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早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

早春社100周年 ”新世紀”へ ― 記念式典と記念号四月発刊のご報告 新世紀

2025-04-16 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
早春社創刊100周年 ”新世紀”へ


― 1926年(大正15年)に創刊された早春社は、本年、創刊100周年という大きな節目を迎えました。 早春社はその感謝と新たな決意を込めて、「早春社100周年記念式典」を本年1月19日に開催いたしました。式典には、初代主宰永尾宋斤の孫家族、子規や宋斤の句碑で縁の深い東光院萩の寺山主様・『自然讃仰、郷土敬愛、人生未到」の三是の志を受け継ぐみなさまが集い、心あたたまるひとときとなりました。 式典では、創刊当時の思いに触れる貴重な映像や、百年の歩みを振り返るスライドが上映され、会場には静かに、そして力強く文化の灯を受け継ぐ空気が広がりました。また、世代を超えてつながる言葉への想いを共有し、次なる百年に向けた第一歩として、皆で新たな決意を胸に刻む機会となりました。



そしてこのたび、その式典の記録と、100年の歩みを一冊にまとめた 『早春 100周年記念号』(2025年4月号) が発刊されました。
本号には、創刊者・三是の軌跡や、早春社に関わってくださった多くの方々の寄稿、さらには次の世代へのメッセージが込められています。ページをめくるたびに、早春社が大切にしてきた「言葉の力」が蘇り、あらためて文化の重みと希望を感じていただける内容となっております。 これまで支えてくださった 歴代主宰神田南畝氏、藤本阿南氏、岡本香石氏、岡野洞之氏、渡辺乾魚氏そして今回の記念百周年の記念事業を進めていただいた南杏子主宰と実行委員のみなさまにこころから感謝いたします。
宋斤が創刊10周年の祝賀式で『過去の十年に満足することなく、次の十年、さらにその先の未来を見据えて研究と進歩を続けることが大切だ。今日がその第一歩となる記念日」と述べたごとく、今日 次の『新世紀』の第一歩を迎えました。
『この自讃,即ち反省を、裡ちに倶うて 改めて早春萌芽の勢いとし、次の『新世紀』へ俳句に遊び 楽しみましょう。

「早春」昭和十七年八月 第三十四巻第二号 近詠 俳句 

2024-10-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
「早春」昭和十七年八月 第三十四巻第二号 近詠 俳句 




   近詠
夏深く村気朝照る壁にあり

雲の峰知人しきりに南洋へ

杉檜の風が肌に明易き

父と來る母と來る日の鴉の子

鮎の水鐡橋架り人家なし

緑陰に繙きてあり圖南の書

桑の實をふゝみ涼しき雨に佇つ
   
露古りてでんでん蟲と凝りにけり

ぎす捕りの草伏す古井恐れけり

日盛りて御旅所まつり常の町

しゃぼての餘りの多變憎みけり

跣足熱し蟲のきこゑて嗄れてゐる

鮒一尾金魚のなかに素直なり

茄子はむらさきころびてまろし露をもつ

蟹の眼の人を見なじみあわれなる

夜の欄に裸の背を海は闇

夏嵐筧が壺を外れゐる

  法妙院
日の斑さ揺れず遠州の庭涼しけれ

小さきくちなは堀すそ出でゝ齒朶を縫ふ

庫裡の涼仰ぐ野天井の煙ぬき

大茶壷その他豊公遺物南風入る

  印度副王より秀吉への書簡
秀吉の圖南しのびつ梅雨好晴

寶物庫ひゝやりと痩女の面のある

国賓を辭し來て緑陰白書院

  蓮華王院
日盛りや三十三間堂の縁

一千一躰の佛在して涼わたる

  風伯雷神二像
風伯より雷神親し蠅舞へる

大矢敷の廊下なり暑を踏み果てず

打水をする柳茶屋珠敷賣る店

   養源院
血天井すこし通ふは青嵐歟 

   初雷
初雷を野はたひらかに水とあり

初雷にうすき日ざしの海にあり

     菫
すみれ原戻りの我に魚籠重し

すみれ原夜になるうしろ顧みつ

すみれ原松の下來て海近く

   草刈り
草刈りや女ばかりか露の顔

草刈り己れの音に露ふりて

草刈り社の近くひとめぐり

   早春社七月本句會 兼題「練雲雀」席題「梅雨あけず」
飛び村の岬に高しねりひはり

藪どころいちにち凪ぎて練雲雀

蝿若き光にとんで梅雨明けず

梅雨明けず日を見するとき山のひだ


   爽明會 七月二日
夜光蟲戻りて芝に足ぬぐふ

古釘に風鈴のつるところあり

  二葉會 五月例會
葉櫻に透く高館の燈りけり

よべの燈の島は夏暁にいと近し












































































「早春」昭和十七年七月 第三十四巻第一号 近詠 俳句 

2024-10-29 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
「早春」昭和十七年七月 第三十四巻第一号 近詠 俳句 



