およそ五年前、御蔵に越した時、
この家は棲める状態ではありませんでした。
屋根は十年前に直したそうでしたが
壁は一部無く、板と板の隙間が空いて、外がしっかり見える状態
床はズブズブで傾き
天井にはみっしりと黒いガムテープが貼り巡らされ
お風呂場の裸電球の周りには黒いビニール袋が天井の代わりに垂れていて
不気味にもホドがアル状態でした;;;
とりあえず不気味さをなんとかしようと手を入れ始めたらキリが無くなって、
結局ほぼ総てを直し(一部そのまま;;;アリ)、
今では快適に棲めるようになりましたが、
その際にとてもお世話になったひとりが「の」さんでした。
トンテントンテンやっていた或る日、
フと現れて、お茶を飲み、
「それでナニヲシヨウと言うんです?」
「御蔵の絵を描きたいんです」
「はぁ。。。わかりました」
と、帰ってから、
煙突周りの波トタンを丸く切って下さったり、
トタンを切る道具を貸して下さったり・・・。
島生まれで昔気質の「の」さんは、ビスひとつたりとも無駄に棄てたりしないため、
私はビスがひとつだけ欲しい時にはいつも、「の」さんを頼って行きました。
物置の片隅の木箱に入った古い釘やビスの山。
それらは確かに埃だらけで錆びたりもしていたけど、
物が簡単に手に入らなかった時代の空気が漂うようで、
私には宝箱のように見えました。
あれから五年も経つというのに、
絵を描きに来ているというのに、
私は未だ御蔵島の絵を満足に描けていない。
そんなことをしているうちに、
ひとりまたひとりとこの世から、
一番見て欲しい人たちが居なくなっていってしまう。
ナニやってんだ・・・
そんなことを、今日いち日考えていました。
優しい眼差しを、思い出していました。
必ず描くから、見ていて下さい。