アッバド/ロンドン響84年録音の「スコッティシュ」。日本では「スコットランド」と表記されるけれど、正確には「スコティッシュ」。間違えないでほしいものだ。メンデルスゾーンが同曲の出だしの楽想を得たといわれるメアリ女王の旧居ホリルード宮殿(エディンバラ市)は、僕のフラットから歩いて10分もかからない距離にあったから、この曲のリアリティはすごくよく分かる(ような気がする)。
といってもメンデルスゾーンが訪れた1829年のホリルードは、荒れ果てた遺跡然としていたようだから、今日のキレイに整備された観光地とはかなり様子を異にしていたはず。でも昔の雰囲気はだいたい想像がつく。そういう想像をいとも簡単に許してくれるのがイギリスというところだ。だから今のホリルードを前にしてこの音楽を聴いても違和感はほとんどない。しかし、メンデルスゾーンが佇んだホリルードの目の前には、いまやスコットランド議会棟(設計は故エンリック・ミラーレス)が圧倒的な存在感を誇る。彼がこの建造環境をみたらなんというか。
一方、ヘブリディーズ諸島といえば、スカイ島には足を伸ばしたけれども、「フィンガルの洞窟」(スタファ島)にはついぞ訪れる機会に恵まれなかった。残念。
ところで、「スコッティシュ」にはかねてより「イタリア」がカップリングされることが多い。全くの個人的見解だが、これだけはどうか勘弁願いたい。「イタリア」が嫌いなのではない。両者は食い合わせが悪すぎると思うのだ。曲想も正反対。いやだからこそ組み合わせとしてはイイ、という考え方はまあ理解できる。だけど僕はダメだ。スコッティッシュの余韻に浸っていると、あの妙に軽快なイタリアの出だし。やめていただきたい。雰囲気まるつぶれ。
そのへんのことをよく分かっているレコードが出た。シャイー/ゲヴァントハウス管の新譜「メンデルスゾーン・ディスカヴァリーズ」。収録曲は、スコティッシュ(なんと1842年ロンドン稿)、スコティッシュ冒頭のスケッチ(1829年)、ピアノコンチェルト3番ホ短調(マルチェロ・ブファリーニ補完版)、序曲ヘブリディーズ諸島作品26フィンガルの洞窟(1830年)という凝ったつくり。シャイーはイタリアンだが、「イタリア」は入ってない。さすが。
演奏はまあまあ。