  近詠
暁天の星こそ夏のみなぎれり

友等戰ふ南に北に雲の峰

梅雨出水街川空に月朱なり

青鶯や筏䌫ひて人されば

什襲を解きつ青葉の緣ひろし

宛字して義山と書せし筺も古し

馬洗ひ戰野の夏を瞼にす

紫陽花のあかるきに頰々女の子

かたばみの咲き十藥の咲き住むとなく

空地畑閑却されて胡羅萄咲く

梅雨豪雨夾竹桃の確と咲く

滴りの諸手を濡れてしたゝれり

根あらはに咲く月見草貰ひけり

蓮池の隅の板橋家路なる

小判草茂り束ねて鉢に植り

ものゝ音しづかに遠し燈に守宮

凌宵や土塀は大和奈良外れ

蛸の木は知らねど似たり木下闇

尾が消えて蝌蚪あたま石の隙

夏萩や園内の徑寺山へ

露草はたくましの莖もろく折れし

植田のぼりに來て峡づまり巌壁す

可々大笑壁に背を打ち蚊火を搖れり

   近江にて
降らぬまゝ旅來し湖の夏霞

義仲寺の芭蕉のすそを梅雨の蝶

梅雨の湖全く拾ひ日和なれ

翁の墓前の金魚の水に心解く

湖ぞひの町すでに夏つばくらめ

梅雨晴れや打出の濱の一官署

鳶はまた湖の島にて滋賀の夏

  雄琴温泉
温泉のあれば町少し付く植田道

脚病めど温泉なれば登る新樹坂

青蛙温泉の庭下駄を履けば居る

垣杉に張る女郎蜘蛛湖高し          

みづうみを簾越しなる一日す

  第十六回楠公忌修営記
    八尾 恩智駅より高野街道
しばらくは村家の茂り夏山
  恩智地城址
葉櫻のなかに一碑が城址かな
  山麓
若竹の底の明るさ蝶のゆく
眺望や投げ出す足を蟻わたる
 梅巌寺
山の晝つゝじが褪せて縁のさき
 句座
楠公忌河内山邊のつづきゆく
楠公忌母木の里の山光に

   冬の菊
冬の菊うしろはるかに丘の線

山水の末の厨邊冬の菊

冬の菊雲にみだれのなき日哉

   雪
雪大の飛ぶものもなく朝長し

枯艸の日中雪のつもるなく

  大阪護国神社献詠俳句會
百合ひとつひとつを神のしろしめす

北満の百合を移して神寶

 故  越野麥存氏追悼俳句会
奥瀧のひゞきといふを春寒き

春寒く寺へのぼりの地の蒼み

掌上にさらにたゞれし椿かな

  六橋観偶會
高き燈のひとつ咲きゐる新樹かな

新樹なか街道なれば燈のならぶ

跫音を地がぬすむなる新樹かな

  爽明會 <充爽會と晴明會の合同句筵 於 早春社>
降る空のいちにち保ち女貞花

ねづみもち寺内俗住みもの干して






 





 


























































「早春」昭和十七年六月 第三十三巻六号 近詠 俳句

2024-09-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
「早春」昭和十七年六月 第三十三巻六号 近詠 俳句


 近詠
雲の峰わかくて人をはげまする

進む國暢ぶ民松はみどりして

たつ夏の飛行編隊は南す

戦へるこころ兜を飾るなり

牡丹の岩よりいづか鏤む日

蛍の縁砂ざらざらで野面夏

茣蓙透かす土のつめたさ蜘蛛這ひ來

陸軍病院葉柳干衣風にあり

グライダー一機休めり夏の蝶

鍬傷の芭蕉のいもをいつくしむ

ばらの花垣目を川へ咲きむらがり

蔦の門玄關さらに磴の下

樹々深かに鵜匠の村の夏の暁け

沙羅咲いてうしろ山厓夕日染

梧桐双葉それより小さき青蛙

浜木綿の實生待ちゐる夏辰なる

いま揚げて窓から仰ぐ五月鯉

蟹の眼の草葉かはして高きかな

山若葉女の聲が谺する

蛍の夜近思の情に女あり

病みて愁ひを知らずとセルを着たりけり

萩若葉浅き茂りに光湧く

石竹の土に蝸牛の乾きかな

夏薊蔑み佇ちて馴染む哉

金魚二つを五つ六つに增さんか朝心

河内野の白日に來つ楠公忌

石佛に兎角の夏かげろう

薫風や鉢に咲きたる葱の花

夏の露ひとの垣内をなつかしむ

梅雨前や酸漿しげり豆たてゝ

 鐘霞む
さざなみの入江つたへば鐘かすむ

鐘かすみ谺はさらにかすみけり

鐘かすみ岨る人語のきこゑけり

よし切りのとまつて芦は芦に埋もれ

よしきりや池心の舟の何をする

行々子散歩汀に足りて佇つ

   早春社五月本句會  兼題「五月雲」 席上題「蝌蚪」
五月雲多賀の鳥居にあがりけり

魚顔をして藻にやすむ蝌蚪一つ

蝌蚪涼し筧の高きより落つる
 























   

早春 「早春」昭和十七年五月 第三十三巻五号 近詠 俳句

2024-07-29 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
早春 「早春」昭和十七年五月 第三十三巻五号 近詠 俳句

 近詠
この堤伏見京まで雲雀空

蒔きしものかたゞ草の芽か箱の土

若竹を左右に登つて門の跡

春暁の雲いとけなし野をのぼる

藤棚の下に皓齒を遺し去る

海風を眞面の岡に花果つる

塀を來てはづれの小畑春のこる

書中句に戻るとありしわか葉窗

春蝉に磴のぼる脚おとろへぬ

林中に歩のとゞまらず夏近し

園丁に憑く蝶すでに暑きかな 

残鶯に渓下りるみち岐れたり

廣庭のこの家の子等がよめ菜摘む

瀧それは筧を落ちて若楓

敵機來待つなく仰ぐ松緑

空襲警報いとまは鳥に蘩蔞やる

陽炎におもふや戰地ジャバの土

街中や 棕櫚花咲きて醫の構へ

行春の砂を城址に蹴りて居つ

草の絮散りて城阜に小祠のみ

頬杖を佛したまひ若葉寒む

夏あさく低き燕の光り踏む

霞照る五月島山二里の沖

滴りの草を握れば拳濡る

舗道は映える雨水兵に夏らしも

五月山朝雲一朶ひろがりつ

薫風や里人楠氏の城を指す

















蘩蔞