2020年7月14日付け朝日新聞の天声人語の記事である。
『北海道の二風谷でアイヌ伝統の木彫り工房を営む貝澤徹さん(61)は、少年時代の一夜を覚えている。ストーブの前で弟と翌日の釣りの話をしていると、両親に「火の神様の前でしゃべったら、全部魚に伝わってつれなくなる」と言われた。
火の神はアイヌの言葉でアペプチカムイ。貝澤さんは、白老町で開業した国立施設「ウポポイ」の作品を頼まれ、この作品を選んだ。「アイヌの文化では、自然界にたくさん神がいる。中でも火の神様ものごとを伝えててくれるんです」。
木彫りのアペプチカムイは、ウポポイの博物館に展示された。貝澤さんの祖母をモデルにした女性の顔を囲み、災が天に伸びる。災の隙間から細やかなアイヌ文様がのぞく。よく見ると、女性の口のまわりや手の甲には、入れ墨の模様があった。
明治政府は、女性の入れ墨や男性の耳輪の風習を禁じるなど同化政策を進めた。狩猟や漁労の生業を否定し、学校でもアイヌ語を話せさせなかった。研究の名で墓から遺骨が持ち去られた。
国際世論におされ、政府がアイヌの人々を日本の先住民族と認められたのは2008年のこと。文化復興のために作ったのが “ウポポイ”である。ただ、「国家が観光に利用」 「先住権はないがしろにされたまま」と抗議する人たちもいる。
貝澤さんが アペフチカムイを彫ったのは、樹齢400年を超える埋もれ木だ。明治以来、150年の間に風前の灯火にされたアイヌの壮大な文化が、再び豊かな火をともすよう願う。』
貝沢徹氏は、息子の義父である。彼の顔を見ていていつも思うのであるが、何と人間らしい顔をしているのだろう。人間らしいアイヌのことを、アイヌ語で「アイヌネノアンアイヌ」というらしい。
【北海道新聞 2018.12.10付け電子版の掲載記事】
平取町二風谷の工芸作家貝沢徹さん(当時60歳)が、アイヌ民族の守り神であるシマフクロウの木彫りの大作に取り組んでいる。札幌市が2019年3月、市営地下鉄南北線さっぽろ駅構内の歩行空間に展示するオブジェだ。貝沢さんは「多くの人に親しまれる作品に仕上げたい」と日々、木づちでのみを打っている。
白老町の民族共生象徴空間の20年開業をアピールする「アイヌ文化を発信する空間」に設けられ、同空間では最大のオブジェとなる。貝沢さんは英国の大英博物館に作品を出品するなど高い技術に定評があり、札幌市から今春に制作を依頼された。
作品はアイヌ民族の守り神シマフクロウが空に飛び立つ姿で、高さは2メートル40センチ、左右の翼を胴体に合わせると、両翼は4メートル超となる。原木は平取を流れる沙流川にあった埋もれ木で「いつか大作を制作するために保管していた」という。
貝沢さんにとってこれほど大きな作品は初めて。胆振東部地震で工房内の作品も倒壊する被害を受けたが、原木を立てずに作業をしていたため、シマフクロウ像の倒壊は免れた。「立てていたら倒れて割れ、やり直しだった」と話し、守り神に救われたことに感謝している。
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