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西の空低くく、満月が沈んでいった。
朝靄が引いては、また流れていた。東の山際は黎明の兆しに染まり始める。
気温11℃。ひんやりとした以東岳の朝だった。
また雪渓から雪を掻き出し朝食分と、その日の水をつくる。
雪渓わきに咲く、朝露を纏うバイカオウレンやハクサンチドリ、ヒナウスユキソウそして小屋裏のキバナノコマノツメ群生。
今日は徹底的に、これらの花々を撮影すると決めた。
だから大朝日岳まで足を延ばさないで、中間点の竜門小屋泊まりとする予定。
その間に朝日連峰、最大の花園、寒江山がある。
6:45 以東岳避難小屋出発。
ガスが流れて時々、白く視界を閉ざす。
それでも空を占める青が圧倒する、まぎれもなく夏の朝だった。
以東岳から眺める重畳たる山塊の連なりに身震いする。
南北に延びる連峰の南の主峰、大朝日岳が1870mそれと対をなす北の以東岳が1772m。
その間、1500mから1600mクラスの山が連なる。
所詮2000m以下の山だと侮っていると、とんでもない。
この山ひとつひとつが、大きいのだ。
日本最大の山脈、奥羽山脈の背骨をなす山塊は、幾重にも山を重ね圧倒的なスケール感で迫ってくる。
ピークを越え、また次なるピークを目の当りにして、その大きな山容に圧倒される。
「あぁ、あの山を越えるのだ」という喜びが湧き上がってくる。
それはアルプスの峻嶮な嶺ではなく、あくまでも、たおやかな母なる山々に抱かれるような安らぎ。
花崗岩の砂礫とハイマツの山。
低く矮小なミネカエデやナナカマドとハイマツそして笹原の山。
一面の草原が広がる開放的な山。
小さな池塘の点在する湿地の山。
朝日連峰の山々は、それぞれがとても個性的な表情を持つ。
百名山、大朝日岳までは、それぞれに素晴らしい花園が広がっていた。
百名山に近づくと、とたんに山が荒れる。
私は局所的に人が集中する百名山が嫌いだ。
(石鎚山も百名山だ。だから静かな冬期以外は弥山に近づかない)
世界遺産も世界一のエベレストも同様に嫌いだ(笑)
大朝日岳を過ぎると、とたんに山は静かになる。
そして花々は一面に咲き乱れる。
今回のハイライトは3つのピークを持つ寒江山だった。
足の踏み場もないほど花々が咲き乱れる。まさに百花繚乱。
この場所で一時間以上過ごした。
上記掲載の画像は、その花々のほんの一部と思ってください。
これから夏本番になるとマツムシソウやニッコウキスゲの大群生が見られるようだ。
さて朝日連峰山旅の目的であるヒメサユリが、何時まで経っても出てこない?
もちろん、この縦走路中にもたくさん咲いていました。でも全体にまだ咲き始めたばかり。蕾が多かったです。
このまま書き進めるとヒメサユリ登場は、ブログ記事の明日になりそうなので時系列を繰り上げます。
朝日連峰最大のヒメサユリ群生地は小朝日岳手前の銀玉水あたりだと云われています。
出発前に紹介した動画でも、ここが撮影されていました。
あいにく最終日は夏の嵐のような一日でした。
まったく視界がきかず大朝日岳山頂よりの下山路を間違えました。
(山頂で出会った人と話している内によく地図を確認しないまま目の前の下山路を辿った)
目的地である朝日鉱泉へ至る尾根道であることは間違いないので、そのまま道を辿りました。
この道は3本ある朝日鉱泉へ至るルートの中で一番遠回りになる。
とにかく尾根道は単調で長かった。
やっと到着した御影森山。(晴れていると大朝日岳の展望に優れているようだ)
ここからの下山路が今回の山旅のクライマックスでした。
しばらく下ると路傍に美しい今を盛りのヒメサユリの群生。
ちょうど雨も止んできたのでザックを下ろしてカメラを取り出す。
カメラ片手に周囲をみれば登山道沿いに延々とヒメサユリの花群が続く。
そのまましばらく追ってゆくと右手の斜面(茅原)一面が鮮やかな桃紅色に覆われている。
その中に早咲きのニッコウキスゲの黄色も点々と。
その花園がずっと続くのだ。
まるで夢の世界に誘われたような非現実的な風景だった。
淡く靄が立ち込め、雨上がりの露を纏った乙女百合の姿は、艶やかで凛とした北国の乙女そのものだった。
あえて群落写真を撮らず、もっとも美しい花姿を切り取った。
山や花の好きだった亡き母や父に何度も語りかけた。
老いてままならなかった身体から解放された父母は、いつも私と共に旅をしている。
「父さん母さん、綺麗だねぇ」
この花風景だけは父母とそしてハマノお婆さんと一緒に共有できたと思う。
間違いなく生涯忘れられない旅のクライマックスだった。
さて足早に避難小屋と水場の情報を。
以東岳避難小屋は、少し旧くて戸外のトイレもポッチャンでした。
それ以外、狐穴小屋も竜門小屋も建物が新しくトイレは内部に有り水洗です。
大朝日小屋は改装中でしたが、こちらも比較的新しそうでした。
収容人員も50名は越えそうで1階2階ともに板張りです。着替え用の個室もありました。
シーズン中は、ずっと管理人さんが常駐するようです。
小屋の管理費¥1500をポストに投函してください。
もちろん避難小屋ですから寝袋、食糧は持参です。
水場は以東小屋は雪渓に覆われていて確認していませんが小屋から少し下ったところにあるようです。
狐穴小屋、竜門小屋ともに小屋前に豊富な水が湧きだしていました。
大朝日小屋は金玉水の水場になりそうです。(今回は雪渓の中)
東北の山は、とても避難小屋が充実していると聞いています。
そのガイドブックも出版されているようです。
明日、もう一度、この御影森山尾根の豊かな森と下山した宿、「朝日鉱泉ナチュラリストの家」について書きます。
とても印象に残る宿でした。
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東北の避難小屋150―完全ガイド |
高橋 信一 | |
随想舎 |
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