草むしり作「ヨモちゃんと僕」前4
(秋)尻尾フサフサ君①
気がつくと僕は物置小屋の前に立っていました。壊れたドアの隙間から母ちゃんと姉ちゃんが見えます。母ちゃんは両手で抱きかかえるようにして、姉ちゃんの毛繕いをしています。姉ちゃんの濡れた産毛がフワフワに膨らんで、キラキラと輝いて見えます。
「なんだ、母ちゃん帰っていたのか。姉ちゃん、自分だけ先に帰ってずるい」
僕は物置の中に入って行きました。
「どうしていつまでも帰ってこなかったの」
僕はふくれ面をして母ちゃんに言いました。でも母ちゃん知らん顔しています。
「姉ちゃんもひどいじゃないか。ぼくを置いて先に道路を渡って行っちゃって」
姉ちゃんもぼくのことなんか無視して、母ちゃんに甘えています。
「ねえ、ねえって、ばぁ。母ちゃん、姉ちゃん……」
何度話しかけても答えてくれません。僕はとても悲しくなって、物置小屋から出て行きました。
「母ちゃんも姉ちゃんもひどいよ」
どうしようもなく悲しくて寂しい。僕の心は張り裂けそうになりました。見慣れた食堂や絶えず車が行き来する道路も、いつもと違って何だかよそよそしくって、僕はますます心細くなっていきました。僕は泣きながら道路を渡っていきました。
何処をどう歩いたのでしょうか、気が付くと僕は知らない街を歩いていました。古い商店街のようです。通りに面した商店は何処もシャッターが下ろされています。不思議なことに物音ひとつせず、通りを歩く人は誰もいませんでした。
僕はしばらくその通りを歩いていましたが、無性に母ちゃんの所に帰りたくなりました。引き返そうとして僕は途方に暮れてしまいました。帰り道が分からなくなっていたのです。音のない一人ぼっちの世界の中で、僕は迷子になってしまったのです。
「母ちゃん……」
あれ、温かな風が吹いてきました。風に吹かれているととても気持ちがよくなって、僕は深い眠りにつきました……。
「うるさいなー」
遠くの方でガーガーといううるさい音がします。ああー、気持ち良かったのに、うるさくて眠れない。あれ、誰かがぼくの体の毛繕いをしている。後ろ頭をかき上げられたとき、ザラザラとした母ちゃんの舌の感触がしました。
「なんだ、母ちゃんだったの。やっと僕に気づいたンだね。もう僕を……」
「もう僕を一人ぼっちにしないでね」と、言い終わらないうちに僕はまた眠ってしまいました。でももう悲しくも寂しくもありませんでした。だって母ちゃんと一緒だから。母ちゃんはポカポカしてとても暖かでした。
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