおぼろかな
杉の下に踏む薄氷伊勢詣で
第十回楠公忌 瀬田川吟行
湖べりを皆あるくといふ夏つばめ
霽れてゆく雨の水輪の夏の湖
ふたみちの若葉登つて 遇ひにけり
雨あかり日照れば湖に雲の峰
白藤の夏浅きかな瀬田の水
幻住庵
落書きのみな句なりけり椎の花
湖空を忘れ居らねどつゝじ山
夏霞ふもとの雛を聞きすみぬ
名の清水若葉中より散る葉して
春蝉の椎の匂ふにむせびけり
義仲寺
薫風の吹き入るほどに芭蕉塚
義仲寺を出ては町並み夏の夕
朔宵會
花近くたゝずむ水の面かな
花近し桔槹汲みて仰ぐなる
花近し行人水に映りつゝ
花近しいづこと鳩のふくらみ鳴く
野の空の夕の低さ花近し
坂瀬川吟行
春の風荷物自動車榾積んで
康徳学院を廻れば宝塚ゴルフ場
芝原を流るゝ夕日彼岸すぎ
寶梅園
梅の花畑はみかんに茶も少し
梅の中迷ふて雲の夕べなり
雪渓
雪渓に鳥かすかなる風のさま
雪渓にはるかに草の乾きふむ
噴井
心なく噴井の鳥を追ひにけり
里となる神の裏山噴井哉
闘魚
ちりちりと岩に尾鰭を闘魚哉
朝の縁闘魚の上の鸚鵡哉
キャンプ
晝顔の花にキャンプの旦かな
ひろびろと砂に座りてキャンプ哉
蚊帳
蚊帳の夜の直近に透ける池心哉
幾人のくゞり入りけり船の㡡
早春社六月本句會
垣茨通る娘の唄ひゐる
雨をゆく馬のつやゝか花いばら
とり散らす本の中なる磁枕哉
陶枕に朝の日南のわたりどの
陶枕にねて眼のさきのよひら哉
早春社無月四月例會
花吹雪沖横川忌いさぎよし
早春社立春四月例會
一すじに汐干中川迅きかな
近詠
厳しさを仰ぎなつかし東郷忌
若竹の夕墓冷のる蛾なりけり
道頓忌道頓堀の河しもに
夏の神武士ある中の道頓忌
雲涼しく四阿にある一書かな
河内路の樟若葉なり菊水忌
馬市や尺蠖垂れて雨はれて
心太御堂の砂にこぼしけり
晝顔の丘がくれなる温泉宿かな
壁土におびただしさの松落葉
かたばみのやくざが咲いて鉢の露
日ざかりをしきりと炭を倉に積む
風鈴のならす目高の浮きめぐる
門内や菖蒲葺きゐる女の手
あかつきを放歌しきたるボートあり
蝙蝠のもどる川空明けてきつ
鶯の尾の抜けしも揃ひ梅雨降らず
早乙女のあした早くにならび来ぬ
虹たつといひすてゝ苫を人の入る
藁塚
藁塚に来てもたれ居ぬ角兵衛獅子
藁塚の並ぶすき間の障子かな
藁塚の外にもぬくし崩れ藁
苣
苣畑細みづながら雲うつす
伊勢参
朝鴉空ゆく神路伊勢詣り
伊勢参り泊まりて海のおぼろかな
杉の下に踏む薄氷伊勢詣で
第十回楠公忌 瀬田川吟行
湖べりを皆あるくといふ夏つばめ
霽れてゆく雨の水輪の夏の湖
ふたみちの若葉登つて 遇ひにけり
雨あかり日照れば湖に雲の峰
白藤の夏浅きかな瀬田の水
幻住庵
落書きのみな句なりけり椎の花
湖空を忘れ居らねどつゝじ山
夏霞ふもとの雛を聞きすみぬ
名の清水若葉中より散る葉して
春蝉の椎の匂ふにむせびけり
義仲寺
薫風の吹き入るほどに芭蕉塚
義仲寺を出ては町並み夏の夕
朔宵會
花近くたゝずむ水の面かな
花近し桔槹汲みて仰ぐなる
花近し行人水に映りつゝ
花近しいづこと鳩のふくらみ鳴く
野の空の夕の低さ花近し
坂瀬川吟行
春の風荷物自動車榾積んで
康徳学院を廻れば宝塚ゴルフ場
芝原を流るゝ夕日彼岸すぎ
寶梅園
梅の花畑はみかんに茶も少し
梅の中迷ふて雲の夕べなり
雪渓
雪渓に鳥かすかなる風のさま
雪渓にはるかに草の乾きふむ
噴井
心なく噴井の鳥を追ひにけり
里となる神の裏山噴井哉
闘魚
ちりちりと岩に尾鰭を闘魚哉
朝の縁闘魚の上の鸚鵡哉
キャンプ
晝顔の花にキャンプの旦かな
ひろびろと砂に座りてキャンプ哉
蚊帳
蚊帳の夜の直近に透ける池心哉
幾人のくゞり入りけり船の㡡
早春社六月本句會
垣茨通る娘の唄ひゐる
雨をゆく馬のつやゝか花いばら
とり散らす本の中なる磁枕哉
陶枕に朝の日南のわたりどの
陶枕にねて眼のさきのよひら哉
早春社無月四月例會
花吹雪沖横川忌いさぎよし
早春社立春四月例會
一すじに汐干中川迅きかな