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すっかり春めいてきたみたいだ。
病院の窓越しに射す光も、心持ち柔らかくなった印象。
すくすく膨らむ野辺の若草のように、委縮して色を失っていた患部が
日増しに血色を取り戻し自己主張し始める。
「早く外へ連れてゆけ」と。
好きな作家の作品は、縁があるというか不思議と繋がってゆく。
梨木香歩の「エストニア紀行」を書店の棚から抜き取るときに、
横に並んでいた「渡りの足跡」も一緒に購入しようかと迷った。
でも間もなく文庫化されそうな時期だし、文庫化されると誰が解説を書くか楽しみ。
私は、この解説が読みたいがために(好きな作家の解説は同様に別の好きな作家が書いている場合が多い)
同じ本を単行本と文庫の2冊持っているケースが多々ある(笑)
そして、この手の本は何度か再読するので(山や旅行に持ってゆく)文庫サイズは便利だ。
そのときの予感めいた閃きが、不思議に的を射たようだ。
読了後の新聞広告で、「渡りの足跡」の新刊文庫案内を発見。
読み終えた「エストニア紀行」の中で、散々渡り鳥に対する好奇心を掻き立てられただけに、
躊躇なく、その足で通りの向こうの大型スーパー内の書店に直行。
そういえば4月には村上春樹の長編新作も発売されるとか(わくわく)
遥か大陸から一陣の風が吹いてくる。
その風を測ったかのように大鷲は、気流に乗って高みへ高みへと昇りつめ、
北へ向かう季節風を捉える。
南風が吹き始めた日。
それはしばらく不通になっていた北への定期航路が
ついに再び開通したというような画期的な日なのだ。
遥か南極から北極まで地球規模の移動をするキョクアジサシや
ヒマラヤの高嶺を越えて旅するソデグロツルのように
渡りをする鳥たちの存在は、私たちの旅心を刺激してやまない。
仏映画に「WATARIDORI」という美しい記録映画があった。
この映画は限りなく鳥の視点に近づいた映像に目を奪われた。
その鳥の視点、鳥瞰図を梨木香歩は、こう表現する。
鳥瞰図という言葉は、高い視点で俯瞰された風景のことを言うけれど、
鳥の視力は人間には考えられないほど優れたものらしい。
時々その感覚を想像する。
それはマクロとミクロを同時に知覚できるようなものではないだろうか。
遠くでしている生活の音やにおいが、動物の動きがまるで自分がそこに
身を浸しているように感じられるような。
彼方で誘って止まない北極星の光が、外界と内界の境を越え、
自分の内側で瞬くのを捉えるような。
それは越境していく、ということであり、同じボーダーという概念を扱いながらも、
他者と境に侵入し、それを戦略的に我がものとする「侵略」とは次元も質も違う。
「越境する」ということの、万華鏡的な豊穣さに浸って、
言葉が生み出され、散らばって、また新たな言葉が誕生する。
そういう無数の瞬間の、リアリティの中を、生きものは渡っていく。
知床から始まる作家の渡り鳥を巡る旅は、
新潟の福島潟、諏訪湖、カムチャッカへと移動しながら
その土地と人と野生動物に纏わるエピソードを重ねてゆく。
勝手に野生動物に対して人の想いを仮託してはいけないのだろうが、
諏訪湖で瀕死の重傷を負ったオオワシが人の手で助けられ、
その後も十年以上も単独で諏訪湖に渡り続けているというエピソードは胸を打つ。
「デスルーウザラー」の作者アルセニエフと愛犬アリパのエピソードも。
「アリパや哀れ。お前は8年間も歩き続けるという生活を共にしてくれた。
そして自分の死によって、私と仲間を救ってくれた」
こういう極限のエピソードも重ねながら、
それでも一番会いたい野生動物は、世界一小さい哺乳動物トウキョウトガリネズミかもしれない?
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渡りの足跡 (新潮文庫) |
梨木 香歩 | |
新潮社 |
タイトルも含め、内容もとても共感できます。
私も最近、渡りの足跡をブログに綴りました。
GoodDuck(hojoki@live.jp)
ずいぶん旧い記事への書き込みなので見落としていました。
これは山で骨折した折の入院生活の読書日記でしたね。
なにせ一日が、とても長くて本の世界に毎日耽溺していました。
特に旅の記録は好いですね。
梨木香歩や中村安希の旅が印象に残りました。
そういえば最近、文庫新刊で出た中村安希の「愛と憎しみの豚」が面白かったです。
豚食を禁忌とする民族や宗教は結構多くて、
ユダヤやイスラームに始まり欧州から東欧、ロシアから日本まで
豚にまつわるフィールドワークは、とてもわくわくさせられる旅の記録でした。
GoodDuckさんも、きっと興味を持たれる内容では?と想像します。
中村安希の旅の本は、一作目の「インパラの朝」をお薦めします。
http://blog.goo.ne.jp/toshiaki1982/e/468c1deb1d529478d3f461e50b2ef917
ご訪問ありがとうございました。