そして、
「編集長」
昨日のごりおしがあるから、あたしもちょっと、低姿勢口調。
「あの?幼稚園の園長先生がーやっぱり、貴女にお願いしてよかったーと、いってたんですけど・・」
半分も聞かないうちに編集長はご機嫌な顔になる。
「そりゃ、いいことじゃないか。うん、がんばってくれ」
じゃなくて・・。
「やっぱりって・・なんか、誰かがあたしを薦めてくれたっていうことじゃないのかなって」
「ああ・・。それ、慎吾だ」
奴?
奴がなんで?
「幼稚園のほうが、おまえをなざししてきたんだよ。たずねたら、慎吾から紹介されたっていうから・・慎吾・・に・・あれ?」
黙り込んだあたしに編集長までが、黙り込む。
「なんだよ?」
やっと、出てきた言葉はあたしのだんまりへの質問・・だろうな。
「いえ、なんで、や・・慎吾があたしを薦めたのかとおもって・・」
「う~~ん。まあ、慎吾のほうに頼んだのが本当かもしれないな。
だが、受けられる状況じゃなくて、おまえにふった・・」
「受けられる状況じゃない?」
「ああ、なんでもおふくろさんが入院で、おやじさんもよくない。
面倒見れるものが無くて・・急遽・・実家にかえるとかでな。
とりあえず、2週間の有給休暇。
あとは、様子次第で・・ってことになって・・」
あきれた・・・。アフリカ行きの方便にまちがいない。
「それ、いつなんですか?」
「あん?」
「慎吾がいってきたの・・」
「ああ・・今朝だ。チサトには慎吾の分もやってもらわなきゃいけない事がでてくると思うから、話しておかなきゃと思って・・・」
いたところの出鼻をくじかれて、あとさきになったが、まあ、カバーを頼むというのが、編集中の言い分。
「まあ、いいですけど」
と、いうこの科白が編集長の癇にさわったらしい。
こってり、しぼりあげられて、
やっと、解放された。
しかし、奴め・・。
思ったが最後、実行力が伴うという部分は
ますます尊敬に値するが、
アフリカくんだりまで、でかけて、はたして
納得する写真がとれるんだろうか・・・。
まてよ・・?
幼稚園の写真はもっと前からのはなしだ・・。
と、いうことは、すでにアフリカ行きをきめて、
編集長に話しをつけていた?
チサトのほうが、適任ですとかあ?
つ~ことは、あいつ相当前から悩んでいた?
と、いうことは、奴のいう価値というのは、
幼稚園の写真をとれるあたしという意味合いだったのか?
すでに「まなざし」を認めてるってことだったってことだったのか?
だから、あたしに相談だった?
と、考えると、
え~~~と、
あたし、何をいったんだっけ・・・。
奴にいったことを思い出してみると、
奴がこっちを認めていたことを踏みにじる言い方をしていたかもしれないとも思える。
だが、いずれにせよ、自分が実感して、自分がどうするかでしか、
答えは形にならない。
今頃は飛行機か?
ドゴール空港から、のりかえて・・・。
アフリカ・・・。
あいつ、ワクチンとか、接種していったのかな?
オーストラリアから帰国して、そのまま、あたしのところにころがりこんだとしか、思えない・・。
前言撤回。
猪突猛進の馬鹿だ。
いや、オーストラリアでワクチンとかうった?
ん?
あたしはなにを奴の心配してるんだ?
ふと感じた疑問の答えを探ることをやめて編集長をみた。
エアーズロックのおおきなポスターを広げてる。
傍によって、編集長のうしろからのポスターを眺めた。
「夕日・・のエアーズロック・・にみえるだろう?」
うん?
「ところが、これは、朝日なんだな。
にび色をしてるから、夕日に錯覚する・・」
え?
あたしはまじまじとそのポスターを覗き込む。
「こんなシャッターチャンスはまずない。慎吾のすごいところはここだな。
奴の前では、奇跡がおきる」
あるいは、カメラマンの資質というものはこういうものかもしれない。
チャンスを掴み取る運だけでなく、チャンスを起こす。
何度寝ぼけ眼で朝日に浮かぶエアーズロックに挑んだことだろう。
「だけど、ポスターにはそんな説明一言もはいらない。
あるいは、夕日とまちがわれてしまうかもしれない」
その公算のほうがおおきいだろう。
「慎吾にとって、どう、眺められるか、どう受け取られるかなんて、どうでもいいことで、どこまで、自分が被写体にこだわっていくかしかでない」
「それが、写真がすべてを語る」
「お?いいことをいうな。極めたものだけが、天才と呼ばれる」
すでに天才の範疇に入った男はそれでも、まだ、なにかを極めようとしている。
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