早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十一年七月 第二十二巻一号 近詠 俳句

2021-12-30 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十一年七月 第二十二巻一号 近詠 俳句

   近詠
厳しさを仰ぎなつかし東郷忌

若竹の夕墓冷のる蛾なりけり

道頓忌道頓堀の河しもに

夏の神武士ある中の道頓忌

雲涼しく四阿にある一書かな

河内路の樟若葉なり菊水忌

馬市や尺蠖垂れて雨はれて

心太御堂の砂にこぼしけり

晝顔の丘がくれなる温泉宿かな

壁土におびただしさの松落葉

かたばみのやくざが咲いて鉢の露

日ざかりをしきりと炭を倉に積む

風鈴のならす目高の浮きめぐる

門内や菖蒲葺きゐる女の手

あかつきを放歌しきたるボートあり

蝙蝠のもどる川空明けてきつ

鶯の尾の抜けしも揃ひ梅雨降らず

早乙女のあした早くにならび来ぬ

虹たつといひすてゝ苫を人の入る

  藁塚
藁塚に来てもたれ居ぬ角兵衛獅子

藁塚の並ぶすき間の障子かな

藁塚の外にもぬくし崩れ藁

  苣
苣畑細みづながら雲うつす

  伊勢参
朝鴉空ゆく神路伊勢詣り

伊勢参り泊まりて海のおぼろかな

杉の下に踏む薄氷伊勢詣で

  第十回楠公忌 瀬田川吟行  

湖べりを皆あるくといふ夏つばめ

霽れてゆく雨の水輪の夏の湖

ふたみちの若葉登つて 遇ひにけり

雨あかり日照れば湖に雲の峰

白藤の夏浅きかな瀬田の水

   幻住庵
落書きのみな句なりけり椎の花

湖空を忘れ居らねどつゝじ山

夏霞ふもとの雛を聞きすみぬ

名の清水若葉中より散る葉して

春蝉の椎の匂ふにむせびけり

   義仲寺
薫風の吹き入るほどに芭蕉塚

義仲寺を出ては町並み夏の夕

  朔宵會
花近くたゝずむ水の面かな

花近し桔槹汲みて仰ぐなる

花近し行人水に映りつゝ

花近しいづこと鳩のふくらみ鳴く

野の空の夕の低さ花近し

  坂瀬川吟行
春の風荷物自動車榾積んで

  康徳学院を廻れば宝塚ゴルフ場
芝原を流るゝ夕日彼岸すぎ

  寶梅園
梅の花畑はみかんに茶も少し

梅の中迷ふて雲の夕べなり

  雪渓
雪渓に鳥かすかなる風のさま

雪渓にはるかに草の乾きふむ

  噴井
心なく噴井の鳥を追ひにけり

里となる神の裏山噴井哉

  闘魚
ちりちりと岩に尾鰭を闘魚哉

朝の縁闘魚の上の鸚鵡哉

  キャンプ
晝顔の花にキャンプの旦かな

ひろびろと砂に座りてキャンプ哉

  蚊帳
蚊帳の夜の直近に透ける池心哉

幾人のくゞり入りけり船の㡡

  早春社六月本句會
垣茨通る娘の唄ひゐる

雨をゆく馬のつやゝか花いばら

とり散らす本の中なる磁枕哉

陶枕に朝の日南のわたりどの

陶枕にねて眼のさきのよひら哉

  早春社無月四月例會
花吹雪沖横川忌いさぎよし

  早春社立春四月例會
一すじに汐干中川迅きかな

  

宋斤の俳句「早春」昭和十二年三月 第二十三巻三号 近詠

2021-12-22 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年三月 第二十三巻三号 近詠

春潮の寒さは鳥の高きかな

砂濱や稚松そだちて東風の宮

魚棚に魚族見て佇つ春浅き

黄梅の捨て咲きに風如月す

紀元節今朝の机に梅の花
霧雨の降ってなほなほ水温む

春炬燵出てさらぬ気に答へけり

春の雨菫の土の鉢ぬる

春宵の窓開けし手がまた閉ぢし

青き踏んで想ひ出すことみな遠し

シャボン玉行人背を逃げ切らず

今年ほどぬくきは知らず蕗の薹

春の夜こゝら船具屋大碇

飛行場へゆく道の葱春の風

人ぬくゝ茶店に床几選み居る

春の闇柳下に舳あつまれる

吟行子みな仰ぎつる春の雁

山神に谺食はれて春の盡

飛び飛びに野を焼きそめし火の舌よ

   菊五郎の潮汲を観る
双の桶春のおぼろを汲みて舞ふ


  藁塚

藁塚に来てもたれ居ぬ角兵衛獅子

藁塚の並ぶすき間の障子かな

藁塚の外にもぬくし崩れ藁

  磯遊び
磯遊び夜はおばしまに月を見る

磯遊び戻りを蓬つみにけり


  住吉より奈良へ
正月や住吉四社の御扉

住吉を奈良に来たりぬ神の春

  手向山
新春の夕日を見惚れ三笠山

冬顔の角なき鹿に夕日さす

  大仏殿
初春や池中島に華表澄む

芝踏みて歸る足なり奈良暮れる

春日山ふりかへる毎冬の暮れ

芝冬に歸りほぐれの鹿の尻

かれ柳池をめぐりて雲遠し

奈良の宿屋に正月ごゝろ呼ばれゐる

   早春社二月本句會
夕かすみ水に蜆の肥ゆる哉

春浅きものゝ圓らの蜆貝

降る雨にはこべらぬくき茂り哉

挿してより菜の花のちるあたゝかし

小波のひろひろとあるは暖かし
 
  無月会四條畷行
冬日向糸瓜の水とりすてに

立札や名のみ瀧に冬紅葉

残菊の鉢にも粉もに

冬やゝにふかし紅葉に無風なる

南天にひと時の日の冬の庭

 
泉すむ秋立ちて今日幾日かな

この壺のつめたさ秋は膝の上

            


