Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

共感する心

2012-01-01 | 生活、環境

 

 小野不一さんの2011年に読んだ本ランキングは、小野さんの云うように、その本をチョイスするセンスに瞠目させられる。

 どの本も興味が尽きないが、とりわけ「共感する心」というキーワードで次の3冊に強く惹かれた。

 

 「逝かない身体、ALS的日常を生きる」川口有美子

 この一冊には特に惹かれる。

 後段のこの一節を引用させてもらう。

 

 効用を重んじるあまり、我々はコミュニケーション不能となり、生の重みを見失ったのだ。

 川口の達観は一種の悟りといってよい。わけのわからない哲学よりも遥かな高みに辿り着いている。

 たとえ植物状態といわれるところまで病状が進んでいても、汗や表情で患者は心情を語ってくる。
 汗だけでなく、顔色も語っている。


 私は頬を打たれたような衝撃を受けた。川口が示しているのはコミュニケーションの可能性であったのだ。「コミュニケイト」は「つながっている」ことを意味する。その状態とは理解-共感である。これは理解から共感に至るのではなくして同時であらねばならない。すなわち理解即共感であり共感即理解なのだ。

 

 そして、アマゾンのブックレビューも添えておきます。

 たとえば、母上の病気が進行し眼球の動きもとまってまったくコミュニケーションがとれない状態になったときに著者はこう書いています。
 「想像には限界があった。だから母のために私に何かができるのだとしたら、それはありのままの母を認めて危害を及ぼすようなことは一切しないことだ。」(p.199)
 人工呼吸器を止めれば母は楽になれるのではないか、という考えを反芻した末に、著者がたどりついた結論でした。

 「家族の代理意思決定」だの「慈悲殺の是非」だのといった聞き覚えのある言葉では語り得ないことだと感じました。

 言語的なコミュニケーションがとれなくなってからも、母上がその身体でさまざまなことを伝えてきた様子もつぶさに書かれていました。

 身体からなにを読み取りどう応えるかは、ひとえにケアにあたる側の感受性にかかっています。

 押さえた筆致からは、著者が意図するのは読み手を感動させることではなくて、人間の生がはらむ可能性を見逃さないでほしい、大切にしてほしい、という気持ちなのだとわかるのですが、

 やはり体験から紡ぎ出された言葉には、人の心を動かすしずかな迫力があります。

 これからわたしは折々にこの本を読み返すことになると思います。そして、読むたびに新しい発見をしていくことになるだろうと思います。

 

 もう一つのブクレビューも。 

 奇妙な本である。なんとも形容しがたい、すべての形容を裏切り、形容されることを拒むような内容だ。

 ひとことで「ALS患者である著者の母の闘病記」と言ってしまうのに躊躇する。そもそも、「病と闘うこと」をやめ、「病と共にあること」「病める者の隣で佇むこと」から見えてくる情景が描かれる。

 それは、よくあるような感動の物語ではない。

 むしろ、日常の気ぜわしい毎日が、それでいて淡々とつづられる。

 ALSと言えば、気管切開や人工呼吸器、さらには呼吸器装着や不装着、あるいは呼吸器外しをめぐって、生命倫理学という業界では安楽死や尊厳死の議論の俎上に乗せられたりする。

 著者もはじめは患者の安楽死を望んでいた。

 しかし、いくつかの出会いが著者を思いとどまらせた。患者本人は世界を受信することは可能だ。発信こそ困難ではある―

 ―最近ではさまざまな工夫、機械と身体との接合によってそれも徐々に可能になりつつある――が、この世界を感受し、重力に身をゆだねながら生きることもそう悪いことではない。

 何より、社会的なサービスが充実すれば、この人たちは生きられるのだ。このような「生の現実」こそを、生命倫理に携わる者は直視すべきではないのか。

 エスノグラフィでもあり、また良質な生命倫理の本でもある。すべての形容を拒むようなこの本は、しかしながらシルクのような手触りでことばを紡いでいく。これは、文学的傑作と言ってよいだろう。

 

 「共感の時代へ、動物行動学が教えてくれること」フランク・ドゥ・ヴァール

 この本にもアマゾンの紹介文を添えておきます。

 「共感」こそが混迷の現代社会を救う――
 「利己的な遺伝子」などのメタファーがもたらした現代の競争社会。利己的動機と市場の力のみに基づく社会は、富を生み出すことはできても、人生を価値あるものとするような相互信頼は生み出せない。

 世界的に著名な動物行動学者が、チンパンジーやイルカなどの豊富な実験や観察例を引きながら、「共感」が進化史上哺乳類に共通の特性であることを明らかにする。

 そして、壁にぶつかってしまった極端な利益優先社会を、「共感」を基盤とする 新たな社会とするよう提唱する。

 われわれは、人間と動物が心を通わせたり動物同士が助け合ったりする場面になぜか心惹かれるが、動物たちのあいだでは、信頼や公平さの感覚、互恵的行為が見られる。

 また、ミラーニューロンの発見で、他の個体の動作を模倣したりする「共感」の神経生理学的基盤が得られた。「共感」は人間が新たに獲得した特性ではなく、脳の古い層の作用なのだ。

