こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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摘便は、コミュニケーションツール。(*^_^*)

2012-02-09 23:41:15 | 訪問看護、緩和ケア
訪問看護と摘便は、切っても切れない間柄です。


本来は、食生活の改善や水分の確保、緩下剤の調節や地道な排便誘導で、自然排便に持って行ければ一番いいのですが、これがなかなか難しいのが現状です。

特に、介護力が乏しかったり、独居だったりすれば、変な時間に便が出てしまったり、下痢をしてしまったりすると、誰かが来るまで便の中で待っていることになりかねません。

それに、高齢であることや、臥床状態であること、水分摂取が少ないことから、かなりの確率で便秘になります。

初回訪問で、「毎日ちょっとずつは出ていますが、なんだかすっきりしないみたい。」とか「便を自分でかき出してしまうんです。」などという場合は、直腸内に粘土質の便がぎっしり詰まっていることがよくあります。

ちょっとずつ出るのは、たまってい物が押し出されるだけで、ちゃんと出たとは言えないのです。

施設や病院では、ちょっと出ただけでも排便(+)とか書かれて、もうそれで出たことになっていて、帰宅後に訪問するとお腹がパンパンなんてことも珍しくないのです。

で、緊急訪問で排便の処置に伺う事もよくあります。

初回訪問から、苦虫をかみしめたような表情で、ろくに返事もしてくれなかった患者さんが、夜にひどい便秘で苦しんで、緊急訪問で摘便ですっきりした途端、もうその看護師は神様のようにあがめられちゃうこともあります。
これは驚くくらい劇的で、「ウンチ良ければ、全てよし!」って言う感じでしょうか?


今日も、夕方電話がかかってきました。
「家内がポータブルトイレで便を出せなくて苦しんでいるんだよ。お腹をひどく痛がっているので、みてほしいんだ。」
最近はすっかり元気になって、大きな問題もなく過ごされていたM子さん。
ご高齢の夫が、それは良く介護されています。

このご夫婦、私は大好きなので、しばらくぶりの再会にワクワクしながら伺いました。

M子さんは認知症なので、もちろん私の事などすっかり忘れていますが、誰が伺ってもいつも楽しいおしゃべりをしてくれる、とってもラブリーな患者さんです。
そして、夫はそんな妻をぼやきながらも、それはそれは優しくて、いつもほっこりしてしまうおうちなのです。

ポータブルトイレにはまって、ヘロヘロになっていたM子さんは、途中まで出かかってにっちもさっちもいかなくなった便のために、だいぶ体も傾いていました。
「お腹痛い。苦しい。痛い。」

オイルを塗ってそっと肛門周囲をマッサージしながら少し摘便、を繰り返しある程度出たところで浣腸を30CCほど入れると、それは立派なものが大量に排出されました。

こういう場合、急に腹圧が下がり、ショックをおこすことがあるので、表情に注意が必要です。
たかがウンチ、されどウンチ。

案の定、時々こみあげてくるのか、えづくようなしぐさがあります。
そして額には、脂汗、顔色も白くなっています。(後で血圧を測ったら、やはり80代まで下がっていました。)

すぐにお尻を洗って、ベットに戻すと笑顔が出てきました。

「あー。お腹痛かったわ~。こんな痛いの始めて。お産より痛かったわ~。でも治ったわ。あなた、神の手ね!」
「ええー。神の手ですかー!ありがとう~。」
「そうよ、神の手よ。こんど近所でお腹痛い人いたら、紹介するわ~。」

夫に「お父さん。M子さんすごいの出たよ。見てみて。」と声をかけると、
覗いた夫は「あー。そりゃあこいつ、このぐらい食べてるからなぁ。」そう言って「ちゃんと分けて流さないと詰まるなぁ、」って、にっと笑ってトイレに消えました。

M子さんは認知はあっても笑いのツボはしっかりわかっていて、時々とんでもないことまで言って笑わせてくれます。
実は、夫のことは父親だと思っているので、話もさらにややこしくなるのですが、そんな会話も本当に楽しい。
「だって、こんな体になっちゃって、笑わないとやってけないでしょう?」って、言っていました。


摘便って、ちょっと引っかかる言葉ではありますが、実は患者さんとの距離を縮めてくれる、すご技なんですよ。
あー、おもしろかった。