長岡弘樹「道具箱はささやく」
一冊の本の中に、原稿用紙20枚でつづられるミステリーが18編おさめられている。 18のミステリーの中には18の職業が登場する。そしてその職業に応じた道具が18出てくる。
第一の事件「声」には、容疑者を見張る二人の刑事とラジオから流れてくパーソナリティの声が登場する。このパーソナリティは、以前二人の所属する警察署で講演をしたことがあったが、最初から最後までマイクは使わなかった。よく通る声の持ち主だからマイクなど必要ないわけだ。
今日の声もやけにクリアで、先日起こったひったくり事件の話をしている。
「それを目撃した僕はひったくりに向かって『泥棒っ』って叫んだんですよ。そうしたら犯人だけあっちを向いたままなんです」
この事件は先週のことなので、たぶんこの放送は録音だろう。と刑事は推理した。ところがその途端、容疑者がアパートから出てきた。中肉中背の体に背広をまとい、どこにでもいるようなサラリーマンを装っている。そして同じような格好の群れの中に紛れ込んでしまった。
さて二人の刑事はどうやって容疑者を見つけるのか。この時例のパーソナリティの声はどんな役割を果たすか……。それは読んでのお楽しみだ。
最後の落ちがいいですね。ふん、ふん、ふん。と読み進んでいって、なるほどそうなのかと納得したとたんに、最後にコロっとひっくり返る。そんな書き方大好きです。
ショートショート。楽しいですね。星新一の「ボッコちゃん」を再読してみたくなりました。