(昨日の続きです~)
「私を離さないで」の著者カズオ イシグロさんは、長崎県出身の日本人ですが、
6歳からイギリスに住み、今はイギリス国籍を取得されています。
2017年にノーベル文学賞を受賞されたことは、記憶に新しいと思います。
それなのに、私はイシグロさんの御本を 1度も読んだことがありませんでした。
いえ、本屋さんで数ページ立ち読みしたことはあったのですが、
購入するには至らなかったのです。
【以下、ネタバレ注意です】
さて、「私を離さないで」を借りてきた私は、正直に言うと、
あまり気がすすみませんでした。
文庫本しか在庫が無く、小さな字が大人の目には読みにくく(笑)、
しかも想像した以上に分厚くて、気軽に読める本ではないな~と思ったのです。
それでも読み始めたのですが、頻繁に出て来る「へールシャム」と云う施設の意味や、
「提供者」と云う単語が意味するところが分からず、私は我慢しながら読みました。
物語は、キャシーと云う介護人が、
自分の育った「へールシャム」のことを回想する~と云う形式を取り、
すべて一人称で語られます。
読み進むうちに、「へールシャム」とは、クローン人間が大人になるまでを過ごす、
ある施設の名前だということが分かってきました。
つまり、そこに育つ子ども達は、「臓器提供者」として生まれたクローン人間で、
大人になったら、複数回、臓器を提供し、そして人生を終えるのです。
そんな運命のもと生まれてきたキャシーや友人達でしたが、
「へールシャム」の中では、普通の人間同様、青春模様が繰り広げられます。
キャシーと友人達との他愛ないお喋りや、その中での様々なトラブルの描写は、
私自身の10代の頃を思い出すきっかけになりました。
そして、私は徐々に物語の中に引き込まれていきました。
読み始めた頃に、何の事だろう。。。と疑問を感じながら読んでいた伏線が、
後半になると、巧みに回収されていきます。
あ~こういうことだったのか。。。と思いつつ読み進み、
後半を読む頃は、夢中になりました。
この小説の感想は、到底ひと言で述べられる内容ではなく、
色々なテーマや作者の問いかけが、幾重にも織り重なっているようです。
その中で、私がひとつだけ述べるとしたら、
人間の記憶~つまり人と人との触れ合う中で生じる思い出の大切さを、
作者は訴えかけているように思います。
同時に、限りある命は大切に生きなければならないこと。
また、大切に生きる為に役立つ教育の重要性を、改めて考えさせられました。
キャシーや「提供者」達は、詩の朗読や絵を描くことで、
臓器を提供する前の心の均衡を保っていられたからです。
これらのことは「へールシャム」において、丁寧に教育されたものなのです。
そして、読みながら気が付いたのですが、
キャシーの様な「提供者」のみならず、私達もまた、「死」に向かって生きています。
「死」を意識するからこそ「生」が意味を成す~ということを改めて思い起こし、
残された日々を大切に生きて行かなければ、と思ったのでした。
以上は、私の拙い感想です。
その他にも、臓器移植の是非や、人権に関する様々なことを考えさせられましたが、
今回は以上のことを述べるだけにしておきます。
それにしても、この本を私に薦めてくれたYちゃんには、心から御礼を言いたいと思います。