しょうちく座 七月おおかぶきとうじゅうろう襲名披露
さかなやそうごろう
さかなやそうごろう きくごろう
女房おはま ときぞう
召使おなぎ たかたろう
小奴三吉 ごんじゅうろう
きく茶屋女房おみつ うのすけ
そうごろう父太兵衛 だんぞう
磯部主計之助 かんじゃく
うらどじゅうざえもん だんしろう
この演目も心理描写や酒に飲まれる場面などが見ていて面白い。
好きな役者さんがいっぱいで贅沢な舞台に堪能いたしました。
父や姉は妹が不本意な殺され方で嘆き悲しんでいる。
そこへ花道から待ってましたのきくごろうさんが登場…
私たちはいっせいに振り返り、少しでもきくごろうさんの表情を見逃すまいとしておられるようだった。
きくごろうさんはあの大きな目に涙をいっぱいためての登場…
その涙は付けまつげのように濃い素敵なまつげにまで達し、まるで美しい湖に引き込まれるかのごとく印象的なまでの悲しいまなざし。
花道では一度もその涙はぬぐわれることなく、家にはいられた。
あくまでも想像に過ぎないのですが、芝居の知らない私は、にざえもんさんが演じられた場合なら、小粋な魚屋の男っけを全面的に前に出されて、涙は半分ぬぐわれたのではないかと感じてしまう愚か者でした…
…まあ私は芝居を知りませんので、こんなばかげた想像をもしてしまうのでしょうね…
ではどちらの演じ方が好きか…
これは各自の好みでしょうから、ご想像にお任せいたします。
何しろお二方ともに大好きな役者さんですので…
濡れ衣で殺された妹を嘆き悲しみ、そうごろうはあまりのやりきれなさに禁酒の誓いを破ってしまいます。
禁酒を破るパターンは他の演目にも数多く見られますが、最近では去年の十二月のみなみざでのきちえもんさんの『ごとさんばそう』が印象深かったことが思い出されます。
この禁酒を破るパターンは喜劇性をも含み、表情の豊かなベテランの役者さんの方が、観客もしっくりと楽しめます。
また酒をつぐ相手方も今回のときぞうさんたちのようにベテランの役者さんの方が一層楽し行き持ちにさせてくれますのでしょうね…
この役にぴったりのきくごろうさんさん演じるそうごろうは、周りの役者さんとの息もぴったりで、見事なものでした…
ときぞうさんのこのときの妹が死んで嘆き悲しむ硬い表情と、 磯部主計之助 の屋敷でそうごろうの酒が冷め、お金を受け取る前の
「おもらいしておきなさいよ。」
という台詞とへらりとした表情はとても好きでした!
私の好きなときぞうさんは、喪中で化粧を落としめにしたメークですが、色っぽく美しく、品のある演技を見せてくださいました。
酒桶を持って挨拶に向かった召使おなぎ 役のたかたろう さんもこの日も上品で、そつがなく、とても素敵でした。
最近のたかたろう さんはとてもお上手で、一月の『やぐちのわたし』を観ましたが、二度ともに素晴らしい御舞台でしたことを覚えています。
このところたかたろうさんは古典かぶきやその他のものも品よく演じられ、なんだかここの所この役者さんがきれいに見え始めています……なんていえばお叱りを受けるのでしょうが、演技が美しさをグレードアップさせているのではと感じてしまいます。
花道等でも足元の指の先まで神経を使われ、肩の品は品良く、本当に素敵な役者さんだなあとこのところ見入ってしまいます…
話は戻ってそうごろう。
じっと悲しみを堪えていたものの、酔うにつれて人が変わり、豹変します。
あげくは屋敷に乗り込み御託を並べる、体裁のない威勢のいい魚屋本来の姿。
また酔いがさめての自分の行動に驚いてのスットンキョウな表情は、見ていて楽しいものでした。
しかしなんといってもきくごろうさん…
最高に好きだった場面は、これから屋敷に乗り込むといった意気込みのあふれた花道でのみえ。
この役者さんのみえも好きなんですね、私…
一旦目をつむり、一・二拍ためて目を見開きど真ん中に黒目を寄せて……黒目の位置と口元をゆがませる……(そしてみえを切る…今回この部分はないパターンの見栄でした。)
素敵、カッコイイ、男前…
渋い芝居も好きですが、今となっても たんきり芝居の好きな私にはこの役者さんもたまりません。
余談ですがかなり昔に見た彼の『白波…』のみえもカッコよかった…
ご子息のきくのすけさんはテレビでしか見ていませんが、『べんてんこぞう』のために生まれてきたかと思えるほどカッコいい……
(きくのすけさんは『べんてん』だけではなく、『じゅうにや』など、何を演じられても上手い男前の役者さん…大好きな役者さんの一人ですが…)
私はこの『白波…』といった演目も好きで、この芝居の上手な役者さんのほとんどが好きです…
最後の…今回のお芝居でお父さん役のだんぞうさんの底力を痛感いたしました。
落ち着いた淡々とした粉仕方なのに目を話すことができない。
ここ一番というときには力強い…
家族みんなで、
「父も良かったねえ…」
と話し合っていました。
今回の演目も好きな役者さんが多すぎて、舞台をぐるぐると見回していた私…
舞台の構図って油絵とはまた違った趣があって、とても見ごたえがありました。
かぶきを見ると毎回思いますが、趣向の違いさえあれどその舞台構造は、平面的に描きながらも立体的な空間の中で奥行きを感じるアムステルダムの裏窓と共通点があります。
最も実際の裏窓をみたのは学生の頃ですから、今は変化しているかも知れませんね…
ここしばらくはかぶきも見ることができませんので、名残惜しさのためが、どうもだらだらと書きなぐってしまい、いけませんねえ…
今回は26日においての、あくまでも私個人の感想(?記録)ですので、異なる日、または同一日でも私とはまた違った印象を受けられた方も多いと存じます。
失礼が多々あるかと思いますが、お許しくださいませ。