寺地はるな「夜が暗いとはかぎらない」
閉店が決まった「あかつきマーケット」のマスコット・キャラクター「あかつきんちゃん」が突然失踪した。この「あかつきん」失踪の謎を背景に、13の物語が展開する。
第一話に登場するのはあかつきマーケットで働く芦田さん。この芦田さんとごみ捨て場で挨拶をした白川さんが次の物語の主人公になる。
物語の主人公という名のバトンが、物語の中に少しだけ登場した人物に渡される。渡された人が次の物語主人公になる。主人公たちは葛藤を抱えながら、今日も頑張っている。優しくて不思議な物語。
興味をひかれたの、表紙の絵だった。ネズミとも猫とも犬ともつかない人形みたいな生き物が、赤い頭巾をかぶり赤いブーツをはいてベンチに腰かけている。ちょっと見は可愛いけど、よく見たら不気味で引いちゃいそうだ。いったいどんな話なのだろうか。
表紙の絵がもっと可愛かったら手には取らなかっただろうと思う。
寺地はるなの作品は今回初めて読んだ。申し訳ないが作者の代表作どころか名前さえ知らなかった。しかし図書館のずらりと並んだ本の中から、よくまあこんな素敵な本を一発で探し当てたものだと感心した。
さて、第五話の「赤い魚逃げた」では父親の葬儀に赤い振袖を着るという娘が登場した。 娘は成人式のために用意した振袖も、父の反対で着ることができなかったのだ。父娘の確執が弟の目線で書かれている。
結局振袖は着たのかどうかは読んでみてのお楽しみである。
ただ父親の葬式に赤い振袖というのが引っかかる。私は子供の時に実際に父親の葬式の時に、赤い振袖を着ていた娘を見たがあるのだ。
振袖だったか訪問着だったかは定かにではないが、その人は確かに赤い着物を着て父親の棺桶の前に座っていた。
昔はみんなそうだったのだろうか。その家だけそうだったのだろうか。家で葬式をせずに、墓地にある小さな広場に筵をひいて、葬式をしたような気がする。その時にその家のお姉さんが赤い着物を着て、棺桶の前に座っていたのだ。
子ども心にも赤い着物は異様に見えたのだが、母はそれをおかしいとは言わかった。
「自分の一番いい着物で親を送るのだから、おかしくもなんともない」
そのようなことを言った気がする。その家だけだだったのだろうか。娘が葬式に晴れ着を着たのは。
思い出してみると祖父の葬式の時には、叔母は晴れ着を着ていなかった。その時は叔母も晴れ着を着るのだろかと、内心冷や冷やしていた覚えがある。
だから祖父の葬式よりも前の出来事だったのだろう。そんな幼い頃のことをよく思いだしたものだ。これもこの本を読んだおかげだろう。
葬式に晴れ着を着たのを見たのは、その時だけだった。もしかしたら私がもの心つく前には、そんな風習があったかもしれない……?などと思ったりもした。
何はともあれ、またひとつ幼年期の思い出ができた。