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派遣社員になってわかった日本の弱点

2021-08-11 10:26:56 | クルマニア
正社員のLSI設計者として30年以上のキャリアを積み、会社業績悪化に伴う早期退職勧奨に応じた。
経験は十分にあるつもりだったが、年齢的に正社員の道は縁故が無い限り難しいとキャリアアドバイザーに言われ、実際にそうだった。
一緒に辞めた連中のなかで早く再就職を決めたのはそういう人たちだった。
リクルートなどに登録していて声をかけてくれるのは派遣業界と外資系のスカウトのみだった。それも直接的な経験にマッチしていないとの理由でなかなか決まらなかった。
派遣は言われた仕様の設計をし、与えられた環境で検証をすることのみが要求され、ツール(CADなど)を使いこなすことが要求される。だから、応募、面接でもどんなツールが使えるかが重要になってくる。
竹中平蔵氏は嫌いでも雇ってくれるならとパソナにも面接に行った。旧日本ビルが丸々パソナでびっくりした。
偉そうな方が、何万ゲートの設計をしたことがあるのか?使用ツールは?RTL設計は経験があるのか?などと聞いてきた。
設計は15年ほどやっていなかったので、ゲート数なんて覚えていないしツールはとっくに変わってしまっているだろうし、そもそも何を使用していたか覚えていない。
それは経験があるので、始めればすぐに慣れると説明したが、結局はブランクが長いという理由で落とされた。
一度経験させてもらえればすぐに慣れるのに、だ。卵が先か鶏が先かみたいな状態になる。

退職して失業保険を満額受け取ってしまうと藁にも縋る想いでヤマト系の倉庫のピックアップの仕事をした。ほぼ最低の時給だ。
ピックアップといっても某ポンプメーカの部品で鉄の塊は大きいもので30~40kgはあったろう。導入教育は無かったが、壁に25kg以上は一人で持ち上げるなとあったが、そんなことは誰も守っていないし、そもそも秤が置いて無い。
テニス肘が痛く、部品を抱えるように運んだ。そのうち腰も痛くなってきたが、筋肉はついてきた。
私より年が上の派遣者で元々ヤマトの配送員とよく話をした。定年後に非正規になり待遇の違いに憤慨していた。
ヤマト運輸の配送倉庫の仕事はどうかと聞いたら、ここよりひどいと言っていた。
こんなに身を粉にして働いてもほぼ最低時給。私は3カ月ほどで辞めた。割に合わないし、給料が生活費に足りない。
時給の高い仕事はいくらもあるのでしがみついていてもしょうがない。

そして結局、最後は昔一緒に仕事をしてもらった派遣会社に声をかけてもらった。
昔は発注する側の人間が全く逆の立場になったのだ。
業界は狭いので、かつて辞めていった同僚たちがそうした会社で元の会社に派遣で働いていることを知った。当然給料は下がってだ。

派遣になってまず驚いたのが、契約に知的財産の放棄条項があることだった。
つまり仕事上アイデアが生まれてもそれを特許化することを放棄するというものである。
かつてアイデアをいくつも特許化した自分にとってはなんだかなぁという気持ちだったが、結局派遣の仕事ってそんな仕様のところに触れられることは無いのでほぼ無縁だった。
つまり、言われたことをやっていれば良いのでそんなことに頭を使うことは無いのだ。
また、正社員はフレックスで仕事をするので時間に縛られることは無いのが、派遣は一日8時間という時間で縛られている。正社員がたまに早く帰ると言われると困ってしまうのだ。(もちろん1カ月単位で168時間働けばよい派遣会社もある)
派遣先が祝日以外の休みになると、意味もなく自社に出社し、時間を過ごしたり、有給が無い人は無給で休んだりする会社もある。

派遣・請負は正社員でなくてもできる仕事を淡々とこなせばよく、全然クリエイティブでない。
たとえアイデアを出してもそれは自分のものにはならないのだ。

かつて派遣なんて言葉が無かった時代、事務の女性も含め改善提案をしてどんな人でも報奨金を得ることができ、会社のために全員が参加できる仕組みがあったが、今や個人主義、成果主義になりみんなでアイデアを出すなんてことはしないのだ。
さらに青色LEDの件の後、特許報奨金も年々下がる一方で、かつ買い取り方式になったものだから苦労して出すなら次の会社のために温めておくなんて平気で言っている若者もいた。

私の場合、派遣会社から請負会社に派遣され、メーカの仕事をしていると2重に中間搾取された後に給料をもらうことになる。仕事をさせてもらってなんだが、こういうことで儲ける会社がいることが今の日本を弱体化させているのではないかと考える。
つまり、今や貴重な半導体設計者なのに給料は日本の平均の少し上ほどしかもらえないが、そのメンツを見ると十分年を取った人たちばかりだ。
それを正社員の半分以下で働かせているのだからモチベーションが上がるのかな。

メーカの直接採用は、経験を持ったできるだけ若い人をと考えているが、そんな人間はほとんどいないのである。するとアピールのうまい中国、韓国人を雇ってみたりする。
外資系にいてよくわかったが、日本にいる彼らは往々にして優秀で、ソフトウェアからハードウェアを理解し、得意の英語も駆使し人脈を広げてあっという間に中核を担う人物になっていく。気が付くと周りが中国人だらけになっていた。
そしてノウハウを持って次の会社に行ってしまう。
そういう人でもいいなら経験を積んだ定年の人でもいいではないかと私は思う。でも、チーム構成上とか育成のためとかの理由で断られる。

正社員になろうとしている諸君には英語だけはしっかり話せるように勉強しておくように言っておきたい。TOEIC点数は全然関係ない。
英語で話すには論理的な思考である必要があり、仕事にも役立つ。
たとえ下手でも一所懸命に話す人の話を米国人(それがインド系や中華系でも)は話を補って聞いてくれる。
そして熱く語ればその仕事は君がリードしてやってくれ、となる。アイデアを提案した人が権利を持っているのだ。もちろんやらなくても誰も文句は言わないが、あいつ仕事しねえと言われている米国人は何人もいた。逆に中国にいる中国人、韓国にいる韓国人はまじめに夜遅くまで仕事をしてかつての日本人のようだ。顧客と個人的に密接に連絡を取り合っているおかげで、休みまでお付き合いをしているようだ。

さて、なぜ日本人の年収平均値、中央値はもっと下がってしまったのだろうか?
そしてこれが日本の企業を逆に弱体化させている本質と考える。
そりゃ、全ての人がクリエイティブな仕事をできるわけではないが、与えられた仕事の中で工夫、改善を繰り返して日本を支えてきたはずだ。
だが、今はそれが無い。やっても成果としてカウントされないのでインセンティブも得られない。特に非正規ではそれが顕著でベースアップさえ行われないのだ。
こんな企業風土では当座の不況は乗り換えられても伸びることはできないだろう。




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