二人で『評弾』 を楽しむ
先日、中国の杭州や上海に行ってきた。
一番の思いでは 蘇州の山塘街にて『評弾』を楽しめたこと。
蘇州では品と優美を基本においた この音楽が良しとされているらしい。
親切な自転車タクシーの男性が、店を探し出し、開始時間をメモに書いてくれた。
『7:30』
時間まで小一時間。
私たちは夜の山塘街を楽しむことにした。
山塘街とは物資の集積する街だったそうで、清時代にに描かれた『姑蘇繁華図巻』では 「中華第一街」といわれた様子が見てとれるらしい。
又、多くの文人墨客にも愛され、『紅楼夢』(曹雪斤)の中で山塘街を「俗世間で一、二を競う風流にして富貴な土地」とも記しているとのこと。
そんなにも長くはない山塘街だが、両脇につるされた赤い提灯と 町を映し出す水郷の流れが美しい。
とても情緒のある風情で、私たちが歩いていると多くのスタッフとカメラマンに付き添われたチャイナ服姿の女優(或いはモデル?)が、水郷のほとりで撮影を始めた。
中国人の観光客はうれしそうに足を止め手見ていたので、有名な女性なのかも知れない。
山塘街では 木製品(紫檀・紅木)や剣屋、楽器屋、刺繍屋、布や民芸店等の小憎らしい店が並んでいた。
気に入った品もあったので、少しばかり購入。
値切り交渉成立で、なんだか、うれしい。
時間前に再び店を訪れると、二人は二階の喫茶店?に通された。
メニューを見て、一杯六十元の高級茶を二つ頼む。
茶はうまかったが、『評弾』はいっこうに始まらない。
午後8:00前に歌手らしき二人が現れるが、雑誌を読んでいる。
店内の客はいつまでたっても 私たち二人だけ・・・。
かなり不安になる。
そうこうしていると、店の経営者らしき人物が、中国語で歌手に何かを話しかけた。
すると歌手は小さな舞台に上がり、男性の方が歌い出した。
美しいまろやかな声で、一曲。
とてつもなく素晴らしい歌声に聞き惚れる・・・。
素晴らしい曲だったためか、あっという間に一曲は終わった。
後ろの字幕は消える。
私たちは何がなにやらわからない。
そうこうしているうちに、中国人の客がぽつりぽつりと席に座りはじめ、観客も増えだした。
客が歌手に何かを話すと歌が始まり、一曲二曲とうたわれ出した。
さてさてこの『評弾』、涙が出るほどに美しい旋律と感情移入。
聞いて二曲目で、涙がこぼれた。
私が見た『評弾』は男女二人がそれぞれの楽器を持ち、弾き語る。
男だけ、女だけ、男女の組み合わせの歌があった。
現在の中国人でもわからないような古典でうたわれるために、舞台の後ろには中国語の字幕テロップが流れる。
男性が歌う場合は、はじめに男、女性なら女という具合に、最初に字幕が出る。
字幕が出るということを考えると、日本の文楽に似ているかも・・・と感じた。
少し時間がたってから常連らしき中国人客がこちらの席まで歩いてきて、テーブルを指さし、大きな声でわめいている。
『何なのだろう・・・。』
と不安におののいていると、店の人間は困った表情で、申し訳なさそうにメニューを持ってきた。
それは選択曲メニューだった。
『評弾』は客から選曲されて 頼まれて初めて、歌手が歌うといったシステムだったらしい。
一曲、短いのでは三十元。長いものになると八十元程度。
私たちはどんな詩かはわからないままに、美しい漢字が並んだ歌を 五曲ばかりを選択した。
そうこうしている間に夜もふけ、私たちは後ろ髪を引かれる思うで、店を後にした。
先ほど私たちがいた明かりの方向からは、女性歌手の哀愁漂う声と楽器が響く。
『帰りたくない・・・。』
そう思わせる『評弾』だった。
私にとっては『評弾』を聞くことができたことは 今回の旅で、一番の収穫だったかも知れない。
口ずさむことは不可能だが、『評弾』の美しさは、今も雰囲気は心に残る。
もし蘇州に行かれる機会があり、舞台や音楽に興味をもたれているようでしたら、私はこの『評弾』をお勧めしたい。
中国人の方が、今も楽しんでおられる蘇州の伝統芸能のようです。
心にしみこむような静かな時を感じられるのではないかと思います。