Sketch of the Day

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田舎医者の憂鬱(2004/07/27 13:13:59 GMT)

2004-08-07 | Great Britain
イギリスのカントリーサイドを訪れていつも思うのは、景色はそりゃ美しいけど、なんかあったとき怖ぇ~なということだ。なんかあったときというのは急病とか事故とかそういうことだ。まあイギリスに限ったことじゃないんだけれど、イギリスの医療体制というのはお寒い現状にあるからなおさらそう思うのだ。

このニュースは、スコットランドの一部の田舎のお医者さん達が、新しい医療体制の施行にともなって政府に文句をいったというお話。新しい医療体制とは、急患時の緊急連絡先をGP*からlocal health boards(地元の保健所といったところか)に変更するというもの。つまり、患者がかかりつけ医に個別に連絡を取っていたこれまでの体制を改め、保健所が集中的に緊急連絡を受けるようにする。こうすることで、(それでなくても少ない)田舎の医者の過酷なワークロードを軽減し、田園地帯で働こうとする医者の数を増やそうとするねらいがある。時間外の緊急連絡が田舎の医者を過酷な労働環境に追いやっているというわけだ。

ただ、政府に文句をいった医者達は、そのような労働環境に文句をつけたのでは全くなくて、逆に新しい医療体制の危険性を指摘したのだ。つまり、緊急連絡先を保健所にすることで、急患に当たる医者の数をたしかに減らすことができるが、それは高齢者や終末医療のような生命に係わる緊急の医療体制としてははなはだ危険であるという指摘だ。実際、身近なGPではなく、保健所経由にすることによる時間的なロスは安全なレベルにあるとは言えないという指摘もある。

これに対して、田園地帯においてより少数の医者で医療にあたる効果的な体制であるとの意見もある(主に国関連の医療サイドから)。また数年前、医療体制をGPによる個別対応からより中央制御型に変更した際に今回と同じような不安があったが、いまではより少ないGPによって効果的に医療が施せることが証明されているそうだ。さらに、今回の制度変更がむしろ田舎に医者を呼び寄せるインセンティブとなること、過酷な労働条件のもとで疲弊した田舎の医者に診てもらうことは患者にとっても望ましいとは言えない、という意見も飛び出す(厚生大臣の発言!)。まあ、長い目で見て、今回の医療体制の見直しで田舎に医者が増えればそれはそれで田舎の医療体制が整うという見方もできる(実際に増えればの話だが)。(http://news.bbc.co.uk/go/pr/fr/-/1/hi/scotland/3928175.stm)

* General Practitioner の略。最寄りのかかりつけ医、主治医のようなもの。イギリスで医療を受けようと思ったらまず最寄りのGPをみつけなければならない。そこで手に負えない医療はGPの紹介を通じて大きな病院や専門の病院へ行くことになる。