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早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和六年一月 第十巻一号 近詠

2021-05-28 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年一月 第十巻一号 近詠 俳句

日本人、が新年を迎えて、心一ぱいに思うことは
清浄
である。
火も水も、天地乾坤ことことく清浄である。
人またきよらなることを願ふて信ずる。
この心を、藝術とし、詩とするもの俳句である。

     新季愛日
元日やかど邉の田水さゝやきて

初日影はのどさし来し小門かな

江の空や羽おときかせて初鴉

恵方ゆく舷に潮むすびけり

ほがらかに歌留多負けたる女かな

松梅のなかに羽子突くひろさ哉

尾についてつぶやく唄も年酒かな

松の内ふと七星の在りどころ

島神へ雪の舳を初まふで

初夢のことを柱にもたれけり

   櫻寧抄
   完升居 
花散るや諸木はかげのあざやかに

雨を来て鶯籠に入にけり

木蘭の闇のぬくさを仰ぎけり

   波岑新居
若葉山うつしさながら水凪ぎぬ

野曇りの暮れをわかたず馬酔木哉

鋤鍬を洗ひ魚島したりけり

花過の少風燈にあり札所寺

   古玄居
掃き出すでんでん蟲や青嵐

   南畝庵
梅雨はれや鯰を料る石の上

灸寺や梅雨の傘下駄乱雑に

梅雨の月大白蓮の木の間かな

梅雨一路或は晴れて蝶の飛ぶ

梅雨晴の人や汐木をひろふなる

   也陶居
青栗を花瓶にさしぬ夜の秋

桔梗原くれし人馬が丘に出づ

秋暑く山の上なる蝶々哉

蟲の中夜旅の足のほこり哉

   峭木居
旗立てゝ山中湯泉あり渡り鳥

壁に貼る口繪のものや夜學の燈

池舟に日南あそべば秋の雷

秋風や雨吹き霽らす蓮の上

秋風や土鈴を鳴らし弄ぶ

秋風の鶯仰ぐ竹の中

  木常主催
社後行けば茸出づるとて縄の張る

  新涼
山なみに新涼の雲いと長がし

新涼や波に塵浮く琴の浦

新涼や我等の縁に晝の蟲

   早春社本句會
降りつくす賀茂一隅に水は照る

燈籠の肩にあつめぬ艸の種

   早春社富士紡例會
かべ土に草の實に雨乾きけ

時雨ゐる末社の燈松の中

   早春社神戸例會
落陽にそまる頂き冬の山

冬山や雛があがって行く日南

早春社紅葉句會総會
往く家の燈が閉ざされて刈田徑

霧ぬくゝ菊の障子を這ひにけり

   早春社東句會
初霜を攝社未社へ傾斜行く

闇道の初霜にちるもみぢかな

   早春社尼崎例會
しらぎくの咲き重りや冬めける

冬木立市一堂ありて錠かたし

   早春社同人水曜會
短日の燈つゞりて並木中

林泉に短日かげのさくら哉

石の上に一とすべわたす落穂哉

夕やけは落穂一すべも黄金かな

   早春社上町倶楽部例會
艸紅葉莖も染むなる露しずく

雲朝の照りてふくるゝ返り花

花石蕗を隣りく茶事にまたぎけり

猪番のさも腰にさす山刀

  花舟氏来訪句座 編輯所
水鳥のたちては下りる霧の池

地に低くゝ人は行くなり霧の果


宋斤の俳句「早春」昭和四年十二月 第八巻六号 近詠 俳句

2021-05-26 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和四年十二月 第八巻六号 近詠

白らしらと月にともるる枯野かな

みなかみへ躍る岩あり紅葉散る

かれ柳著るき枝垂れとなりにけり

新目刺やはか手につく銀の箔

あそぶやうに炭搗くも炭團まるめるも

手袋やボッチリはめてあたらしき

俗住みて寺内干すもの笹子啼く

川舟は川の方なり冬港

十三夜 
秋霞一ところならず添水哉

庵寺や柿とる竿も立てかけて

