今回は、ちょっと趣向を変えて、お山(石鎚山)で体験した不思議な話をしてみましょう。
山の怪談話ではないのですが、10年以上撮影のために山のなかで野営をしていると
不可思議な現象や光景を幾度か目の当たりにします。
それは普通に見過ごせば、なんでもないようなことかもしれません。
深山幽谷の漆黒の闇が放つ濃密な夜の気配であったり、
私だけが感じるような皮膚感覚(勝手な思い込みとも云う)の類(たぐい)でしょうか。
村上春樹の作品に「鏡」という短編があります。
旅先のアルバイトで夜の学校の巡回をするというお話です。
何も怪異現象のような類は起こりません…でも底なしに怖い読後感なのです。
人の心が底なしの闇に感応する 恐怖感です。
これから私が紹介するお話は、怖い話ではありません。
石鎚の濃密な夜の闇が覗かせてくれる、ちょっと不可思議な時間です。
もう随分前の話です。
HP「石鎚山の四季」を開設当時から御覧の方は、この話を覚えてらおれるかもしれませんね。
7月下旬の皆既月食の夜でした。
夕方から薄雲が広がって、あいにく天体現象撮影は思うに任せませなかった。
二の鎖下のテン場にテントを張り、
夕食後の低く雲の垂れ込めた夜空を恨めしげに眺めていた。
すーっと闇夜に光跡が延びた。
「えっ?この闇夜に流れ星?」と目を凝らした。
確かに、時折雲間を裂いて星が瞬くこともあるが、
そんな遠い間合いではない。
もっと谷を一つ隔てたような距離から光が延びてくる。
光は一瞬虚空に留まると、
木立の闇を放物線を描くように滑空する。
「蛍?」
この場所は標高1700mを越える。
こんな高所に蛍が生息するという話は聞いたことがない。
それに四国の蛍は5月下旬から6月中旬くらいに発生する。
7月下旬に蛍というのは、いかにも時期外れだ。
目で追っていた光跡が軌道を変えて、
すーっと近づいて来る。
青白い発光体が間近に迫り、手を延ばせば届くところまで急接近。
その青白い光は、私の周りをふわふわ纏わりつくようなランダムな動きをみせ、
そのまま楕円軌道のピークで虚空へと光を放った。
視線の先、二の鎖元の鳥居を越えて、遥かな闇へ消え入るように没してしまった。
いくら目を凝らしても、それから二度と光は出現しなかった。
この話には、後日談がある。
下山した面河渓の顔見知りの土産物屋のおばちゃんの話では、
その年、陸棲のヒメボタルが大発生。
面河渓の奥や土小屋辺りでも蛍の群舞が観られたと言う。
おそらく、あの蛍は上昇気流に乗ったはぐれ蛍だったのだろう。
でも闇夜に灯る、たったひとつの蛍の光跡は、なんとも儚げで神秘的な光でした。
最近読んだ本が全体にハズレ気味なので、こんな「山のフォークロア」を思いつきました。
また折を見て、これからも紹介してゆきたいと思っています。
(掲載した画像は松山市郊外の源氏蛍の光跡です。本文とは関係ありません)
山の怪談話ではないのですが、10年以上撮影のために山のなかで野営をしていると
不可思議な現象や光景を幾度か目の当たりにします。
それは普通に見過ごせば、なんでもないようなことかもしれません。
深山幽谷の漆黒の闇が放つ濃密な夜の気配であったり、
私だけが感じるような皮膚感覚(勝手な思い込みとも云う)の類(たぐい)でしょうか。
村上春樹の作品に「鏡」という短編があります。
旅先のアルバイトで夜の学校の巡回をするというお話です。
何も怪異現象のような類は起こりません…でも底なしに怖い読後感なのです。
人の心が底なしの闇に感応する 恐怖感です。
これから私が紹介するお話は、怖い話ではありません。
石鎚の濃密な夜の闇が覗かせてくれる、ちょっと不可思議な時間です。
もう随分前の話です。
HP「石鎚山の四季」を開設当時から御覧の方は、この話を覚えてらおれるかもしれませんね。
7月下旬の皆既月食の夜でした。
夕方から薄雲が広がって、あいにく天体現象撮影は思うに任せませなかった。
二の鎖下のテン場にテントを張り、
夕食後の低く雲の垂れ込めた夜空を恨めしげに眺めていた。
すーっと闇夜に光跡が延びた。
「えっ?この闇夜に流れ星?」と目を凝らした。
確かに、時折雲間を裂いて星が瞬くこともあるが、
そんな遠い間合いではない。
もっと谷を一つ隔てたような距離から光が延びてくる。
光は一瞬虚空に留まると、
木立の闇を放物線を描くように滑空する。
「蛍?」
この場所は標高1700mを越える。
こんな高所に蛍が生息するという話は聞いたことがない。
それに四国の蛍は5月下旬から6月中旬くらいに発生する。
7月下旬に蛍というのは、いかにも時期外れだ。
目で追っていた光跡が軌道を変えて、
すーっと近づいて来る。
青白い発光体が間近に迫り、手を延ばせば届くところまで急接近。
その青白い光は、私の周りをふわふわ纏わりつくようなランダムな動きをみせ、
そのまま楕円軌道のピークで虚空へと光を放った。
視線の先、二の鎖元の鳥居を越えて、遥かな闇へ消え入るように没してしまった。
いくら目を凝らしても、それから二度と光は出現しなかった。
この話には、後日談がある。
下山した面河渓の顔見知りの土産物屋のおばちゃんの話では、
その年、陸棲のヒメボタルが大発生。
面河渓の奥や土小屋辺りでも蛍の群舞が観られたと言う。
おそらく、あの蛍は上昇気流に乗ったはぐれ蛍だったのだろう。
でも闇夜に灯る、たったひとつの蛍の光跡は、なんとも儚げで神秘的な光でした。
最近読んだ本が全体にハズレ気味なので、こんな「山のフォークロア」を思いつきました。
また折を見て、これからも紹介してゆきたいと思っています。
(掲載した画像は松山市郊外の源氏蛍の光跡です。本文とは関係ありません)
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