政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が2日発表した提言は、「第7波」の感染爆発を受け、新型コロナの発生以来続けてきた対応の抜本的な見直しを政府に迫るものだ。この日は日本感染症学会など4学会、日本医師会や全国知事会も相次いで、発熱外来の逼迫(ひっぱく)回避策や患者の全数把握に代わる仕組みの構築を提起。現場の危機感は強く、政府が有効な一手を打ち出せるかが問われている。

 オミクロン株の急拡大は今年初めに続き2度目だ。発熱外来の逼迫や保健所業務のパンクなど「第6波」と同様の問題が繰り返され、オミクロン株の派生型「BA・5」の感染力の強さも重なり、事態の一層の悪化も懸念される。

 専門家有志が提言発表に動いた背景には、抜本策を避けてきた政権に対するいらだちがある。政権は「行動制限回避」を第一に掲げ、抗原検査キットの無料配布や都道府県による「BA・5対策強化宣言」の新設などを表明したが、事態の改善に至っていない。専門家有志の一人は「小手先の対応だ」と苦言。医療現場では、重症化リスクの低い人は発熱外来を受診せず自宅で療養することを求める声が強いが、政府関係者は「政府の立場で『病院に来ないで』とは言えない」と手を出しあぐねている。

 専門家有志は、7月前半から提言の公表に向けて政府側と水面下で協議。専門家側は、政府も検討に加わるコロナ対策分科会で議題とすることを求めたが、目先の対応に追われる政府側が難色を示し、独自に記者会見を開くことになった。

 感染者の全数把握や全員の健康観察などは当初から一貫して続けてきたコロナ対応の基礎だが、提言では足元の危機的状況の打開のため、ここに踏み込むことが不可欠と強調。記者会見で尾身氏は「我々の仕事は提案だ。どう活用するかは政府の判断だ」と述べた。

 今後、政府の対応が焦点となるが、当面は全数把握に代わる流行の監視体制をどの程度早期に構築できるかが試金石となる。「第7波」の後も、感染症法上の新型コロナの位置づけを含め、難しい判断を迫られる。【横田愛、原田啓之】