元オーボエ奏者、現在は指揮者である 宮本文昭(Wikipedia)氏の講座を地元の「稲城市iプラザ」で聴きました。1月に聴いた「宮本文昭がご案内する『クラシック入門講座』」の後編です。(★前編については、過去記事:「クラシック入門 ~宮本文昭氏の講座~」をご参照ください。
<ブラームスの「交響曲第2番」>
今回は、ブラームスの「交響曲第2番」についての解説でした。
前編で触れられたように、ブラームスは20年以上の歳月をかけ、苦悩の末に内向的なイメージの「交響曲第1番」を生み出したのですが、その成功により、2番は伸び伸びと書かれているのが特徴で、その牧歌的なメロディーが「ブラームスの『田園』交響曲」と言われる所以だそうです。第1楽章での、美しいメロディーが違う楽器によって追いかけられるように次々奏でられる箇所に、特にその伸びやかさが表われているそうです。
◆指揮者と演奏者
そういう箇所は演奏者にとっては自分の楽器のアピールのしどころであるわけですが、指揮者としては、「ベストの演奏をせよ」と奏者に命令的に要求するのではなく、「ベストの演奏をしたい」と奏者にいかに思ってもらうかがポイントなのだそうです。宮本氏の師匠である小澤征爾氏の表現によれば、それは“release”、解放する、ということなのだとか。そういう場面は、演奏者としての経験を豊富に積んだ宮本氏ならではの、指揮者としての力量の発揮どころなのでしょうね。どんなふうに指揮するかを、実演を交え、熱く語ってくれました。
◆曲のテンポ
曲のテンポはとても重要で、演奏者、特に管楽器、その中でもフルートは、息の配分を考える上でとても重要なのだそうです。指揮者は各楽器の事情をすべて配慮するわけにはいきませんが、テンポ設定はむずかしいし、悩みどころだと氏は言います。
この第2番は、第1番の後書かれた経緯を考えると、あまり遅すぎないテンポで爽やかに演奏したいところだそうですが、ブラームスの容姿などからくるイメージを大切にしようとすると、テンポを落として重厚な感じに演奏したいところでもあり、テンポ設定に悩む曲なのだそうです。
◆天候の作曲への影響
第1楽章の初めの方に、遠雷を思わせるような音があります。こちらでは天気がいいのに、遠くでは雷が鳴っているという風景を思わせる箇所です。それは実際に天候が影響しているらしい、という興味深い考察を氏は披露しました。ヨーロッパ、特に氏が長く滞在したドイツやオーストリアでは、1日の中どころか、何時間、いえ、何十分で天気がコロコロ変わるのだそうで、その変化の激しい気候が作曲にも影響すると、ドイツの音大での師が言っていたそうです。特にシューベルトの作曲にそれが顕著に表われているとか。
◆ブラームスのひねくれ方
第1番と同様に第2番にも、「なんでわざわざこんなわかりにくいスコアにするんだ?!」というようなひねくれた作曲方法が、何箇所かでされているのだそうです。指揮者としてタクトを振りにくい場面だそうです。
余談として、坂本龍一氏と対談したときの話もありました。作曲するときに何を一番重要視しているか坂本氏が訊いたところ、「ビジュアルだね」という答えが返ってきたとか。つまり、スコア全体を見回して、色の濃い部分(音符が集中している部分)と薄い部分とのバランスをとりながら作るということだとか。これも興味深い話でした。
◆オーケストラの裏話
弦楽器と管楽器の関係は微妙というか、一線引かれているところがあるというのも、宮本氏ならではの話です。というのは、弦楽器が指揮者に近い場所にいて、管楽器は少し遠いので、どうしても音がずれがちなのだそうです。弦楽器が先に奏でているメロディーと同じものを、管楽器が追いかけるようなときは、管楽器奏者にとってはむずかしく、緊張しどころなのだとか。
故に、決してひねくれているわけではないけれど、管楽器奏者は後ろで一歩引いて弦楽器の演奏を聴いているところがあるそうで、でも、だからこそ、弦と管が息の合った演奏ができたとき、一体感が生まれるのだとか。オーケストラの演奏はやはり奥深いものなのですね。
<Q&Aコーナーより>
Q:ピアノが交響曲などで使われないのはなぜですか?
A:他の楽器の音色が演奏家によりその場で調律できるのに対し、ピアノの音は調律師により事前に設定された音を演奏者が動かせないので、実はピアノの音は他の楽器と調和しにくいのです。
ということは、裏返せば、演奏家が音(音色ではなく、絶対音)をコントロールできる楽器は、微妙に音を調整することでまさに周りと協調しているわけですね。ピアノはそれができないから、周りに合わせてもらわなくてはならない、ということなんですね。当たり前のことですが、改めて「あぁ、そーなんだ」と納得する思いでした。
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最後に嬉しいサプライズが...昨秋還暦を迎えられた宮本氏が記念に配られた絵ハガキセットを、参加者全員にプレゼントしてくれました。
高橋美紀さんによる“一筆描きによる宮本氏の絵”です。(絵ハガキはクリックすると見られます。)
講演後、著書『疾風怒濤のクラシック案内』にサインをもらいました(*^▽^*)v
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今回の話の冒頭は、前回の話について詫びることから始まりました。「予定よりオーバーして随分喋っちゃったけど、僕の話は何が何やらわからなかったんじゃないですか? 『あの人話すの好きね~』で終わっちゃったんじゃないかと思います」と。「すいませんね」を連発なさっていましたが、全然その必要はありませんでした~、宮本さん! 2回ともとっても楽しかったです。講演を聴いて、ますます好きになっちゃいました(#^.^#)
「写真を撮ってもいいですか?」と尋ねると、「どうぞ、どうぞ~」とニコニコして応じてくださいました。とても気さくな飾らない方です。
6月には同じ場所で「宮本文昭プロデュースコンサート ~ゲスト:桑山哲也~」というイベントも企画されています。桑山さんがどういう方か私は存じませんが、宮本氏に言わせると、いろいろな経験をお持ちの、とってもお話の面白い方なのだそうです。「ひょっとすると、アコーディオンの演奏より話の方が面白いかも?!」なんて、冗談をおっしゃっていました。また行っちゃおうかな?!
自分の備忘録を兼ねた冗長な記事におつき合いくださり、ありがとうございました
其れに引き換え第二番はオーストリアの保養地での滞在で作ら、風光明媚なこの地が大そう気に入って、ひなびた美しさを心ゆくまで楽しまれ、この地で第一番と違って異例の速さで書きあげられたと本で読みました。
内容も、ブラームスの田園交響曲といわれるように美しい自然を、自由に生気あふれるものとなっている作品に仕上がったのですね。
一番と二番を聴くと、いつもこのことをおもいだします。
しかし、宮本氏の画才にはびっくりですね。
お上手なスケッチが・・・・。
素敵なものを戴いて、お宝ですね。
長いコメントごめんなさいね。
1番と2番についての解説ありがとうございます。音楽に関しては(も)全般にお詳しいですよね。
絵はがきの絵は、写真の下に書いたように、高橋美紀さんという方の筆によるものです。題材となっているのは宮本氏ですが...。紛らわしい書き方でごめんなさい。