もう20年くらい昔になるが、真夜中に風呂場でガサゴソ音がする。『えらく早い洗濯だな』と思って時計を見ると何と丑三つ時だ。如何にもオカシイ、と言うわけでソッと近着くと人の気配がない。でも、風呂場でバケツを引きずるような音がする。パッと灯りを点けてみた。すると音は止んだ、のではない、今度は風呂場の天井裏から音がする。
ほうきを持って来て天井をトンと叩いてみた。すると、徐々に音が移動する。隣の洗面所の天井に動いた。そこをまた叩くと今度は玄関の天井裏で、次に玄関の壁の中からガサゴソ音がする。風呂場の天井裏からそんな簡単に行ける場所ではないし第一玄関の壁は土壁で何モノかが入れる空間などない。
キツネにつままれた、とはこの事、困惑して立っていると今度は下駄箱の中から音がし始めた。そこで戸を開けた!何にもない。音も止んだ。
さて、これを家族に話すとバカにされるだろうと思って黙っていた。すると・・数日後に同じ音が同じ風呂場で起こった。そこでソッと息子と妻を起こして三人で見た。同じ経過をたどって最後は下駄箱で消えた。
当時我が家は八方塞りの苦境にあった。明日が見えない状況だった。
さて、判然としないままに時が過ぎた。或る時玄関をぼんやり眺めていて何かしら気に障るものに気がついた。この家を新築してすぐに町へ出て買って来た白い焼き物の獅子の置物である。妙に気になった。もう何十年も下駄箱の上に乗っているのだが思い切ってそれを庭の片隅に捨てた。
或る時近所の奥様がそれを下さいと持って行った。その奥様はまもなく肺がんで亡くなった。その獅子の置物はその奥様の家の犬走りの隅に置いてあった。無人になった家を買い取った家族があった。しかし越してきて間もなくそのお父さんが亡くなった。ついでお母さんも具合はかばかしくなくて施設に入った。一人残った息子さんは面倒な病気で今も不自由している。
問題の獅子の置物は未だその家の犬走りの片隅に置かれている。
我家のポルターガイストは無くなった。我が家の八方塞がりは徐々に解消して今は何もない。
その獅子の置物がこれら全ての原因と断言はできなかろう。しかしその経験を通じて私は今、自分が生きている世界に見えない何者かも同居している、そして何らかの憑代があるとそれは悪さをする、と言う事を知った。
人や生き物のフィギュアを置く事には用心した方がいい。
数年前、義兄の家に泊まった。寝室でふと目を揚げると柱に般若の面が懸けてあった。『こいつはまずい!』と思ったが言うわけにもゆかず放っておいた。間もなく義兄は急な病で亡くなった。
息子達、娘たち、屋内に置く生き物の形象物、面、絵画などに注意したまえ。置かないほうがいい。
妻はネコが大好きだ。タオルや室内履きなどあらゆるところにハローキティが居る。玄関には招き猫がある。もうひとつ、ミミズクやフクロウの置物がいくつかある。まずいな”!と思っているが言えない。これらにいつ何かが乗るか判ったものではない。彼女には見える世界しか見えないのだ。そしてメクラ蛇に怖じずのまさにそれを地で行くのだ。