Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

大丈夫、生命は繋がってゆくよ-「沼地のある森を抜けて」

2010-05-28 | 
 梨木香歩「沼地のある森を抜けて」(新潮文庫)の再読。

 一度単行本で買った本を、文庫化されるとまた買ってしまうことがある。
 よくあるのが心に残った本を、お気に入りの作家が末尾で解説文を書いている場合。
 例えば沢木耕太郎の「凍」を池澤夏樹が解説とか、
 いしいしんじの「ポーの話」を堀江敏幸が解説とか…
 普通の感覚なら解説文だけ読めば済む事なのに、なぜか買ってしまう?
 ファン心理というか…「あぁ、やっぱり同じように惹かれあうんだ」という錯覚(笑)

 「沼地のある森を抜けて」も解説が翻訳家の鴻巣友季子。
 朝日新聞の読書欄では川上弘美がぬけた後、最もシンパシーを感じる評者。
 それと同じくらいのウェイトで、山へ持って行きたい本(何度も繰り返し読みたい本)
 として携帯に便利な文庫を再購入することがある。

 さて糠床(ぬかどこ)と酵母菌(微生物)の話である。
 糠床から卵が出来(しゅったい)して卵から人が出現する。
 もうこれだけで退いてしまう読者もいるだろう…
 それに、こいつがフリオである。(フリオ・イグレシアスまたは僕とフリオで校庭に)
 ここいらで脱落した読者はお気の毒様。

 スローフードな糠床は、宮本輝の作品や小川糸「食堂かたつむり」にも登場する。
 微生物の揺り籠「糠床」は、森や地球の雛形とも云えるミクロコスモスから
 マクロコスモスをも包含する小宇宙。
 物語と同時進行する「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」という寓話が好い。

 原初の暗黒の宇宙に誕生した細胞の絶対的な孤独から
 生命を繋ぎ続ける生物種の意志(無性生殖、有性生殖に係わらず更新し続ける命の連鎖)
 亜熱帯の故郷の島へと辿り着いた主人公たちが迎える
 祝福の光に包まれた終章に溜め息。

 微生物叢(ミクロフローラ)としての森を視野に入れ撮影を再開したい。

 
 
沼地のある森を抜けて (新潮文庫)
梨木 香歩
新潮社

 





 
  

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