憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―鬼の子(おんのこ)― 14 白蛇抄第14話

2022-09-06 07:05:43 | ―おんの子(鬼の子)―  白蛇抄第14話

指きりかと笑いながら悪童丸は小指をたてた。

「参らせ候。渡らせ候」

指きり唄をうたいだした勢に悪童丸がふきだした。

「勢・・それは・・意味が違う」

男と女の情恋の常。

今宵渡らせ、今宵参ろう。

僅かに赤らんだ耳元が勢の耳に識をいれたものがおり、

勢は意味合いを既に承知しているといっていた。

大人ばかりの中で育った勢は少しばかり耳がふけていたようである。

「おまえ・・しっておるか?」

大人の恋には、煩雑な感情が伴う。

その煩雑な感情が引き起こす事の一つが、先の指きり歌である。

「うん」

悪童丸が知るは理屈や噂話ではない。

春の野辺に集う獣はその存在さながら、

自然の営みを惜しげもなく悪童丸の目の中でくりひろげてみせる。

「ほたえと、いうんじゃ」

相手を求めずに置けない心が、さらに具体的な確証をほしがる。

苦しむ事を知らない勢も悪童丸も今は他人事でしかない。

僅かに嫁に行くこの先に

そのほたえに飲まれなければならないという虞があるぶんだけ、

勢の方がなまなましさをかんじている。

「男が皆おまえのようだといいのに」

無色透明。

山が育ちというのに、土臭い匂いひとつもない。

感情にいやな匂いが無い。

それが勢を落ち着かせてくれる。

異性に対しての不必要に波立つ感情もない。

「おまえは兄か弟のようじゃに」

「わしが事はわからぬが、勢は姉じやの」

「などか?」

「威張りんぼうじゃから・・・そういうておく」

たたき上げそうになる手をおろすと、勢が泣き出した。

城の中には勢と同じ年頃の者はいない。

勢が合える童は悪童丸だけであった。

「いつ・・いくんじゃ?」

涙を拭って問い直した。

「生まれた日が過ぎたらいく」

「それは?」

「あと十日」

「え?」

勢が目を見張った。

「なんじゃあ?」

「勢が生まれた日ももう・・十日ばかりじゃに」

「あ」

しもうた。いうてはならんことであった。

「同じ日にうまれておるのかや?」

なんだか、ますます近しく思えて嬉しい。

「ひょっとしたら、本当にきょうだいじゃったりして・・」

おんのこなぞと兄弟のわけがない。

疑うかけらのない心が事実を晒しているとも気が付くわけもない。

「じゃったら。勢・・角がはえてくるぞ」

「え?」

「爪もぐうううとのびて・・」

「あまり・・うれしゅうない」

「勢は人でよかったの。わしがひとじゃったら・・よかったかの?」

鬼の兄弟でなく人の兄弟なら勢はうれしいというてくれるのだろうか?

「いんやあ。お前は・・おまえじゃからいいんじゃ」

「おんのこでもか?」

「うん」

勢自身が鬼になりたいとは思いもしなかったが、

悪童丸の姿はけして、いやではない。

むしろ、心ひかれるものがある。

それが何ゆえの感情か、

どこから生じてくるものかさえも気が付かない勢は

既に鬼に惹かれていることにも、気が付いていなかった。

ましてや、鬼という象徴の中に、男。

勢を抱く男を嗅いでいたとは、まだ十一。

幼い少女が気が付くわけがなかった。

「でも・・お前がことはほんに、おとうとにおもえるぞ」

勢の言葉をかみ締めながら、

悪童丸はこの美しい姉を顔を瞳に焼き付けた。



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