憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

チサトの恋・・7

2022-12-20 12:55:28 | チサトの恋

いつまでも、エアーズロックを眺めていても仕方が無い。

午後から、ビストロのランチを撮影しにいくことになっていたから、

事前に、ランチをたべておこうと思った。

ビストロの店内のムードもつかんでおきたかったし、

やはり、客層をみておくのが、一番良い。

さりげない配慮があると、客層がかわる。

窓際の鉢植えにオリーブの実がなっているイタリアンレストランは

中年層の女性の嗜好をくすぐるのだろうか?

落ち着いたタイプの客層が多いようにみえた。

店のつくりによっても、物静かに食事をとるムードと

会話が食事に華をそえる団欒のムードがあったりする。

物静か過ぎれば、光の差し込ませ方で明るい和やかなムードを強調させることもできる。

まあ、どっちにしろ、下見がてらにいってこなきゃならない。

時計をちらりと見上げる。

11時過ぎ・・。

今から、いけば、丁度よいか。

「次・・いってきます」

編集長に声をかけたら、

「あそこはな、エスプレッソが巧い」

「・・・・・・」

料理は・・どうなんだろうと?不安になりもするが、

編集長も下見にいったことは間違いない。

「こっちから、取材させてもらう以上はな・・」

にかっと笑ったけど

編集長は「押しがない」と思ったら、載せない人だから、

大丈夫なのは、間違いが無い。

ビストロで、たどりついて、みれば、

店先からなかなかのつくり。

もったないかと想うくらいの庭をつくり、

テラス風にしあげている。

テラスに面した窓は大きく開放感がある。

すこし街路より奥まっているから、通り行く人たちとは、

世界の区切りがつけられていて、

アメリカハナミズキがテラスの脇に枝をのばして、妙に優しい。

ビストロの世界の門番のようでもある。


奥の席に案内されて、ランチコースを注文する。

最初にやってきたのが、スープだったが、

皿の中に淡いオレンジと薄い紫の2色のスープ。

これは、これは。

まず、目で楽しませる。

なんのスープだろうと好奇心をひく。

綺麗に右と左に分かれている。

最新の注意で注ぎ込んだものだと想うとそれだけで嬉しくなる。

食べる前から、どちらからたべようか、

真ん中の場所をすくえば、二種類が口の中でブレンドされるだろう。

眺めているだけで楽しいところに口上がはじまる。

なになに?

オレンジ色がかぼちゃとにんじんのスープ

薄むらさきが、ジャガイモ・・?

紫芋じゃなくて?

え?紫キャベツ?

ほ~~~。

パッションフルーツを思わせる彩のくせに・・・。

さて、まずは、オレンジ色のスープ。

こりゃ、旨い・巧い。

ざらつきもないし、お互いの味を殺さず、素材の甘みがある・・・

薄むらさきいろ。

ひとくち、すする。

上品。じゃがいものくせのない味とキャベツ独特の青くささが、

ん?

ベースに紅茶をいれてる・・。

軽いほろ苦さがなんとも大人向き・・・。

スープから、この調子だった。

あとのものはといえば、

どれもこれも、斬新さと手の込んだものと、絶妙なマッチング。

サラダの上にチップのようにまかれたのが、自家製のスモークビーフ。

ドレッシングがトマトのみじん切りと刻んだパセリをあくぬきして、

たまねぎのすりおろしでなくて、かなり、細かく包丁でたたいたものを

ビネガーとヴァージンオイル?・・かすかなひきたての胡椒とこりゃあ・・岩塩か?

たまねぎがなじんでるから、何時間かねかせている。

シンプルなくせに・・・なに?この旨さ。

スズキのソテーに淡いオレンジクリーム。

ママレードソースの甘みをおさえた香草焼きのチキン。

パンも自家製。

無花果をまぜこんだ薄い紅色のプチフランス。

五穀をまぜた、ロール。

シンプルな普通のブレッド・・あ?絹のようなきめ細やかな肌・・。

バターとオリーブオイル。

そんなものつけるのももったいない。

そして、デザート。

エスプレッソとすこし、小さめにつくった自家製ミルクシャーベットとクリームブリュレ。


きがついたら、しっかり、客になってしまっていた。

3時から、いったん、店をしめるから、この時の撮影になるのだけど・・。

撮影するに、思い入れをもてる料理だったのが、嬉しい。

どうやって、この旨さと「あっ」をつたえようか・・。

 



3時からの撮影をおえて、デスクにかえってきたら、

もう6時近かった。

アップルにとりこんだものを編集長に見せる。

スモーク室のビーフを取り込んだものが一番良いという。

こりゃあ、特集くんでもいいなとか、ぶつぶつ、いっていたから、

別の記事がカットされるかもしれない。

とにかく、今日はこれでいい。に、して、帰宅。

アパートにたどり着くと、なぜか、奴がまた、居るきがしてくる。

神出鬼没を絵に描いたような奴だから、

昨日の今日で、

「やっぱ、やめた」

なんて・・ことはない。

奴のくさい臭いがまだ、玄関先にのこっているが、

靴もない。

そういえば・・。

あたしのベッド・・・。
寝室に先に、はいってみりゃ、まだ、くさい・・。

ベッドの横に奴の靴下がころがっていた。
なんだろ・・・・。

やけに、気がぬけたような・・。
物足りないのとも違う。

誰かが家に居る・・・なんてことがない生活に、突然の闖入者は、

あまりにも、存在感だけを残し去る。
元々、無かったはずのものがど~~んと占領してしまった空間は、

妙な臭いが残っているだけに、
残像が生々しすぎるのだろう。

コマ送りのストップモーションが、一瞬できえさった喪失感ににたものがある。
動き出そうとするものがもつ活力は、
ときに、じっと、とどまっている人間の心にうらやましさを与えてくる。

ひょっとして、

私も奴のように、自分を試し、確かめてみたいのかもしれない。



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