宋斤の俳句「早春」昭和十二年二月 第二十三巻二号 近詠

2021-12-20 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年二月 第二十三巻二号 近詠

松すぎし白南天のこぼれかな

寒鳥田舎の空の久振り

家内中達者でみなが風邪ひいて

煮凝や鍋の底なる鰈二枚

消防車の遠き警笛橋に出づ

  難波の網曳
冬あたたかに百貫の縄籠となる

九頭の龍いまは尾を綯ふよいよいよい

  天王寺のどやどや
    どやどやに就く若者等の紅陣は先づ茶臼山堀越神社前に集ひ神酒を戴き神印を捺して貰ふ
背に腹に朱印べたべたすまひ取

どやどやや判捺されゐる酔ふた腹

篝火の點いてどやどや今が今

冬麗ら丘をひと筋路わたる

冬の日の塵を掃き込む穴ふかし

煤降りて空冬の雲とゞまれる

芒枯れて道のあるなり何處ゆく

水仙のもつれ離せば葉の素直

露西亜が着るラッコの帽子着慣れけり

霜白く荷車に橋の高くなり

橋欄や左右の帆柱冬の夜

寒天に高き燈ありて星のほか

鶯飼えばある日の聲が春近き







  早春社初本句會

  若潮
若潮の花咲き寄せて大あした

若潮につばさをさめて鳥浮きぬ

松の奥若潮闇に聲ありぬ

初かど出松いにしへに雪の降る

初戸出の空ふかふかと一碧に

初戸出の着きて渡るや神の橋

冬曇り落葉地をゆくおびたゞし
 
  近松忌俳句大會
近松忌さくら散る葉でうつくしき

  早春社無月十二月例會
凧澄みて藁家々々の初日かな

東方の空のかがやき今年哉

  早春社立春十二月例會
枯草の霰をためて夜に入るや






宋斤の俳句「早春」昭和十二年一月 第二十三巻一号 近詠

2021-12-03 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十二年一月 第二十三巻一号 近詠
  
   皇紀二千五百九十七年 元旦

 田家雪
田の家の初影とこそ雪に伸ぶ

住み足ろう雪の田家の松かざり

いねつみてふかふか雪の田家

元旦のみちに日南を失はず

百船の舳を艫を初日影

あめつちを支うる柱初東風の

全山の梢や迎ふ初光り

初凪の街廣うその眞中往く

門松を湖へゆくほど深雪かな

山岡を一途年賀に參るかな

年賀状に句もなくなりし彼等なれ

初句會酔っては居れど破せつけん

大ほぺん吹いて金箔ひらひらす

正月や遠見柳の枯れ林

初鴉一雲なきを渡りけり

鶯馴れて初餌やる手をつゝきけり

冬椿紅千々と畳みける

猪のどた場涸れたる霜しろし

アパートの燈の窗賞興みな入りき

極月に稀有のぬくさ夜の蝿

確信す落葉を踏みてゆくうちに


   かたばみ
星明りかたばみ草の石に咲く

小さき風かたばみの花ほの紅に

   春の夢
春の夢見のこしてゐる海の果

春の夢明眸海とひろがりぬ

雲の穴またぎまたぎて春の夢

春の夢朱唇の中にめざめたり

   秋祭
夜となりて山おほいなり在まつり

秋まつり宿場すたれて見て通る

山みづの溝に走りて秋祭

  早春社十二月本句會
煤降って雨やみにけり冬の夕

冬の夕厨焚くけむり草の地を

川の水鉛とありて冬の夕

さまざまの年の暮れ見て夜番哉

燈に出でゝ老いさらしてる夜番哉

川岸に下りてゐいる燈の夜番哉

  早春社十一月例會 六橋観
ちり紅葉西見て居るにいつ暮れて

ちり紅葉打ちひろがりて汀かな

野明りに塀の紅葉のちりゆけり

  早春社立春十一月例會
一庵や鹿垣づたひ露ふかく

  山崎冬尊氏記念句會
寒山が拳ひらけば栗一つ








宋斤の俳句「早春」昭和十一年十二月 第二十二巻六号 近詠 

2021-12-02 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十一年十二月 第二十二巻六号 近詠 

冬ざれの野に焚く煙いくところ

冬凪やめぐるに池照り曇り

野の乾き冬の雲雀の低うゆく

積藁にもたれて耳に飛機の消ゆ

返り花その英の涼しさよ

北風の雲が生むなる雲白し

  久々知廣清寺の近松忌に参りて
掛稲に晝の挑燈近松忌

冬紅葉の平安堂忌墓どころ

夜は寺に浮瑠璃ありて近松忌

干菜垣に碑の手紙讀むことながし

こち向いて鳰浮くたび沈むたび

闇汁の闇とはならず川明かり

夜を更かし居れば時雨のきほひ降る

我かげの壁に伸びしは風邪の神

編むほどの毛絲いつまでも袂から

短日の雲龍柳風を着る

  河内四條畷にて
山下りて菊にたつなり冬の人

山茶花の咲きたゞれたるは冬ぬくし

かれ櫻直ぐなる枝はにぎやかに

苜蓿海より吹いて風ひろし

苜蓿このみち町へ女往く

水門へ少しなだれて苜蓿

濤の空の明るさ鶴來る

鶴來る空に夢とも晝の月

山中に盤石平ら鶴來る

一帆の空鶴來る遅速かな

   早春社十一月本句會
露枯野ちかちかと日の昇りけり

石に居て枯野の露に眸を落とす

そゞろ寒納豆を飯にぬりつける

そゞろ寒柳細木のたれにけり

障子ぬち燈の動き去りそゞろ寒

   早春社阪急九月例會
陶の冷むるが土に秋の聲

丘となくありて夜の砂澄める哉

   早春社立春十月例會
草を來て門の夜寒が南禅寺

   早春社六月十月例會
山茶花や風呂のけむりの遠くなる