憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

空に架かる橋  10

2022-09-17 15:56:14 | 「空に架かる橋」

あたしの目の前を血だらけの少年兵を背負った兵士が
通り過ぎた。
銃口を向けていた男はあたしと佐々木先生にこっちにこいと合図をすると、
少年を背負った男の後をついてゆけというようだった。
佐々木先生は
もうわかっていたんだろう。
背負われた少年の太ももの先は
両足とも・・・無かった。
診察室に入ると少年は
佐々木先生の仮眠ベッドにも使われていた
診察ベッドによこたえられた。
佐々木先生は少年をみつめていたけど・・。
少年を背負っていた男にむきなおると、
「無理だ」
と、首を振りながら告げた。
男は一瞬悲しい顔をしたけど、
「オペラチオン」
と、佐々木先生にいう。
手術をしてやってくれと言うんだ。
佐々木先生は
男の顔をみつめた。
男は同じ言葉を繰り返すだけだった。
時に無駄と判りながら、
患者を手術する事がある。
それは、
患者を治すためじゃない。
患者に近しい人間の心を
宥め、納得させるための手術ということもある。
最善を尽くしたという
宥めが近親者をすくってゆく。
近親者の心を治療する手術。
兵士がこの先をいきぬいてゆくにも、
悲しい悔いに縛られるのは酷なことだろう。
それは、又、男が少年の立場に立ったとき
仲間がそのときに出来る最善を尽くしてくれると言う保証でもある。
「判った。傷口の縫合しかできない。
だけど、命は・・・いつ、消えても不思議じゃない」
佐々木先生の言葉を男は理解しているようだった。
そして、あたしと佐々木先生が手術室に入る事になったんだけど・・。
手術の間、
露木先生は
もっとも惨い時間を味わう事になったんだ。
そして、明美も・・。



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