思いつくまま感じるまま。

身辺雑記です。
何でもありの記録
HN天道(てんとう)

ちょっと怖い話

2007年08月17日 | Weblog
私はすべての感覚を失っていたが、聴覚だけが妙に冴えていた。
ベッドに横たわる私の胸に医師が聴診器を当てる仕草が空気を通じて伝わってくる。
次に小さな懐中電灯を使って、こじ開けた目に光を当てる。
私の口元に医師が顔を近づける。
そして腕時計を見る。
「9時35分、ご臨終です」
と厳かに言葉を発する。

「えっ、私が死んだ?、この意識は何なんだ、まだ生きているっ」
と叫ぶが、実際には私は死体のように横たわっている。

3日後に私は葬儀を終え、死体焼却所にいた。
誰も私の死を疑うものはいない。
「誰か気づいてくれっ」
と祈るが所詮無理な話しだ。

突然皮膚に知覚がよみがえり熱気にむせた。
「助けてくれぇ~っ」
と突然に大きな声になった。


子供の頃、焼却場の係員が、火を入れた後にそのような大声を聞いたことがあると言う話を聞いた記憶がある。
それは本当に生き返った声かもしれないし、体内の空気が熱で外に出るときに喉を震わせて発する音かもしれない。
今ほど医学が発達しておらず完全な死を確認出来ていなかった時代があった。
完全な死を迎えないままに、焼却熱で突然すべての知覚が元に戻って生き返ったのかもしれない。

ヨーロッパはいまだに土葬が習慣になっている。
昔は墓を暴く泥棒がいたと聞く。
一緒に埋葬された貴金属など高価なものを狙っての犯罪だ。
そんな棺の中に時々、棺の中板が爪でかきむしられ血の混じった爪跡がついていることがあったと言う。
埋められた後に意識が蘇って、何とか出ようと爪でかきむしった訳だ。
これも医学がまだ完全な死を確認できなかった時代の話だ。