患者がどうやって殺されたか。
あたしがこのことを知るのは、明美からなんだけど、
その明美もあたしが手術室に入ってる間に
「殺された」んだ。
変な言い方だね。明美はチャンと生きてるよ。
だけど、あたしには、そうとしかいえない。
それをこれから話してみる。
哲司に取りすがったまま、明美は
何にもかんがえられなかったんだ。
もし、哲司が部隊にもどった上で死んだとしたら、
哲司の死は明美に知らされる事が無い。
だから、明美のなかでは、
哲司は「どこかでいきてる」
あるいは、
「どこかでいきてるかもしれない」
って、おもいつづけていられたんだ。
なのに、眼の前でおきた哲司の死。
だけど、明美は哲司の死をどうしても、容認できない。
眼の前の屍骸は哲司なのだ。
だけど、それを見てる明美は
明美なのだろうか?
「あたしは本当にあたし?」
明美は哲司の死を認めないために
自分の意識と精神を崩壊させようとしていたんだ。
ただ、愛しかった人をその胸にだいている。
この事実だけを明美のすべてにしてしまおうとしていたんだ。
なのに・・。
現実はいつも、覚醒を持ち込んでくる。
明美の傍に立っていた男は
明美に触手を伸ばし始めたんだ。
明美の看護服のすそを銃の先でめくり上げると
男はズボンのベルトをゆるめて、
こういったんだ。
「その男は、この銃でうってやった。
お前はオレの銃で撃ってやる」
哲司の命を奪ったものが銃ならば、
明美の愛を、心を奪うものも銃なのだろう。
明美は男からの暴行で
哲司と。哲司との愛を、いっぺんに
亡くしてしまおうと思ったんだ。
そう。明美はこのとき「死んだ」んだ。
男の銃にうたれ、明美は哲司と同じように
同じ男にころされたんだ。
愛が音をたてて、こわれてゆき、
明美の中を
男の『銃』だけが反復してゆく。
明美はこの時、哲司に殉じてゆく、
身体のうなりをきいた。
「哲司・・」
明美の身体は哲司をおいもとめている。
その覚醒が
哲司の死を認識させる。
明美はこの時・・・自分の死にざまを決め始めていたんだ。
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