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定本宋斤句集 夏 11
月見草 夕なみのこころに安し月見草
待宵草 待宵草や一驛乗って汽車を捨つ
早 苗 傘さして往来時折早苗降り
蔘 犬蔘に雀も山の小鳥かな
一つ葉 室生寺の釣り一つ葉に朝起きし
一つ葉をまるくし吊るが欄の夏
真珠庵にて
沙羅双樹 天雲や沙羅双樹の花咲き揺るゝ
鈴 蘭 しら紙に鈴蘭つゝみあまりけり
女貞花 空梅雨にちりしくものや女貞花
凌霄花 凌霄や土塀は大和奈良はずれ
酸漿草 かたばみのやくざが咲いて鉢の露
菅生天神
實桜 さくら實となれる下枝に眉よせぬ
濱万年青 濱万年青の實生と知りし夏日かな
大野櫻里君より江州の日野の石楠を今年も送られて
石楠花 石楠花を抱えて日野の飛脚かな
昨夏大和室生句会にてもらひたるせきこく我が家の庭に咲く
石斛 石斛の花のほの香は室生かな
棕櫚の花 街中や棕櫚花咲きて醫の溝
紫陽花 紫陽花の花穀雨をこぼれけり
青柿 みも涼し青梅に手も届くかな
朴の花 朴の花會遊の丹生のこの頃に
山ぐみ 山茱萸を小門に覗き岡の坂
檜 扇 檜扇は花出すかさね扇より
渓間を二粁八清瀧へ下る
著 莪 渓みちの著莪に日南を戀ひにけり
檀の花 石のうへまゆみの花の他を散らす
梨の袋掛 日のそゝぐ梨は袋の花ざかり
桐の花 桐の花移轉訪ねて此虚ならず
吊 忍 かくも水吸ふかや暮れの釣忍
定本宋斤句集 夏 完