 いまや、生物や進化を考えずに政治や経済は語れない。なぜなら社会は人間から成り、人間は進化の歴史の上にあるのだから……。そして「共感」にも長い進化の歴史の裏づけがある。

 「これは、人間の優しさの生物学的ルーツについての大切でタイムリーなメッセージだ」
 --------デズモンド・モリス(『裸のサル』の著者)
 「共感」が進化の歴史の中で、生存のためにどれほど重要な価値を持っていたかがもっとよく理解できれば、

 人間の特質をより寛大により正確に捉え、それに基づいたより公正な社会の建設に向けて、私たちは力を合わせられる、とドゥ・ヴァールは言う。

 さまざまなエピソードや皮肉の効いたユーモア、鋭い知性に満ち、素人にもわかりやすい文体で書かれた本書は、われわれが迎えている困難な時代における必読書だ。

 

 「一神教の闇、アニミズムの復権」安田喜憲

 一神教の闇にはアマジンの紹介分も添えておきます。

 一神教の闇
地球規模で進む環境破壊の背景に潜む宗教的価値観や文明観を考察した1冊。 対比して論じるのが一神教とアニミズム。超越的秩序の宗教と現世的秩序の宗教とも言い換えられる。前者は、神の国という幻想の世界を信じ、後者は目の前にあり、現実に存在する命ある世界を重視する。このように宗教・価値観に違いが生まれたのは、両者に力でコントロールする畑作牧畜、持続を重視する稲作漁労という文明の違いがあったためと解説する。アニミズムの世界観の復権を これまで、超越的秩序の宗教を持たない社会は不完全、野蛮、猥雑といった表現がされることが多かった。著者はそれを「大きな間違い」だと主張する。むしろ、「今日の地球環境問題は、目の前にある現実世界の生命倫理と地球倫理よりも、人間中心主義の倫理を重視することによって引き起こされた」として、一神教の“闇”の側面に光を当てる。 森や海、川、またそこに生きる生物を尊ぶ気持ちこそ、今日の地球環境問題解決に不可欠な要素である。著者は、市場原理主義に支配された現代文明を止揚し、地球環境問題の危機を回避するためには、現世的秩序に立脚した「美と慈悲の文明」「生命文明」を創造するしかないとして、アニミズムの世界観の復権を提唱する。 そのために日本がすべきことは何か。まずは、アジア・太平洋地域に数多いアニミズム文明の伝統を残す国々と深い友好関係を結び、「アニミズム連合」を構築してアニミズムの心を世界に広めること。さらに、自然が培ってきた英智を人間の暮らしに利用することで、自然に負荷をかけず、エネルギーを循環的に利用する持続型文明社会としての「ハイテク・アニミズム国家」を構築することである。こうして、世界の平和と繁栄、地球環境の保全に貢献すべきだと訴える。 アニミズム・ルネッサンスを最初に提唱した1990年以降、世界中の反論を受けながらも屈せず、アニミズム研究を重ねてきた著者の強い思いが感じられる。


(日経エコロジー 2007/02/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)

 


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4 コメント

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逝かない身体 (ランスケ)
2012-01-02 16:07:26
逝かない身体…この本は、その後アマゾンのブックレビューを読み進めると、
益々凄い本だと実感しています。
その書評もブログ記事に追加しました。
是非、読まなければ。

小野さんが一位に選んだ「ポスト・ヒューマン誕生」は、色々評価の分かれる内容なようです。
最近読んだSF「あなたのための物語」と内容がリンクしてきます。
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山上からのHappy new year (ランスケ)
2012-01-02 21:41:24
カタックリさん、福島さん、スローシャッターさん、思いがけない新年の声に驚いています。
石鎚山上からのHappy new year ありがとうございます。
皆さんの温かいエールに励まされました。
また新たな年を迎える元気をもらいました。

このコメント欄を伝言板代わりに使わせてもらいます。
またお山でお会いしましょう。
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ご連絡 (スローシャッター)
2012-01-04 11:58:13
 2日の夜は少し酔っていましたので大変失礼いたしました。
 ランスケサンの話題になり彼女が急に電話をしまして私もびっくりした状態でした。
 ブログをいつも拝見して縁がありましたら山でお会いしたいなと思っていましたからお話できて大変嬉しかったですね。
 今回はFさんYさんともいろんなお話をお伺いして今後の活動に元気が出てまいりました。
 今後とも宜しくお願い致します。
>ブログ名 : 自遊人俱楽部(倶楽部といっ ても一人で自分だけで遊ぶ人、用は単独行で す)
>ハンドルネーム : スローシャッター(写 真を始めた時にスローシャッターで撮るのが 好みだった所から)
>URL :  http://roomofrest345.blog129.fc2.com/
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また縁が広がりました (ランスケ)
2012-01-04 13:42:27
スローシャッターさん、改めて書き込みありがとうございます。

早速、ブックマークにリンクを張りました。
えっ?カタックリさんにクライミングを指導する山ヤさんでしたか。
あのタフなカタックリさんの師匠ですから、
う~ん、これは凄そう。

こちらこそ宜しくお願いします。
山でお会いする日を楽しみにしています。
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