宍道湖の夕日の見事さは良く知られています。
夕日も花と同じで、季節とロケーションが揃った時の美しさは言葉に現せないものがあります。
しかし夕日も花も、その時々の気象条件に大きく左右されますので、目当ての場所へ出向いても、常に思い描いた光景に遭遇できるとは限りません。
今、目の前で沈む夕日は、絵のような輝きで湖面を照らしています。
地球上であれば、日々何処にでも陽は沈みますが、今この場所、このシチュエーションであればこそと思える美しさです。
宍道湖に浮かぶ嫁ヶ島の松の梢に見送られ、湖面を照らしながら、静かに神話の国へ沈んでゆく夕日は、見る者の琴線を震わせます。
桜の花の散る姿に美しさを感じる人々が見送る夕日は、一日の終わりが終焉ではないこいとを告げているのかのようです。
空に輝き、恵みをもたらしてくれた太陽は今、一日の仕事を終えて、月と星に道を譲りますが、雨と嵐が地上を覆うことはあっても、明日はまた、必ず東の空へ戻って来てくれるのです。
父母や祖父母の頃から、更には神々の時代から、沈む夕日が明日の約束を違えぬことを知り、人々は夜の眠りに身を委ねてきました。
東の海に陽出る国の人々は太陽に感謝し、花を眺め、鳥の声を聞き、子を育んできたことを、夕日が思い出させてくれました。
46億年も前から地球は回り続け、陽が沈み、陽が昇る繰り返しの中で、人々は明日を信じて生きてきました。
今日も安らかに夜の帳が降りてゆきます。
※ 他の記事へは 山陰・山陽 秋の花旅 index をご利用頂くと便利です。