さて、ゴールデンウィークも、もう終わってしまいます。今年はなんと4連休を2回も取りました。といっても前半は学会の業務があり名古屋でしたが。
5月のDr'sマガジンが出来上がってましたので、こちらにも校正前の原文をのっけておきます。そのうち、このTopicsを研究テーマとしてドカンとやりますので、楽しみにお待ちください。ちなみに研修医の先生方に対して、フィジカル秋季講座を行いますので、よければ研修医のための弱点カンファレンスで検索してください。
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出雲。最も心地よい季節、僕にとっての【5月病】とは毎年訪れる強制的に年を取ることを意識しすぎる流行病で、お肌の劣化、少し寂しくなる頭髪、年々当直がきつくなるのを自覚しながら勤務医として恐怖のゴールデンウィークに悩む季節のことを指します。
さて、世間一般で5月病といえばフレッシュマンが不慣れな職場で無理しすぎた結果、色々と支障が出てくることを指すそうです。やたらと異動が多いのが医師の宿命、ちょうど元気が無くなってきている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。でもちょっと、待って!それって本当に自分のせいでしょうか?もしかしたら今回のテーマであるDisruptive physician behavior(周りにいるヤバイ医者)に原因があるかも知れません。
初期研修が始まると研修医達の会話に「デキレジ」、「ヤバレジ」などという言葉が使われているのき気づきますが指導医も一緒で、デキる指導医もいれば、ヤバイ指導医も確実に世に存在しております。げげっ!自分がヤバイ指導医に入りかけているのを棚にあげて心が痛い今回のテーマ、世界では既に常識的な概念になっております。”Disruptive” 破壊的とか崩壊的と適切な日本語が気に食わないので、ヤバイ医師としてみました(すごい、我ながらしっくりくる!)。
これまで、本邦では全く注目されてこなかった点ですが、実はこのヤバイ医師が与える医療安全・医療経済・臨床教育における様々なネガティブインパクトについては研究が進んでおり、北米ではなんと既にガイドラインまで登場している始末です1。ではヤバイ医師の定義ってなんなんでしょうか?(当てはまりそうで戦々恐々!)
一見してわかるヤバイ医師の問題行動は、怒鳴ったり、ゴミ箱蹴ったり、ハサミ投げたり、急激な感情の起伏で周囲スタッフ達と患者さんの為の診療ができないなどのことがあるそうです。これは誰がみてもヤバイ行動なので異論はないかと思います。(そうそう自分も机を蹴って・・。嘘)
しかしながら、上記のガイドラインでは加えて一見わかりにくい行動(これ病院あるあるです!)、本来医療のプロや専門家として対応すべき案件に理由をつけて対応しない、他科や他者の悪口や小言をいう、ネガティブな感情を全面に周囲に出してしまう、さらには私生活で女性問題などゴシップが多いという内容まで含まれてしまうようです。そして疫学調査ではこれらヤバイ医師の特徴を満たしてしまう真のヤバイ医師は5%未満の割合で周囲にいるのではないかと推定されています。ここには、大事な前提条件があって、医師とてただの人間、たった一回の感情の爆発だけでは当てはめてはいけないという注意書きがあります2。あくまで常習犯的に上記の問題行動を繰り返す医師をヤバイ医師って言うようですね。
このヤバイ医師の問題行動が研修医という相手に絡むとさらに事態はMalignantになります。なぜかというと本質的に「とても熱心に研修医を指導」しているというように正当化ができてしまう為で、さらには立場が最弱の研修医は自分が悪いからと自分を責め何も言えなくなってしまいます。
さらに都合が悪いことに、それらのヤバイ医師は往々にして、組織に必要な資格などを有していたり、ならんかの特技や手技や処置に秀でている、そもそも代わりの人を雇えないなど、病院・組織の為に目に見える利点を保有していることが多く、「あの人はああいう人だから…仕方ない、諦めよう」と全体の問題に取り上げにくくなるそうです。しかし先行研究からの、ヤバイ指導医が組織にもたらすネガティヴインパクトは強大で、代表的なところでは周囲のモラルの低下やモチベーションの低下、看護師や若手医師の不足、医療事故や裁判と有害事象の増加、患者満足度の低下などがあり、結果的には相殺してさらに莫大なコストがかかっていることも。他にも、研修医の学習効果の低下、講座や医局の評判の低下とその為のメンバーが集まらないなどなど多数ありますが、面白い見解ではそのようなヤバイ医師の問題行動は潜在意識下で若手が真似してしまうようになる可能性まで指摘されています1。初期研修終了を契機に急に他科のかつてのベテランの先生にまで横柄になる研修医。皆様はお心当たりありませんでしょうか?
このように、ヤバイ医師が見えにくいレベルで与えているネガティブインパクト。いやぁ自分も心が痛すぎです。古今東西【人の振り見て我がふり直せ】とはよく言ったもので、自分の診療や医療への姿勢を俯瞰的に観察することなくして本当のプロにはなれないのかも知れませんね。40歳を前にして、惑いすぎ・・反省反省。
1) GUIDEBOOK FOR MANAGING DISRUPTIVE PHYSICIAN BEHAVIOUR, College of Physicians and Surgeons of Ontario, April 2008.
2) Reynolds, Norman T. "Disruptive physician behavior: use and misuse of the label." J Med Regul 98.1 (2012): 8-19.