憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

拘束 ー7ー (犬夜叉 二次小説)

2022-11-27 11:05:24 | 拘束(蛮骨×蛇骨)

山中の今は人もこぬ荒れ寺を仮の棲家にして、独り。
蛮骨は湯治場に近い所を選んだ。
ようやっと、傷がふさがれば、癒しの湯こそありがたい。
「蛮骨兄貴・・」
戸口から入ってくる蛇骨を認めながら、蛮骨は大鉾を研ぐ手を休めもしない。
「来るなっていわれてたけど・・・」
約束を破ってはせ参じた自分の言い訳をいうよりも、蛇骨の目がとらえた光景に息をのむしかない。
「それ?」
何をしているのだと訊ねるまでもない。
蛮骨は黙って大鉾を研ぎ直している。
来るなと云う約束を破った蛇骨を咎める蛮骨でない事にふと安ずる。それはまた、蛮骨の傷が癒えはじめ、無様な手負いの姿を晒さなくてよくなった事をも現している。
傷がいえたらしい事は判った。
だが、
「ど・・どうする気きだ?」
傷が癒え始めた蛮骨が大鉾を研ぐということは、どういうつもりであるのか。
先の決戦で肩の傷だけでなく大鉾も刃毀れを生じさせている。
己の愛刀を、そのまま刃毀れの無残な姿でおくのは忍びない。
この気持ちは判る。
だが、今の蛮骨が万全の為に大鉾を研ぎ直しているだけとは思えない。
「兄貴?」
何を訊ねようとしている蛇骨なのか、感付いているはずの蛮骨であろうにやはり無言のままを崩さねば大鉾を研ぐ手を休めもしない。
『もう?もう?いくのか?』
犬めと雌雄を決する。今の蛮骨にはそれしかないのか?
蛇骨はそれを見送り、短すぎる邂逅を惜むしかできぬのか?
「蛇骨・・あのな・・」
ゆがみそうになる口元に必死の笑をうかべ、蛮骨に見せる顔を明るい物に繕おうとする、蛇骨がいる。
「なんだよ?」
大鉾の研ぎ具合を指で確かめ、光に翳す。
「俺は負ける」
蛮骨は何気なさそうにいう。
「な?・・なんで?」
たとえ、その通りであったとしても、こんなことを口に出す蛮骨である事が、にわかに信じられない。
蛮骨はゆっくりと大鉾を返し、反対側の光を確かめおえるとやっと、蛇骨をみつめた。
呆けた顔の蛇骨がその瞳に映らないのか、気にならないのか、蛮骨は静かな口調を崩すことなく言葉をたした。
「俺は自分が負けるなんて事をかんがえもしなかった」
だが、じっさい今の蛮骨は負けるといった。
それも恐ろしいほど静かに。
「俺は、負けると見極める自分を信じないことにしていた」
蛇骨は何をいえばいい。
違うといえばいいのか?
傷の痛みにちょいと臆病風がふきつけただけにすぎないといえばいいのか?
見つけられない言葉を飲み込ませる蛮骨の静かさが不気味な静寂の時をつくる。
沈黙の重さに耐え切れず蛇骨は、蛮骨の手に触れようとした。
言葉以外の物でしか言い表せない時がある。
蛇骨が伸ばした手を覆い返すように包むと蛮骨は言った。
「俺が、負けるのは俺に信じれる物がないせいだ」
そこまで判っていながら蛮骨は、何故、勝つと信じようとしないのか?
問いかける蛇骨の眼差しを覗き込んだ蛮骨の瞳は思いの他に明るい色をしていた。
「俺はずっと、考えた。何で俺が負けるのか?何で、アイツが勝つのか?何で、そう思わされるんだ?とな」
かすれた声になりながら蛇骨は聞いてみたかった。
「何でか・・、判ったというんだな?」
その答えを聞く事はとりもなおさず蛇骨も、蛮骨が負けると信じる事しか出来なくなるのかもしれない。
「アイツな・・・」
ふと犬めを思い浮かべたのか、蛮骨は酷く懐かしい者に逢った笑みをうかべていた。
「不思議な目の色をしてやがった」
「不思議?」
「蛇骨・・。俺はもっと、早く・・・」
蛮骨の手が蛇骨をひきよせる。
その力に逆らう事無く蛇骨の身体は蛮骨の胸の中に包れた。
「アイツは誰よりも何よりも自分を信じている。そんな目をしていた」
「そんな事が、どうしたという?」
自分を信じられるアイツだから、蛮骨は勝てないとおもうというのか?
蛇骨はよほど、一笑にふしてしまいたい思いをこらえ、蛮骨の答えを待った。
「アイツには、護るべき者がいる。護らなければ成らない存在を抱かえたアイツこそが、自分を一番、信じなければ、誰をも護ってやれなくなる」
蛮骨は蛇骨の頬をそっと、なぜた。
「アイツは、負けるわけにいかないんだ。たとえ、思い一つでも、負けるかもしれないなんて、信じやしない」
蛇骨は蛮骨の身体を抱きしめてやる事しか思いつけない。
護ってやる者が居ない蛮骨が、犬の覚悟に勝てる訳がない。
必ず勝つ事しか信じさせない「桔梗」と「かごめ」がいる。
二人に支えられた犬は自分の価値を信念にかえる。
負けるわけにいかない男と負けるかもしれない不安を抱く男と、この時点で既に勝敗が見える気がする。



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