スマホのアラームが居間で鳴っている。もう6時か。暖まったベッドの中は心地好く、1分延ばしで逡っていたが、意を決して起き上がった。
居間に行き、テーブルの上のスマホを手に取ろうと引き寄せた転瞬、右足親指に鋭い痛みが走った。同じ卓上にあった10円玉がスマホに押し出されて真下に落ち、親指第一関節に命中したとわかるまで、かなりの時間を要した。
狙ってもできない難しい標的撃ちだ。偶然は人の予測を超える効果をもたらすことがある。コインの痛打は、私に「銭形平次」の投げ銭を想い起させた。
野村胡堂原作の「銭形平次捕物帖」の主人公で、ある時期、映画やテレビのヒーローだった銭形平次は、十手のほかに投げ銭を武器に使った。子供心にも、コインで人にダメージを与えることなどできるはずもないと思っていたが、それでも、逃げる犯人を捕らえたり危機一髪で人を救うときに銭を投げると、思わず喝采したものだった。
平次の投げ銭は寛永通宝(真鍮4文銭)と推定されていて、10円玉よりは重い5.2g。約70センチの高さから落下した4.5gの10円硬貨でも、円盤が垂直に急所を直撃すれば、猛烈に痛いことを知った。そしてこれまで、「銭形平次」の投げ銭を、実効性に欠ける机上の捕物技と断じていたことを愧じた。
だが、映画やドラマで見た投げ銭の携帯方法は、やはりリアリティ-を欠いている。寛永通宝の中心に空いている角穴に紐や針金を通して携帯したと説明されているが、それでは咄嗟に投げられるはずもない。もし財布からつまみ出したら、商家の旦那が心付けを渡すみたいで、捕物の緊迫感に欠ける。
4文銭が20枚ほど入って、それが下からバネの圧力で順次上に押し出される方式の、筒型革製マガジン(コイン・ホルダー)をつくり、帯に装着して一枚づつ親指で滑り出させてはどうだろう。この方がスマートでよりリアルな演出になるのではないだろうか?
もし再びドラマ化するときには、テレビ局の小道具方に、使い勝手のよいマガジンを試作してもらってはどうだろう。そうすれば、平次ドラマのアクションのリアリティーは改善されると思う。
平次が長火鉢を前に、恋女房おしずの淹れる茶を飲みながら、4文銭を1枚、2枚、とマガジンに詰めているところなど、絵になると思うのだが・・・
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