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北海道十勝の深掘り サケを糧に生きる人々

2021-11-03 05:00:00 | 投稿

北海道十勝の深掘り サケを糧に生きる人々

全国の読者の皆様に、「北海道十勝ってどんなところ?」の疑問に深掘りしてお伝えしてまいります。


サケを糧に生きる人々

 船尾で波立つ海の色は、コーヒーを混ぜたかのようだった。
9月下旬、十勝管内浦幌町厚内沖でのサケ定置網漁。網を揚げるとすでに死んだ魚が目立つ。今秋、道東沿岸に広がった赤潮の影響は明らかだった。
 「痛ましい姿だ」。差間正樹さん(71)は水揚げに表情を曇らせた。同町のアイヌ民族団体「ラポロアイヌネイション」の会長。定置網漁は地元漁協の漁獲枠を使った共同事業だ。近くの浦幌十勝川では、道の特別採捕も行っているが、こちらも今期は不振で、この日網にかかったのは1匹だけだった。
 川は山から海へ流れる。多くはそう認識する。ところが、アイヌ民族の意識は逆だ。「海洋から山を目指して行っている生き物として考えている」(更科源蔵著「アイヌの神話」)。
サケは神様からの贈り物。厳しい冬を越すための保存食である秋サケの価値は大きい。和人との交易品となる経済資源でもあった。差間さんらはサケを糧に生きる「サーモンピープル」を自認する。


 ラポロアイヌネイションは昨年8月、国と道に対しサケ漁の権利の確認を求めて提訴した。十勝川下流域のアイヌ民族は江戸時代、集団(コタン)ごとにサケ漁を営んでいたが、明治政府から北海道開発を理由に禁止されたという訴えだ。
土地や資源に対する権利や政治的自決権を意味する「先住権」の確認を求める裁判は初めてだ。儀式のためではなく生業のため、個人だけではなく集団としての権利を主張する。
これに対し国と道は現行法の解釈上、先住権は導き出せないと反論する。裁判所の審理対象は法律上の権利関係の争いに限られ、「新たな立法をしない限り、法律上の権利として観念できない」というものだ。
 政府は2007年、国連先住民族権利宣言の採択に賛成票を投じた。その後、衆参両院でアイヌ民族を先住民族とすることを求める決議が採択され、アイヌ民族を先住民族とするアイヌ施策推進法も制定された。だが、先住権を明確に認める法律はまだないのが現状である。
 だが国連宣言は、先住民族の自己決定の権利を認めている。政治的地位と同様、経済的発展を追求するのは自由だ。伝統的資源の所有、使用を、国家は承認、保護しなければならない。
アイヌ民族が十勝川流域でサケ漁を行う権利を否定すれば、国際的合意を経たこれらの権利はどのように保障されるのか。裁判の結果、国や道の主張が認められたとしても、そのような疑問は残り続け、問題が解決を見るのは難しいのではないか。

 十数年前、米国東部バージニア州の先住民族居留地を訪れたことがある。地図にもない100人ほどの集落で、河川での二シン漁で生計を立てていた。民族の伝統で農耕は一切しない。
 400年以上前の英国人入植期から続く長い歴史を持つが、連邦政府から公式に先住民族と認定されたのは5年前。ようやく住民は住宅建設の補助や教育、健康保険の行政サービスを受けられるようになった。先住民族の権利を認めるのに時間がかかるのは米国でも同じだ。
 差間さんらは米西部ワシントン州の先住民族との交流を深め、現地視察も行った。そのグループは州とサケの捕獲権を争い、資源を半々に分けることで決着させた経緯がある。
先住民族の権利を巡る問題は世界各地にあり、それぞれが解決への努力を続けている。北海道の土地に根ざす先住民族が存在する以上、権利の問題はそこに住む誰もか避けて通れない道だと認識すべきだろう。

 

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