木犀の散る水溜り掃きにけり

湯気のもの障子彼方に夜食哉

文字見えてたゞ石ならずしをにさく

野の闇を二階にありてむしの聲

秋かすみ丘行く人にかゝりけり

秋霞艸にかほどの花のかず

細みちや身をかたむくる紫苑あり

水へまで二段の崖や紫苑咲く

   ものゝ影
月見草晝はなよなよ影すなり

汝が影の無くて日傘のまるさかな

   早春社守口創立句會
岸つゞる水鳥ありて秋ふかし

   早春社浪速例會
きつつきや木の實埋る空の中

稲刈るを我はながめて心ゆく

   早春社東句會創立一周年記念會
立つひとに輝く泉菊の家

家ふかきに高樋渡り亂れぎく

   早春社櫻宮例會
秋の雨瓜切草のくたびれに

爐のふちの白紙に柚味噌冷えにけり

   早春社郡山大會
鎌足忌さくら照葉に大和かな

寺内来し秋の小隅の石蕗の花

   早春社上町倶楽部例會
天高く夜の雲たたむ海の果

長月や綿しまひたる畑のあれ

末枯て重なる露の廣葉哉

   早春同人句座
吹きはるゝ野分にともし道の下

みの蟲を主の背にとりにけり

   早春社打出句會
月仲秋龍謄咲くや石の根に

仲秋の梢なほ染むさるずべり







宋斤の俳句「早春」昭和四年十一月 第八巻五号 近詠 俳句

2021-05-26 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和四年十一月 第八巻五号 近詠 俳句

   近詠
晝ふかし鶺鴒きたる書庫の芝

井車のひびき末枯晴にけり

稲舟は渡船の上に往き還り

散る葉して霽るる嵐に虹たちぬ

草露に易く獲へし螽かな

提燈が岸に見て行く崩れ簗

初冬や窓邉ひと往く傘あかり

ふるさとはなににも嬉れし橋の霜

  子規忌  
    昭和四年九月二十二日 於萩の寺 遠来からの作家も集い百余名
水の面に一隅うつる竹の春

竹春の日南あつきに跼みけり

雨はれてなほ雲かける萩の空

萩ゆるゝ寒さにすだれ下ろしけり

萩の風鵯松にとまらずに

愛宕山吟遊
枝栗を肩にまつ先き下山かな

菊作る家内も抜けて秋の山

のぼり来て集まるところ秋の山

家の垣の横に實のある山こゝろ

秋草の幾重をしざる夕日哉

みの虫の育ちの見えて垣の枝

ふもとほど秋の蝶々暮れにけり

  嵯峨愛宕
  嵐山につきて
家の軒の露草よりぞあらし山

  法輪寺
山門をくぐれば楓さわやかに

足につく蝶々うれしや秋山路

   渡月橋畔旗亭
秋山や霧にまぎるゝひとけむり

あらし山みづはおはぐろ蝶の秋

嵐山のかすみに飛ぶや秋の鳥

   天龍寺へ
墓といふ樹の根の石や露の秋

樹の奥の秋雨の降る墓に立ち

松の下蓮の一華咲のこり

塔頭のどれもひそかや秋の花

   野々宮にて
竹春やもの音絶えてほがらかに

みのむしの乗るゝ黒木の鳥居哉

   落柿舎にて
秋茂りなかに落柿舎柿の成る

   去来の墓
秋来れば秋好きよ墓のちいさゝよ

   鍵屋にて
瀬の音の暮れつゝ雨のさわやかに

廂より山頂仰ぐ蟲の闇

秋團扇燈下の火蛾を掃きにけり

空もるゝ夜の闇蟲をしずめけり

小夜鳥や山を稱へて蛾をすつる

ありの實を楊子にもちて山の秋

   早春社十月本句會
曼珠沙華握りそろへて莖青き

   早春社中央句會
晝月の中ぞら飛ぶや稲雀

   早春社神戸例會
稲の花水には雨の降りにけり

 
  早春社倶上町楽部例會
ちる柳十日の月に見えにけり

宵月を蚊火たつ中に仰けり

   早春社大鐘会例會
簟うしろに百合の香ふかな

秋の風空ちる鶴の一ト徒むれに

宋斤の俳句「早春」昭和四年十月 第八巻四号 近詠 俳句

2021-05-24 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和四年十月 第八巻四号 近詠 俳句

