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早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和九年二月 第十七巻二号  奥吉野 (二)

2021-07-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年二月 第十七巻二号  奥吉野(二)

山のなにの音も聞こえず冬の宿

宿の夜に大枝挿せし紅葉哉

山中に一日たちし冬座敷

   宿の朝
冬日南さすに窟の口のぞく

   丹生川上神社上の社
はるばると来て神前に脱ぐ外套哉

この宮に詣でたかりし冬ぬくし

宮冬や鳥も鳴かずに川の音

山川にひゞく拍手冬の宮

冬ざれて杉の奥なる朝日かな

樹々の中社地ひろびろと冬日ざし

宮落葉二人が三人分かれ立つ

さこそまれ焚火も露の雨師の神

峡そこら樽丸積んで冬の霧

笹鳴きや天誅組の墓所の奥

磁々として日に匂ふなり冬の草

志士の墓展し終りて冬の雲

馬ヶ瀬や紅葉に暮れのゆとりして

冴え冴えと社ともつて冬の霧

   昭和八年十一月十五日











宋斤の俳句「早春」昭和九年二月 第十七巻二号 近詠

2021-07-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年二月 第十七巻二号 

奉祝 皇太子繼宮昭仁親王殿下御誕生

よろずよののちの君なれお初春

あら玉や玉の皇子を雲のうへ


   近詠

春永や川のひろさに座りゐる

山茶花をわすれてゐしがなほ散れり

ひともさでほの水仙と壁にゐる

焚くべうと柴の實枯れに情けかな

冬の月の硝子ばかりに川を寝る

主客居て障子の細目雪の降る

ぬけ浮いて己れ顔なりかいつむり

寒鴉雪の彼方に歩るき去る

寒の水盛り上がりたるコップ哉

干鮎をながめたのしむ氷雨哉

鉢の梅に雀の擔桶が冬日かな

家のあいを肩すりぬけて枯野哉

草凍てゝ山町らしも宿のまへ

凧の野や旅の湯窓に晴れ晴れ

白日や鶺鴒石に飛ぶかり

雪中やこの欄に見る家ひとつ

落葉みなひらたくて徑埋めたる

湖かぜに鳥居朽ちたる寒い日

門前や正月すぎて冬惜し

  同人吟
個書船のむかし伏見に雪空す

燈籠に土器新た冬颪

松かしはくらきに入る霜柱

枯蔓に歴史見上げて一ノ谷
                                                             冬畑を丘に横切りて夕戻る

寒蜆桝盛る山の乾きたる

柴舟のあとは夜になる川千鳥

炭籠いとまの青右芳里かな



                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      



宋斤の俳句「早春」昭和九年一月 第十七巻一号  奥吉野吟行

2021-07-28 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年一月 第十七巻一号  奥吉野吟行

