憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

「ぼろぼろ」

2022-08-27 08:42:55 | 「ぼろぼろ」掌編

今日は清子にとって「はじめて」の日だった。
学校が休みに入った先月末から、今日までの一か月。三日に二日のわりで、自由だった清子の生活が一日のうち六時間をスーパーマーケットのレジの前に拘束された。
清子がマーケットのアルバイトを始めたのは給料日の後だった。

そうとは知らされてない清子だったから、月末になっても、月が変わった十日にもマーケットが給料を支払ってくれないと判ると、一体いつが給料日なんだろうと不安になってきた。

ひょっとしたら清子の休みの日に給料日があり清子の給料は支払われないまま忘れられているのかも知れない。
が、給料はまだですか、いつですかと聞くのも清子には物欲しげで恥ずかしかった。
昨今の高校生らしからぬ恥をしっているのはよかったが、尋ねられなかったことがいつまでも頭の隅に残り、毎回の通勤のたび『今日こそもらえるかな?』と期待がふくれ、帰りには『明日かもしれない』と、しぼんだ期待を宥めてやる事になった。
その繰り返しが続きいつの間にかカレンダーも二十五日になっていた。
朝、いつもの通り事務所の隅で制服に着替えていると、店長がニコニコしながらよってきた。
「ごくろうさんだね」
清子の家ははここから5キロはなれている。雨の日も風の日も自転車でマーケットにかようしか、方法がない。
「バスが通っていたら、内緒で区間の通勤費くらいあげられるんだけどね」
バスで来た事に誤魔化そうにも実際路線のないバス代を支給出来ない。

何とかしてあげたいほど清子の自転車通勤は店長にも苦労にみえたようだ。
「ぁ。学校行く方がもっと遠いんですから、ここに来るくらい散歩みたいなもんです」
「そうかい」
店長は少し安心したようににこりと笑うと
「何にも足してあげられないけど・・今日、帰る時ここにおいで」
「はい」
返事はしたが、何かミスをしたんだろうかと不安そうな清子に店長は朗らかだった。
「今日は給料日だよ」
「あ・・」
忘れられていたんじゃない。
清子が月末に此処に来たときは前の給料日の後でしかなかったのだ。
「あ、ありがとうございます」
「アハハ。アリガトウは、君がちゃんとお金を貰ってからでいいよ」
店長は大声で礼を言った清子をくすりと笑う。
「はい」
明るい返事を返した清子だった。帰り道にはもう『明日かもしれない』と考えなくていい。
忘れられてるのかもしれないという不安が清子の胸からぼろぼろっとおちた。
代わりに小さな安心感が胸に入り込むと清子は背筋をぴんと伸ばした。
清子の今日の仕事が始まる。   

(おわり)



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