標高1290mの望岳台を出発し、前岳の中腹を廻り込むと、やがて目の前に夕張岳本峰が見えてきました。
空はピーカンに晴れ渡り、学生時代に、あれほど雨男と褒めたたえられた私の面目は丸つぶれです。
ササと潅木が茂る中、前岳の中腹を横切って登山路が続きます。
そして、この辺りから本格的な高山植物の世界が広がり始め、昔、北海道の山々で親しんだ花たちとの再会が始まります。
チシマフウロ、チシマアザミ、オオタカネバラ、エゾウサギギク等々、若かりし頃に大雪山や富良野岳を歩き廻り、親しんだ花が次々と路傍に姿を現しました。
そして花から目を上げると、前岳のピークが、何時の間にか背後に廻り込んでいました。
前岳のピーク
憩沢の水場がハイマツに包まれていました。
憩沢の水場
憩沢には、シナノキンバイやイワイチョウなど、湿潤な場所に育つ高山植物が咲き揃います。
冷水の沢で見て来たオオバミゾホオズキが、群れ咲いていました。
一輪で咲く花に趣を感じますが、群れ咲く花の華やぎも捨てがたい。
オオバミゾホオズキ
来し方を振り返れば、芦別岳が、彼方から優しい微笑を投げかけていました。
あの山で正月を迎え、この山に至るまで、いったい幾年の歳月が流れたでしょうか?
芦別岳遠望
ゆったりと流れた、大河のような時の記憶は定かではありませんが、あの日の、夕陽に照らされた神々しいまでの雪山のシルエットは、今でもはっきりと脳裏に浮かびます。
厳冬期の芦別岳
一瞬の夏の喜び、冬の稜線に吹き荒ぶ嵐、その全てを何度も繰り返し、今花の山に遊びます。
登山路は前岳湿原に入ってきました。
前方に見える夕張岳本峰との標高差も小さくなってきました。
夕張岳本峰
この辺りに来ると、頂きに登るという思いより、周囲に現れる高山植物への関心が優ります。
時はまだ、午前8時22分。
5時半に林道終点を出発したので、約3時間が経過しましたが、花を見ながらポレポレと登ってきましたから、疲労感は全くありません。
体力気力共に余裕シャクシャクです。
そして、何よりも、もう目と鼻の先にピークが見えますので、登頂を急ぐ必要は全くありません。
今回の旅の主目的は、富良野に所有する土地の管理です。
しかし、どうせ北海道へ行くなら、山に花咲く7月中にと思い立ち、急遽フェリーを予約し、思い立った翌日に車をはしらせました。
そのような強引なスケジュールでしたが、来た甲斐がありました。
夕張岳の高層湿原は花に溢れていました。
ハイマツの中に木道が伸び、チングルマ、ミヤマスミレ、ウメバチソウなどが次々と目を楽しませてくれます。
昔々、図鑑を片手に日高や大雪を歩き回った経験の楽しさが、今の私を花の山へと向かわせます。
花を見ていると、人生無駄なことは何一つなかったなと、そんな風に能天気な、満ち足りた気分に浸りながら、木道をぽっくり、ぽっこりと進んで行きました。