    奥吉野吟行
   上市
飯貝に見ゆる甍ぞ小六月     <飯貝やあめに泊まりて田にし聞く 芭蕉>

   國栖村
妹山の杜の下なる小菊かな

枯れ畠桑束ねられ腫れ腫れと

  吉野の宮址
宮址や枯枝の小鳥うつくしく

山は川はいまに傳へて冬はじめ

せきれいや道國栖に入る尾根のうへ

山町や軒や干菜のひとつらね

  川上へ
一川を端に捨て去りまた冬の谿 

冬山路まがりまがりに日のまぶく

吊橋や山は吉野の過の冬

滝の音山家の冬の晴るゝかな

滝の音山中いよいよ冬となる

且つ散って紅葉しづかや厳のうへ

  大瀧よりtomoへ
散る紅葉この里人の往来哉
 
薄雲の空を冬とし杉茂る

  途上
山行の或ひは過ぐる冬やしろ

山中や茶店の軒の冬けむり

釣りびとはひとしきりに冬日南

一道にめぐる山々冬紅葉

紅葉山隅ありて冬見する哉

紅葉山聳えそれより雲しろし

山のうへ小春の村が白壁す

冬栖める山の村には人も見ず

冬うらゝ人や見えねど村仰ぐ

人すぎて石割り落す冬の山

  伯母ヶ峯
全山の紅葉いまなり暮るゝひま

見つむれば遠山紅葉来る如し

山頂や生えて双葉も紅葉なる

短か日の頬に吹くなる山の風

冬の暮れの風もちそめし山の木々樹々

  山の傳説
紅葉寒むみちみちに聴く山の怪

怪のものが傷を温泉に山の冬

山の傳説聞き往くうちも暮れ早し

  柏木の一夜
夜の闇や川面時雨募るのみ

奥吉野来て夜は冬のうぐひ哉

冬の夜や初見の人に句を強いて

  南朝郷土史
南朝を語る冬の夜吉野の夜







宋斤の俳句「早春」昭和九年一月 第十七巻一号 近詠 俳句

2021-07-24 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年一月 第十七巻一号 近詠 俳句
 
  皇太子殿下御誕生
日の御子の生まれたまへり冬麗ら

今日と今日朝明彌冴えかしこけれ

あめつちの冬うららかに足る日かな

ねむる山も水も醒むべし御誕生

くにたみやこのよろこびに春を待つ

  新天讃賀
大旦や杉の穂明けを神の歌

東海に燦たる島根初旦 

ひつひつと茶の木に軌り初日の出

國原や霧絖として初明り

水仙の水ひろひろと淑気かな

むかし神と島とが生まれ御代の春

初凪の海光鳥を擧げにけり

正月の塵を眉根に翁かな

初霞市隠を出でて來りけり

裏山や落葉景色が初昔

凧澄むと思へば聴こゆ

地に染むは鈴菜鈴代雪の隅

福寿艸莟覗いてふかきかな

廻禮や枯れの一徑朝を往く

雪のうへ野老を組みて鬻ぎけり

掃初やついでながらに牛の骨

雛子据へて初俎の紅霞

萬歳や町の朝霞ゆさゆさと

羽子板をあぎとの下に抱きけり


  同人吟
元朝となるにうすれて青き夜   大旦

船妻の甲斐甲斐しくも初荷かな  初荷

まざまざと川の水かな冬ざれて  冬ざれて

杉のうへ渡りてまろし冬の月

  早春社本句會
冬の燈の一つより往く野ありけり

竹馬や雪降って十里山もなく

竹馬がのぼってしまひ雪の坂

  早春社霜月例會
冬の蜂障子をなめてあたゝかく

冬の蜂日にかゞやふて池庭哉

地に這ふて石をまたぎて冬の蜂

  山秋句筵
朝顔の數こそ小さし山住まひ

山の木の一二にからむ糸瓜かな

秋山路野菊の中の異色かな

掌に露ぬぐひけり栗の顔

裏山へみちなくのぼる柿落葉

稲筵はるかに山の蟲きいて

秋夕木に見下して烏猫

ひとゝきの幕間の山に柿落葉

どの草が牛にうまかろ柿やろか

ひやひやと背中の窓の竹の春

藪の中いたゞき透いて秋の山

山家なる背戸なつかしの水引草

水の音草込みに蟲もしまひ哉

  早春社上町倶楽部例會
崖の霧に垂れたり烏瓜

たまたまや古里に来し栗節句

菊の日の野末の曇り鳥飛べり
 
馬市に燈入りぬ草もみぢ

草紅葉神馬を出して遊ばする

  早春社尼崎例會
もの聞けば闇聲高に刈田道

人につく刈田の蝿のぬくき日ぞ











宋斤の俳句「早春」昭和八年六月 第十五巻六号 近詠 俳句

2021-07-23 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和八年六月 第十五巻六号 近詠 俳句

  近詠
  桟庭我庵(五句)
端居すれば舟の話が聞えけり

端居して居れば次第に川の闇

桟庭に草鉢増えし端居かな

机よりにじり出てたる端居なれ

二階涼し吊葱また露たるゝ

  末吉端畔にメーデーを見る(四句)
メーデーや汗に組む腕一萬人

メーデーや前隊何か事のさま

にぎやかと云ふことも否労働祭

メーデーの大軍去って端柳

  机邊伏見焼きの鴛鴦の浮人形を置き楽む

おしどりの番さびたり浮人形

蝙幅や散歩に乗りし汽車の窓

待宵草や一驛乗って汽車を捨つ

夏の夜や草ひろうして海の闇

  巨勢金岡が由緒の地
金岡が別業の址や茶山晴れ

摘み終えし茶の山浅く覆くづれ

徑は茶摘落葉に薊咲く

   樹村居
茶どころに一閑庭や頬白鳥啼く

つばくろや茶事せはしの村の空

日の道を茶の家の土間の香に入る

あをあをと茶になる葉なり蒸しぬれて

茶選女の選る葉さらさら塗り机

残鶯のかすか焙爐師ひた汗に

山水に茶の葉ころびて木幡哉

夜になりて村は茶の香に月三日

睡蓮のまだし鯉澄み蓮るゝ哉

山朝に要花咲きほとゝぎす

  藤の花
藤に来て海も近しや宿の朝

藤の下出でて旅なる雲のそら

  早春社本句會
もの苗の握りしめたる根土かな

花さくといふのみの苗賈ひにけり

牡丹を有り合う壺に夜色かな

徑に踏む牡丹の筒も畠の晴れ

  早春社四月例會
一時は山もなかりし花の雨

(宇治)琴坂の夕ぐれ跳べり初蛙

近郊の春を見に出て初蛙 

  早春社十五例會
蕗の臺暮色躅んでゐたりけり

蕗の臺毎朝に見てたたのしみぬ

  六橋観句座
巻わらの尚も蘇鐵に彼岸すぎ

蝶とんで町の空地の彼岸すぎ

  一水會 (於六卿觀)
蔀戸に風の通ふて春の闇