草むしり作「ヨモちゃんと僕」前5
(秋)尻尾フサフサ君⓶
目が覚めると僕は段ボール箱の中にいて、タオルにくるまれたポカポカしているものにぴったりとくっ付いていました。このタオルにくるまれた物は、暖かくてとても気持ちがいいのですが、どうも固くて、今ひとつしっくりしません。でも暖かいから好きになりました。
「まあ、気が付いたのね」
誰かが、僕の顔覗きこんでいます。
「人間だ。つかまったら保健所に連れて行かれる」
でも起き上ることができません。そのまま僕はその人を見上げていました。
「お母さん、それ何」
可愛い声がして、誰かが僕の匂いをクンクンと嗅ぎ始めました。
「嫌い」
誰かはそう叫んで、どこかに行ってしまいました。
「あらあら、困ったわ。ヨモギが怒っちゃった。どうしましょう」
それがぼくとヨモちゃんの出会いでした。
「怖かったわね。もう大丈夫よ」
お母さんと言われた人は、指の先でぼくの鼻の頭をツンツンと軽く触りました。その人の指の先は少しザラザラしていました。するとぼくの喉はひとりでに、ゴロゴロと鳴り始めました。
「ぼくを保健所に連れて行くの」
「あら、意外とどら声ね」
ぼくの声を聞いたその人は、ちょっと驚いたように言いました。
「お父さん、変な子がいるよ」
あの子がまたやってきました。ぼくの匂いをクンクンと嗅いでいるあの子の上から、体の大きな人が顔を覗かせています。
「嫌い」
あの子はまた怒って、どこかに行ってしまいました。
「ああ、お父さん。生き返ったわ、この子」
「うーん、生き返ったか……。あっちの子は裏山に葬ってやったよ。かわいそうに母親でも探していて、道路に飛び出したンだろうな。白と黒の毛並みがね、ちょっとヨモギに似ていてね、切なかったよ」
大きな人は大きな手で、ぼくの頭を優しくなでてくれました。
「しかし、運の強い子だよ。どうせなら一緒の方がいいだろと思って、隣にこの子の分も墓穴を掘っておいたのに」
「本当ね。いつ息が止まってもおかしくなかったわ」
ぼくが眠っている間、この人は何度もぼくのようすを見に来たようでした。
「おい、缶詰食うか」
大きな人は手にキラキラ光るものを持っていました。
「ご馳走だぞ」
手に持っていた物がパッカンと音を立てました。
「お父さん、ヨモギにも缶詰ちょうだい」
パッカンという音がすると、あの子がどこからか走ってきました。大きな人が手に持っている物を見るあの子の瞳は、キラキラと輝いています。
「子猫用の離乳食だけどな。まあ構わないか。お母さんお皿持ってきて」
大きな人はあの人が持ってきた二つのお皿に、缶詰という物を入れ始めました。
「何がはじまるの」僕は大きな人のやることを見ていました。あの子はまだ缶詰という物がお皿の中に入ってしまわないうちから、もう口をつけて食べ始めていました。でも一口食べただけで、どこかに行ってしまいました。
「離乳食だからな、ヨモギにはおいしくないンだよ」
「ほらほら、ヨモギには大人用をあげようね」
あの人があの子を追いかけていきました。隣の部屋からパッカンという音が聞こえてきました。
「ほら、うまいぞ」
大きな人がぼくの口の中に、少しだけ缶詰という物を入れてくれました。
「なんておいしいンだろう。もっとちょうだい」
たぶんその時の僕の瞳は、あの子と同じようにキラキラ輝いたと思います。僕はもっと食べたくて、缶詰の入ったお皿に向かって這っていきました。意識が戻ったばかりで、僕はまだ立って歩くことができなかったのです。
「そうか、旨いか」
大きな人はあの子が食べなかった分も、僕に食べさせてくれました。おかげ僕はすぐに元気になりました