旧正月
今年の旧正月は二月十日でしたね。中国では「春節」と呼ばれ、盛大にお祝いするそうですね。また韓国やベトナムなどのアジア各国もお祝いをするそうですが、残念ながら日本ではこのような伝統はありません。
しかし私の子どもの頃には、旧正月にはお餅をついていました。ちょうどその頃が一年中で一番寒い時期なので、寒餅(かんもち)と言っていました。当時は臼と杵とで家族総出の半日仕事でした。
餅は一度にたくさんついて、家じゅうでいちばん寒い座敷に並べて乾燥させていました。また普通の白餅の他にもかき餅も作っていました。
昔は家で冠婚葬祭を行っていたので、4人くらいが座れる細長い座卓がたくさんありました。生家には中二階(ちゅうにかい)と呼ばれる、一階と二階の間に高さが1メートルくらいの物置部屋がありました。普段はそこに仕舞ってあったのですが、餅をつく時は必ずそこから出してきて、座敷いっぱいに広げていました。
座敷中に座宅が並べられ、その上にたくさんの餅が置かれている。それが私の旧正月の思い出です。お年玉もなければ学校も普段通りです。これのどこがお正月なのだと思っていました。
それからしばらくして電動餅つき機ができて、手軽に餅がつけるようになったからでしょうか。合わせて食が多様化したこともあるのでしょうが、寒餅を大量につくことはなくなりました。またそれと前後するように、旧正月のことも誰も言わなくなりました。
ただ九九歳まで長生きした伯母の中では、旧正月がまだ存在していました。
「旧正月には帰っておいで」とダイヤル式の黒電話で、一番下の弟に電話をしたとか。
伯母が亡くなる二年ほど前に、そんな話を聞いた覚えがあります。そういえば確かに旧正月には親戚の小母さんたちが家に来たような気がします。昔はいったん家に来ると何日が泊まっていった覚えがあります。そのような風習も車で移動できるようになって、いつの間にか無くなってしまいましたね。
さて今日は天気も良く暖かくなりましたね。明日はもっと暖かくなるそうですね。もう寒の戻りはないのでしょうか?花粉も飛びはじめ、また憂鬱な季節になりましたね。こうなるともう寒餅なんかもつけませんね。座敷なんかに並べておくと、カビだらけになってしまって大変ですねからね。すぐに冷蔵庫にいれなければなりません。
でもあの餅の表面がカチカチに乾いた餅は、焼くとおいしかったですね。炭火で焼いているとぷっくりと膨らんできて、それを砂糖と醬油を混ぜあわせたどんぶりの中に浸して、最後もう一度焼き直す。
ああして焼くと味が染みておいしかったですね。できればもう一度食べたいものですね。