早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

定本宋斤句集  夏 11

2018-08-25 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集



定本宋斤句集  夏 11
月見草  夕なみのこころに安し月見草
待宵草  待宵草や一驛乗って汽車を捨つ
早 苗  傘さして往来時折早苗降り
蔘    犬蔘に雀も山の小鳥かな   
一つ葉  室生寺の釣り一つ葉に朝起きし
     一つ葉をまるくし吊るが欄の夏 
    真珠庵にて
沙羅双樹 天雲や沙羅双樹の花咲き揺るゝ
鈴 蘭  しら紙に鈴蘭つゝみあまりけり 
女貞花 空梅雨にちりしくものや女貞花
凌霄花 凌霄や土塀は大和奈良はずれ
酸漿草 かたばみのやくざが咲いて鉢の露
   菅生天神
實桜 さくら實となれる下枝に眉よせぬ
濱万年青 濱万年青の實生と知りし夏日かな
大野櫻里君より江州の日野の石楠を今年も送られて
石楠花 石楠花を抱えて日野の飛脚かな
昨夏大和室生句会にてもらひたるせきこく我が家の庭に咲く
石斛 石斛の花のほの香は室生かな
棕櫚の花 街中や棕櫚花咲きて醫の溝
紫陽花 紫陽花の花穀雨をこぼれけり
青柿 みも涼し青梅に手も届くかな
朴の花 朴の花會遊の丹生のこの頃に
山ぐみ   山茱萸を小門に覗き岡の坂
檜 扇  檜扇は花出すかさね扇より
    渓間を二粁八清瀧へ下る
著 莪  渓みちの著莪に日南を戀ひにけり
檀の花  石のうへまゆみの花の他を散らす
梨の袋掛 日のそゝぐ梨は袋の花ざかり
桐の花  桐の花移轉訪ねて此虚ならず
吊 忍  かくも水吸ふかや暮れの釣忍

              定本宋斤句集  夏 完

定本宋斤句集  夏 10

2018-08-23 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集



定本宋斤句集  夏 10

青 葉 汁襲を解きつつ青葉の緑ひろし
葉 櫻 葉櫻の大和下市鮎の酢    
茂   一燈を楓しげる葉つつみかね
  修学院離宮拝観 中の御茶屋   遁ぐること迅き蟷螂生れけり
    林丘寺比叡をうしろに湧く茂り
緑 陰 緑陰を一戸けむらしつゞけけり
    緑陰や門のほかなる壁切戸
木下闇 鮎舟と見るが繁がれ木下闇 
草いきれ草いきれ鉗子の花のちりながら
   散 宵
百合の花 更け更けて百合の匂ふが頼りかな
走り藷 初島や夜明けのひと荷走り藷
西 瓜 夜の海に西瓜食らわんと漕ぎ出でぬ
胡 瓜 雨足りて胡瓜あだ花なほ黄なり 
篠の子 篠の子や大野開けたる片畔 
筍   筍を噛みつつ今年花を見ず
睡 蓮 睡蓮を去り行く山の日なりけり
夏 蕨 蝉涼し泉湧く邊は夏わらび
    修学院離宮拝観
苔の花 苔の花すゞろ袖形御燈籠
濱木綿 濱木綿の日南たしかや陶の蟹

定本宋斤句集  夏 9

2018-08-02 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集





定本宋斤句集  夏 9

蟷 螂  遁ぐること迅き蟷螂生れけり
まくなぎ まくなぎを清水にはらひ旅つかれ
まひまひ まひまひの雨の一粒知りにけり
孑 子  殲滅す孑子の水庭が吸ふ
目 高  尾をまげて水裡風ある目高かな
金 魚  馴れ様は怖ぢ沈むにも古金魚
      らんちゅうの子が豆ほどな力泳す
守 宮  ももの音しづかに遠し燈の守宮
蛇の衣  蛇の衣十重にも疊み筺の中
    芳里君より河鹿を貰ふ
河 鹿   河鹿鳴くやとある旦の雨知って
      河鹿笛夜更けの獨り弄ぶ
鮎     水底や澄めるがあわれ網の鮎
      鮎焼くや山色懐ふ伊賀の國
鱚     汐のいろ鱚の日ぐれとなりにけり
鱧     鱧の皮二聨三聨疊けり
餘 花   笠ぬぎて遍路ゆくなり餘花の下
新 樹   夜はさすが背の新樹の冷え冷えす
若 葉   夜の庭に草履設けて若葉かな
      若葉寒む朝に鯛の煮凝れる