憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

井戸の柊次郎・壱 5 白蛇抄第8話

2022-08-28 17:35:14 | 井戸の柊次郎・壱  白蛇抄第8話

「陰陽ごとをなされると?」
男が尋ねてきた。
「はい」
居間に男を通し、白銅をよぶと、
ひのえは茶を入れて、男と話し始めた白銅の傍らに座った。
男は陰陽師であるという事を聞き及んだついでに
ひのえもまた陰陽師であると言う事もきかされていたようで、女子が話しに介在する様子に訝しげな顔を見せなかった。
「澄明さんですよね?」
名前もきかされているようである。
「白峰大神をしずめられた。あの澄明さんですよね?」
「あ・・はい」
白峰を鎮めたといわれると、違うともいえず
ひのえは頷くしかなかった。
元を正せば、ひのえのせいで、
白峰にあふりをあげさせてしまっているのである。
種を蒔いた本人が芽を摘むのはあたりまえのことであり、
いわんや、お前のせいであふりがあがった
といわれたとしても、しかたのないことである。
だがら、手柄ごとのように言われるのもづつないものがある。
ましてや、その鎮めがどんな方法であったか。
ひのえが、えもいわれぬ気分でおれば
白銅もさっするものがある。
「それで・・・なにか?」
と、男の話の先を促した。
「じつは・・・・」
男が話し出した事は十六になる娘の事であった。

夜半になると娘がひどく、うなされる。
初めはそうとしか、思わなかった。
が、決って同じ時刻。
そう、逢魔が刻といわれる丑三つ時になると、
娘はうなされる。
時もいやな時である。
男はうなされる娘の部屋を思い切って覗いてみる事にした。
「それが・・・・」
男は言い渋る。
「どうなされました」
「その・・・」
布団の上に仰臥する娘は裸身であった。
其の姿態は男を迎え入れる時のようであった。
が、そこには誰もいない。
誰もいないのであるが娘の体の中心は
何かが入り込むように蠢き、精汁が
粘っこく跡をひいてはほとをつたいおちてゆく。
男はやっと判ったという。
うなされていたと思った娘の声は
見えぬものに犯され、
快さに通じた女のよがる声でしかなかったのだと。
「確かに誰かがいるのにみえないということですか?」
行灯の光は興をそそるかのように明々とともされていた。
「まちがいはありません」
「ふむ」
なんの物の怪かは知らぬが、姿を隠して交情を成しえる?
今まで、聞いた事のないはなしではある。
「其の時、娘の・・・」
ほとからは、交接のさなかである事を物語る
くちゃくちゃと、ぬめりが絡んだ音がきこえていたという。
普通の人にはみえないものであるということであろうか?
「いちど、我らの目でたしかめさせてもらえぬでしょうか?」
「ええ」
娘の痴態の様をみせねばならないかという、
悲しい返事であった。
「私は隣の屋敷に住む柊二朗というものです」
「え?」
白銅とひのえは顔を見合わせた。
白銅が見透かした男と女の痴態の様があるという事が
これであるとするのなら、
最初に見た井戸の神の憂いはわかる。
が、やはり、何故あれから、
井戸の神はおどろしい思いを
こちらにまでむけるようになったのであろうか?
「ご亭主。井戸がありますな?」
白銅の問いに男、いや、柊二郎の顔色がさっと、変わった。
「何か、いわれはありませなんだか」
「あの井戸に?」
「何かがひそんでおります」
柊二郎は頭をだかえこんだ。



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