   近詠
碪邉やともしび漏れてひと増ゆる

庭下駄の日あたるを履くや野分あと

月下弦道一筋を談じ行く

秋雨の人に降りけり細木原

花雛来て谷々葛のみだれかな

橡餅や霧につゝまれほろ苦がし

刈り入って舟尻のこす蘆の中

穴まどひ零餘子こぼしてのぼりゆく

   螢
胸に来て火を失えし螢かな

螢やすだれのすそは水にあり

庭掃いて宵のほたるを迎けり

筆墨を亭に運ぶに螢かな

神の鈴鳴らせば来たる蛍哉

   良夜舟遊  <尼崎句會主催観月の舟を浮かべる>
船の中ひろしと歩るく月の三五

舷は月の細江となりにけり

   早春社八月本句會
稲の花水の茜を徒ちわたり

稲の花所の富士を仰けり

   早春社中央句會
艸の實の艸にわかしや露そみて

艸の實の池塘の風に出たりけり

秋隣畠中何か焼く暮れの

   早春社岡町例會
湖騒にはなれて来たり艸の花

ほど遠くひとつの燈艸の花

   早春社神戸例會
初嵐野に摘む花に吹きにけり

西瓜船市のあかつきまちにけり

   早春社上町倶楽部
橋高く燈りて喜雨の往来かな

濠水に喜雨の波立ち乙鳥

蚊火低く雨にくだりて行にけり

雷鳥の雪にかげさし御来光

   早春社妙見創設二周年記念大会
山の上雲は丹後へ竹の春

山の木に風まちまちや秋の蝉


朝暁の峡おろすや鮎の水

青栗に朝焼さして徑の上

   早春社同人会
鶏頭のたつ莖そまり来りけり

苧殻折るまづは心に父のはし

   
   打出句會
ずたずたの芭蕉の葉間月若し

釣りの糸吹く風芦に秋の聲

   編輯所寓座
木の上にましら来てゐる泉哉





宋斤の俳句 「早春」昭和四年九月 第八巻三号 近詠 俳句

2021-05-24 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和四年九月 第八巻三号 近詠 俳句

道秋や黍のかなたの夕炊き

草の花東道露を拂ひけり

秋の聲舟はものいふ燈の会圖

住む町や展けのこされ地蔵盆

燈も星も夜にさだまりて秋かはづ

蟲籠を書架の小闇に置きにけり

走行を薄茅萱のへだてけり

安治川や流行るコレラに雨の渦

脊戸の花きのふは芒剪りし哉

露じみて行人に媚ぶや牛の顔

   風光る
萩生ひて枯れをしのぐや風光る

みち草の春は黄な花風光る

草立ちて水さす鳥や風光る

   文房具禮讃 同人吟
用不要秋風にゆれ筆屏風

   早春社八月本句會
夏の燈に桔梗白きつぼみ哉

丘畑に夏の一燈乾きけり

植込みをくゞって仰ぐ夏燈し

船虫の這ふて干網風のすそ

   早春社中央句會
膝の上に飛び来て虫のひげ涼し

雲涼しうすれて星の高き哉

朝顔の地に這ふ白はよごれけり

   早春社神崎例會
夜の水のふく蝙蝠ひるがへり

蝙蝠や早苗降りに出す假渡舟

蝙蝠や巳に燈して町ふるし

   早春社無月会例會
僧出でゝ魚板を打てり青嵐

薫風に書の蛍のうごきけり

   観心亭
夕顔に立つて往来をなつかしむ

  
   打出句會
夏旦野びるの球の色に染む

女貞花こぼれて風は竹にあり

雷に廣々蓮の浮葉かな

   早春同人句會
夕立のあふれてたり金魚鉢