「中国ガン・台湾人医師の処方箋」(林 建良著)(並木書房)
古賀 剛大 様
中国の本質を知る最高の解剖学とその処方箋が本書に掲載されています。
皆様にその全貌をこれからご紹介していきます。(茂木)
その24
【中国ガン】海外に逃げる中国の高官たち
●成功者ほど外国へ移住したがる中国
地球村と言われる現在、さまざまな理由で異国へ移住する人が増えている。言葉も生活習慣も違う異邦の地で生きることは、並大抵のことではない。異国での生活は、慣れるまでの苦労はもちろん、一生かかっても越えられないハードルも多くある。異文化の下で生活するとはそういうものだ。
だから、自国で成功している者はよほどの理由がない限り母国を去ることはない。成功の土台をあえて捨て、他国でゼロからスタートすることは理屈に合わないからだ。しかし、中国では成功者ほど外国へ移住したがる。こうした心理は、おそらく日本人には理解しにくいかもしれない。
中国社会で成功とされる基準は「名利双収」(名声も利益も手に入る)と言われる。お金も名声も両方手に入れなければ、成功とは言えない。だから、中国で成功とされるモデルは、高官と高官をバックにして大儲けする企業家となる。
特に高官は、学問も名声も権力もお金も一身にあるから、最上位の人間とされている。『論語』に「学而優則仕」(学問が優れれば官位につく)という言葉がある。学問は官位への登竜門という中国的打算が行間に滲み出ている。
『論語』の通りなら、中国の高官は学問も優れているはずだが、庶民の間には「官大学問大」(官位が高いほど学問で威張る)という、高官の学問を揶揄する言葉もある。虚偽に満ちた『論語』よりも、庶民の言葉がよほど真実を反映しているようだ。
学問はともかく、中国人はいったん官位につくと、「升官発財」(昇進して金儲けする)に突っ走る。権力を手に入れてお金を儲けることは「名利双収」への最短距離だからだ。これが中国の成功モデルなのだ。
一般庶民から見れば、中国の高官はまさに極楽トンボのような存在である。「刑不上大夫」(権力者には罪が及ばない)という孔子の教えの通り、中国の権力者には法律も通用しない。これなら、高官は威張るだけでなく金儲けもでき、やりたい放題で、誰からも文句を言われないはずだ。
実際、中国では中央政府から地方の小さな村に至るまで、高官たちはワイロの授受だけでなく、人身売買から麻薬の密輸にまで手を染めている。高官たちにとって、中国はまさに天国なのだ。
●海外へ逃げ出す「升官発財」の中国高官
しかし、中国の高官たちはこの「天国」を見捨て、大量に海外に逃げ出している。九〇年代以降、判明しているだけでも、海外逃亡した政府高官は二万人に上り、不正に持ち出したお金は一〇兆円を超えているという。それも、一人あたり平均一三億円の公金あるいは不正蓄財を海外に持ち逃げしているというから驚く。元温州市副市長の楊秀珠なる高官は、判明しただけでも三兆四三五〇億円も汚職で手に入れ、海外逃亡したと伝えられる。
そこで、中国共産党は二〇一〇年一月、中央規律委員会監察部、公安部、司法部、外交部合同で「汚職公務員による海外逃亡防止会議」を立ち上げ、高官の海外逃亡に対する防止策を練っている。世界広しといえども、高官の海外逃亡を防ぐ組織は中国以外にない。こんな恥さらしの組織を作らなければならないほど、中国では高官の海外逃亡問題が深刻なのだ。
高官たちの手口は共通している。不正蓄財→子女を海外留学させる→資産を海外に移転→家族を海外に移住→本人が海外逃亡→渡航先国家の法を盾に帰国拒否、という手順である。
だから高官子女の留学は、海外逃亡へのワンステップであり、安全弁の一つなのだ。ちなみに、中国の最高決定機関である中央政治局の常務委員九人のうち、少なくとも五人の子や孫が米国に留学している。 その中、習近平の娘もハーバード大に留学中である。
普通の国なら、これはゆゆしき問題だ。なぜなら、国の指導者たちの子供や孫が他国に人質をとられているようなものだからである。しかし、中国の指導者たちにとって、国のことよりも逃亡先の確保の方が大切なのである。
さらに、二〇一二年三月までの統計によれば、中国共産党の最高指導機関である「中国共産党第中央委員会」第十七期の委員二〇四人のうち、約九二%に当たる一八七人の直系親族が欧米の国籍を取得している。 このほか、中央委員の補欠委員は一六七人のうち一四二人(八五%)、中央紀律検査委員会ではメンバー二七人のうち一一三人(八九%)の親族が海外に移住している。
米政府の統計によると、中国の省部級高官の子女のうち七五%が米国の永住権あるいは米国籍を所有しており、孫の代になるとその九一%が米国籍を持っていたとされる。以上の事実でもわかるように、中国の指導者たちの本音は自国から逃げ出したいのである。
●中央銀行が手引きするマネーロンダリング
高官たちが持ち出した資金はワイロだけでなく、金融機関からの借入金、国家建設プロジェクト資金などから横領した公的資金も少なくない。
彼らは地下銀行を利用したり、海外の特定関係者を通じるか、ケイマン諸島などのタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立し、中国から資産を移転してマネーロンダリングをする。実は、中国中央銀行のウェブサイト「腐敗分子による海外資産転移の手口」でその手口を詳しく紹介している。中国の高官たちがそのウェッブサイトを見ながら、熱心にマネーロンダリングの勉強をする姿が目に浮かぶ。
高官たちの逃亡先はアメリカ、カナダ、オーストラリア、東南アジアに集中している。地位が低い高官は東南アジアで、地位が高い高官はアメリカ、カナダ、オーストラリア、オランダなど欧米の先進国へ逃亡する。
なぜ逃亡先までランクがあるかというと、地位の高い人は当然ながら不法所得も多く、生活費の高い先進国でも楽に暮らせるからだ。また不法所得の多い分、死刑になる可能性も高くなるが、司法が独立した先進国なら、人権を盾にすれば逃亡先から強制送還されることはまずない。彼らは悠々とアメリカなどの先進国で余生を送れるのだ。不法所得の少ない高官なら、生活費の安い東南アジアで甘んじるしかないというわけだ。