二人は思案する。
柊二郎には、なんといえばよい。
それもある。
だが、実体のない物が精をはきだすことまでやってのけた。
あまつさえ精も確かな実在であった。
あの生臭いにおいがまだ部屋のなかにある。
「この臭いも常人にはわからないものなのでしょうね?」
「そうであろう・・の」
「でも・・どうします」
「調伏が効く相手ではなさそうだの」
「はなしあえましょうか?」
「う・・む」
無理であろう。
あのときの薄ら笑いには、
お前らではどうしようもなかろうという愚弄と余裕がみえた。
ましてや先祖の柊二郎の狂気をおもわば、
人の話しなぞ聞き入れる気はないだろう。
すぐに打つ手も思いつかず、二人は思案に暮れた。
「どうします」
今度のどうするは、
やはり柊二郎にどういおうかということであった。
「ままよ。どうせ柊二郎もわかっておることであろう。
はなすまでよ」
「ふうう」
ひのえは寝息をついた。
柊二郎のこんな心労を
ひのえもやはり、正眼にさせていたのであろう。
「しかたあるまい。
確かに井戸の柊二郎が元をつくったのであろうが、
今は逆にその娘さんが
井戸の柊二郎をよんでしまってもいる」
「女の性はよびこむものですから。
いっそ娘さんに事実をはなしてみても」
「むだであろう。しんじれぬだろうし、
信じた所でむごい事実をつきつけるだけであろう。
なおかつわかった上で
夜半に来る井戸の柊二郎に抱かれる事が
解決出来てないとすれば」
「そうですね。
犯されている事を教え、
わざわざあきらめろというにひとしい」
「知らぬがはなよ」
「ええ」
二人はそっと部屋をでたが、
寝間で気配を窺っていた柊二郎はすぐにやってきた。
が、どうですかとは尋ねなかった。
「あきらめるしかないことでしょうか?」
と、たずねられたのである。
「いえ。もう少し調べねば判らない事がおおすぎるのです」
と、ひのえが答えて二人は家に戻った。
「みょうじゃの」
「はい」
「もう少し聴いて見ねば判らぬが、
柊二郎は何かしっておるというか。
さとっているというか、
自分でも判らないままに
何かを気がついているようにおもえる」
「「あきらめねばならないでしょうか?」でしょう?」
「うむ。普通の親なら」
「わかります。たとえば主膳様のように
悪童丸の妖力でおこりをおこされていると、
退治せよとはいわぬと、言葉がちがっておりました」
「まあ、そのようなことだ」
「ええ」
考え込みかけたひのえを白銅がつついた。
「とにかく今日はもうやすもう。
くたびれた頭では浮かびもでてこぬわ」
いちいちもっともなことである。
が、ひのえを子供のようにいさめるのも
白銅くらいなものである。
「おかしな方」
「なにがじゃ?」
「いえ」
「きになるでないか」
「べつに」
「なんじゃああ?」
たまりかねたようにひのえが、くすりと笑うと
「白銅のほうが子供のような所があって」
「な・・なにをいいだしおる?」
多少気難しい。で、からかわれるとむきになる。
「かわいい」
「んっ?やあ?」
頭をなで上げると白銅は家の中にはいりこんで、
夜具をしき述べた部屋に駆け込むとどっと布団につっぷした。
「きがえなさいませや」
と、いうひのえへの返事は、もう軽いねいきになっていた。
最新の画像[もっと見る]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます