午後3時、札幌の森さんのお宅を出た車は、途中で食糧を買い足しながら、今、夕張岳の登山口を目指してシューパロ湖を渡っています。
私と森幸二さんは、40年以上も前に、帯広畜産大学の自然探査会というサークルに所属していました。
私が年長ですが、今でも森さんの同期の人達や先輩のMMさんとは連絡を取っており、一昨日も森さんの手配で札幌の人達が集まってくれて、札幌駅前の居酒屋で何十年振りかの盃を酌み交わしました。
車の進む方向は厚い雲に覆われ、夕張岳はみえていません。
助手席で森さんが、「先輩と来るといつも天気悪いんだよな~」と呟きました。
そうです、実は私は、学生時代雨男として名を馳せていました。
「そう、俺は空も女も泣かせ上手なんだ」と軽口をたたくと、「え~、半分当ってるけど、半分は違うでしょう」と即答が返ってきました。
橋を渡り終えると、ダートの林道が始まりました。
林道を暫く走ると、ゲートには「この林道の一般車両の通行は6月18日から9月30日まで」と表示されていました。
但し、この期日は、毎年変わるようですから、登山される方は注意して下さい。
この場所から夕張岳登山口までは9.4kmあり、これを歩くとすれば3時間は覚悟しなければなりません。
私達の学生時代は、車は誰も持っていないし、タクシーを使うほどお金に余裕はないしで、夕張岳はかなり近づき難い山でした。
学生サークルでは、日高山脈に入って、植物や鳥などを調べる日高5ヶ年計画をスタートさせたばかりでした。
夏合宿では、数パーティに分散し、1週間以上も日高山脈を歩き廻ったものです。
私は日高山脈以外にも、大雪や十勝岳連峰などへも足を伸ばしましたが、アプローチの悪い夕張岳に登ることなく卒業を迎えました。
就職して旭川に住み、社会人山岳会にも所属しましたが、夕張岳へはとうとう登らずに、転勤で北海道を去ることになり、今日に至っています。
その念願の夕張岳に、今やっと足を踏み入れようとしています。
当初の計画では、今夜は夕張岳ヒュッテに泊まる予定でした。
しかし、林道終点に車を止めて支度していると、下山してきた人が、ヒュッテは小学生を含めた団体で満員なので、寝る場所を確保するのが難しいだろうと教えてくれました。
そこで急遽、車中泊を決めて、夕食の支度に取り掛かりました。
今夜のメニューはジンギスカンです。
ビールやチュウハイをたっぷりと持ってきましたから、森さんと二人、何とも贅沢な夕餉を楽しむことができました。
こんな細やかなことで、王侯貴族のような気分に浸れるのですから、山登りって本当に素敵です。
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