危険生物図鑑 その2
子供の時に刺されたのはチャドクガの幼虫だろうか。例の危険生物図鑑のよるとチャドクガの幼虫は春と秋の年二回あらわれ、ツバキなどの葉に大発生することがあると書かれていた。
あれは小学校の中学年くらいだったと思う。夕方無性に体が痒くなり赤い発疹ができたことがある。掻いているとどんどん大きくなって、ほぼ体全体に広まった。
これには親も驚き、慌てて医者に連れていってくれた。幸い注射を一本打つと嘘のように発疹が引き、家に帰ったのを覚えている。
その翌朝だった。父が興奮気味に昨日の犯人はこれだと、裏庭の山茶花の木を指さして言っている。よく見てみると、山茶花の木に毛虫がいっぱいついていた。
そういえば昨日はこの木の下を何度も通って、風呂の水くみをした。当時風呂には水道がついていたが、井戸からポンプで汲み上げていた。その日は井戸枯れしたのかポンプが壊れたのか、水が出なくなったのだ。
そんなときには樋(とい)から流れてくる谷川の水をくむことになっている。その日の夕方もそうで、何度も山茶花の木の下を往復してバケツで水を汲んだのだ。
山茶花の木は父が切ったのだろうか、その日学校から帰ると山茶花の木は既に切られていた。母は以前からこの木を毛嫌いしていた。いつも虫がついて白い花も辛気臭いというのだ。
でも私はなぜかこの花が好きだった。たぶんその頃は花の咲く木なんて、その木以外には植わってなかったからだろう。誰にも見向きもされないで白い花をポツンと咲かせるこの木は、どこか亡くなった祖父を思い起こさせた。もちろんそんなこと母には一言も言わなかったが……。
以来毛虫に刺されることは無くなったし、井戸もボーリングをしたので枯れることも無くなった。。そして山茶花の木のあった場所には椿の木が植わっている。とても元気のよい木で、毎年無数の赤い花を咲かせる。きっと母がその後に植えたのだろう。